東方魔剣術少年   作:mZu

104 / 169
偽りの月と幻の剣士
第104話


 白髪の少女、両手には剣を持ち、切っ先のような視線を僕に送り続けている。しかしながら、白い雪のように儚く、美しい顔をしている。獣とは程遠い、花のような存在。

 

 殺意を剥き出しにした少女は語る。

 

「私を侮辱するのはやめて下さい。もうその態度には腹が立ちます」

 僕にはその言葉の意味はそれほど理解できないのだが、それでも何か違うとは思える。それは何処か別次元のもので感じ取ることはできなかった。

 

「そんなつもりはないです」

 一応の弁解をする僕だが、相手は聞く耳を持たなかった。一切の興味を失ったかのように盆から溢れた水は戻りそうになかった。

 

 相手は地面を蹴り出して肩に担ぐように剣を構えていた。速さこそあれど、大体の軌道は読めそうなので僕はその通りに剣を構えた。

 

 こちらに向けられている左肩から動き出した。

 

 綺麗な放物線を描いて僕から見て左上からその軌道の通りに剣は向かっていた。あまりにもわかりやすいので僕はこのままで良いのか悩んだ。それでも信じてみる事にした。

 

 綺麗な軌道、その先で待ち構えている僕の剣。もう逃げられない位置まで来ていると思う。それでも変わることはない。あともう少し。そうしたら、外側へと剣を弾ける。剣が当たる。

 

 透ける、剣が。

 

 その場にはなかったかのようでその場から消え去ろうとしていた。僕はその場で逃げようとした。当たるのは確実だろうが。

 

 当たる、剣が。

 

 透けてきた剣は僕の体を通り抜ける。其処に切られたような痛みはない。まるで霊のように嫌な感覚があった。完全に通り切ってもその嫌な感覚は抜けようとはしない。それはどうしようと変わりそうになかった。なかったからこそ、相手の剣は何なのか理解に苦しんだ。

 

 その勢いのまま僕は少女の体を使った突進を受ける。それにはしっかりと痛みがあり、感覚があった。それによって僕は余計に頭の中を巡っていく謎。それは深まるばかりで抜け出せそうにない。

 

 そして右腕の回転は同じ方向を向いていた。全くの同じなら斬られても何も問題はない。しかし、それで良いのだろうか。避けておくべきではないだろうか、と思ったがそれは少しだけ難しかった。あまりにも間隔が短い。その上、脚には従来の力はない。どうやら切れたらしい、僕のこの場の生命線である風が。

 

 ここから遠くに離れることも難しくなった。まさか、身体の限界よりも自分の一度に出来る風の補充の方が先に切れるとは思いもしなかった。

 

 逃げ切れない僕は更にもう一撃を貰う。其処から流れるように三撃目が来る。

 

 左腕を元の位置にに戻すかのように上へと打ち払うような一撃。僕はそれを半身になりながら軌道上から逃げ去る。更に四撃目、右腕を左腕と同じ方向へ持ってこようとしている。それは身を翻すだけでは避けれない。跳ぶか、しゃがむか二つに一つ。

 

 ……僕は跳ぶ事にした。

 

 自分の背中側へと地面を蹴り出しながら背中は地面を目掛けて突き進む。腰は曲げて衝撃を吸収、そして倒れた勢いを返すように起き上がろうすると上を相手の剣は通っていた。それから逃げるように起き上がり、更に一回転、前転を行なった。それから起き上がりつつ、後ろを見つめる。何もできていない僕にはそれを剣で受けることはできない、相手は双剣を同時に振るおうとしている。あの厄介な剣の通り抜けはどのようなぐらいで使えるのか未知数なのでこちらからは余計に何も出来なかった。