東方魔剣術少年   作:mZu

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第103話

腕には重りがついているようだった。腕は十分に動きそうになく、脚は地面を削るように引きつっている。それでも風を扱っていてそれが上達しているような気はしている。手の中で風が遊んでいてそれがよく分かる。後は身体がついてこれるように鍛錬を積み重ねる所、か。

 

僕は灰色になった泥のような雲を見ていて、ふとその雲の隙間を見ていた。かなり疲れているのか視界はほんの少しだけ霞んでいるがそれはそのうち、この天候による寒さがなんとかしてくれるだろう。特に理由はないが幻想郷なのでそういう事にした。何が起ころうともそれは普遍的な所で異界から来た僕からすれば異端だと感じるだけなのだろう。取り敢えず今日は鍛錬を続けて明日の朝一番に向かう事にしよう。

 僕は今、剣を向けられている。顔の青白い白髪の少女が僕に対して殺意を露わにして切っ先を向けていた。

 

「ここを通すわけには行きません。ここで立ち去るか又は斬られてください」

 僕は一体、何をしたらこうなるのだろうか。確か、僕はなんとなくで登ってきただけでここがどこなのかを尋ねただけで、えっと。何があったけ?

 灰色の空には天まで昇る階段があった。一段一段の高さはほとんどなく、どちらかと言えば水平と言っても過言ではなかった。それほどの段差に何も意味はなさそうだが、少し考えてみる事にした。ここで基本的な移動として使える地歩を使えば良い練習になるのではないかと思った。勝手な想像だが、やる分には問題ないと思う。

 

 そう決めるとそれを行うためのものにしか見えなくなったところで僕は始める事にした。

 

 最初の一歩は低く、長く飛べるように跳ぶ。そこから次の足で段差を越えるギリギリを狙いながらその先の段差へと足を乗せる、その繰り返しで遂には景色が変わるところまでついた。

 

 石造りの小道に灯籠が並んでいる。灯火は小さく、見えない物だったが昼間のような明るさのある外では見えなくてもそう変わったことではないと思い、特に気にしない事にした。周りには木々が生えていて前には階段があり、屋敷のようなものがあった。それがただの屋敷というのならば、それは目が節穴なのだろうと思える。横に広がる塀は途中で木々で見えなくなっていた。それでも続いていると思われるが僕にはそれは見えなかったが風は教えてくれた。それと一人だけ何か作業をしているようだった。

 

 取り敢えず此処にいても何も始まらなさそうなので階段を昇ってからその人に聞いてみる事にしよう。幻想郷の人達はそれなりに優しいので此処が何処かくらいは教えてくれるだろう。

 

 そう思いながら僕は屋敷の前へと辿り着いた。人は余裕で入れる門の作りで僕は上を見て何人入りそうか、と思っていた。恐らく二人ぐらいは入れると思う。その奥には丁寧に手入れを施されている庭がある。そこで梯子を使いながら松の木を手入れしている緑色の服装をした少女。頭部には黒いリボンを結んでいて背中の腰の左側に鞘を携えている。かなり集中しているようで真剣な眼差しで松の木を手入れしていた。

 

 中に広がる石造りの小道を歩きながら僕は少し声をかけようか迷ったが、決心してかけてみる事にした。

 

「あの、すいません」

 少女は突然のことに驚き、梯子から転がり落ちそうになったところを堪えていた。

 

「驚かせないでくださいよ」

 かなり慌てていたが会話ぐらいは出来そうであった。会話ぐらいは、それは強く言っておきたい。

 

「これは申し訳ないです」

 

「あ、まさか幽々子様に何かしようとしている輩ではないですよね?」

 その人の名前はよく知らないが何かやましい気持ちがあって此処を訪れたわけではないのでそれには当てはまらないだろうと思った。

 

「いや、それは違いますよ」

 

「輩はそう言います。こうなれば追い払うしかありません」

 そう言うと、梯子を前に蹴飛ばしながら降りて素早く腰に携えている短い方の剣を抜いた。と言っても刀身の長さは二尺程度はある。僕は梯子を手で掴むと松の木に立てかけておいた。

 

「ここを通すわけには行きません。ここで立ち去るか又は斬られてください」

 

「いや、待ってくださいよ。少し落ち着きましょう」

 

「立ち去りますか?それとも私と刃を交えますか?」

 僕はどうやら変なところへ来てしまったらしい。もうこうなったらやるしかないのだろうか。僕は悩んだ。ただ、抵抗もせずに死ぬのは御免なので剣だけは抜いた。

 

「黄色の刀身。それになんの意味があるかは知りませんが私を侮辱するのはやめてください」

 その人は何か雰囲気が違う。人と変わりない感じだが、何処か儚いもので触れれば散る、花のようだった。それがどうしてここまで鬼気迫る表情をするのか。

 

「いいえ、別にそんなつもりはありません。これは僕の剣です」

 もう覚悟は決めた。斬らないように動きを止める。

 

 相手が地面を踏み込む。居合にも似た鞘に納めているような格好をして僕の方を向いていた。そこから発せられるのは何処か黒いものだった。

 

 地面を踏み抜き、全身を前へと突き出しながらその剣を振るう。それは桜の枝を斬るような美しいものだった『枝垂れ桜一閃』。

 

 僕にはこれをなんとかできる手段はなかった。間合いの外へ逃げる事、それが今の僕にできる事だった。

 

 その人は剣を下ろして切っ先を地面につけてから僕に向けていた。その剣にはやはり何も変わらない黒い何かがこべりついている。

 

「これでも届かないですか」

 正直に言うとその時の表情はまた別のものを見ているようだった。まるで後ろにいる霊でも見ているかのようで変に意識が向いてしまう。

 

「いいえ、しっかり届いています。見てください」

 僕は頬をその人に見せた。相手の剣は僕が避けるよりも早く届いていた。それを示すのにはこれが一番わかりやすかった。

 

「そうですか。なんか調子が狂いますが私は幽々子様を守ります!」

 その人の意思ははっきりとしていた。応えなくてもいいものだが、ある種そうする事が礼儀であるかのように思えた。それにここで辞めるのも相手の気持ちを無に返すようで悪いものだった。

 

 僕は剣をしっかりと構えた。次は当たらせもしない。左頬を拭うと手には血が付いていた。そして頬に走る痛みも目覚ましには丁度いいものだった。

 

 音は少なく、心地よい足音をしていた。動きは少なく、どこか来るのかも寸前までは分からなかった。これまでの相手とは違った屈辱を知っているからこそ出せる繊細さがあった。剣の残像は僕の近くを通って振り下ろされていた。

 

 僕にはそれを自分の身に当てないようにするのが限界だった。見えてこないのだ、次の一撃が。中腰に止まっている剣がいつこちらを向くのかそれさえ分からない。それを捌こうなんてそう易々と出来そうなものではなかった。

 

 逆手で持った剣が相手の剣を下から支える。その下、僕はそこを通って地面に膝をつけそうな程身を低くした。僕は其処から一回転を加えて間合いを取る。そして、適当に横薙ぎをして更なる追撃を防いだ。

 

「避けてばかりでは倒せるものも倒せませんよ?」

 その人の目は鋭かった。そして、僕に向けられた切っ先もそれと変わらなかった。だが、僕は倒そうとは思っていない、傷つけようとも思わない。僕は其処で剣を構えていた、左脚の太腿に刀身を当てて、右腕は軽く上げている。左肩を相手を見せながら突き刺す姿勢も同時に作り上げていた。

 

 白髪の少女も肩に背負っていた長い方の剣を取り出した。その長さは何方も僕の持っている剣よりも長い。間合いが相手の方が有利な場合はどうするか、それを考えた。長いだけなら一本で防いでから、何かを仕掛ければいいが相手も双剣。状況は変わらなかった。

 

 どうにも、僕は動けなかった。相手のことはよく見ている。だからこそ、動きたくなかった。

 

 沈黙、それも良かったが何も変わらない状況に焦りを感じたのは事実でここからどうしようか悩んだ。それこそ、何をしようか悩んだ。取り敢えず歩き出して間合いを詰めてみる。無策というわけではない。あることをしようとしていた。

 

 相手もそれを見ていて何もしないわけはなかった。一定の間合いを開け続ける。近づきも遠ざかりもしない。相手も狙っているのだろう、恐らく。僕は引き続き、同じ動作を繰り返していたが埒が明かない。軽く近づく事にした。地面を足裏で感じて、それをなくす。

 

 相手は急な移動に困惑させた。両腕をそれに合わせて振るう。僕は上半身を倒れ込ませるようにしてその斬撃を避ける、のではなく下から蹴り上げる『一ノ技派生 風刃脚』。右足の爪先には確かに当たった感覚があった。そのまま天と地をひっくり返して地面に着地する前に移動する先を変えた。空中で方向転換、其処から左側へと逃げ込む。

 

 地面を蹴る足音は辺りに散乱、一つに向いていた意識を希薄、僕の姿を隠蔽。

 

 低空から蹴り出した僕は身体の回転を使いながら、相手の両脚を蹴り飛ばした。その時には嫌な音がした。僕は全身に冷や汗をかいていた。あまりにもやり過ぎていたらしい。止まらない勢いのまま地面を滑ると反転。脚を刈られてその身を宙に浮かせていたところを僕は掴んだ。剣は地面に刺しているので万全の態勢で何とか事なきを得たと思う。僕はほっ、と一息吐いてから先ほどのことを謝ろうとしていた。しかしながら、それは相手は気に入らなかったらしい。

 

 僕のことを両手で剣を持ったまま押し倒して地面を転がると剣を構えていた。

 

「なぁにしてくれんですかぁ⁉︎」

 確実に予想だにしない行動に慌てているのだけはよく分かる。だが、僕にはあまりにも理解できなかった。

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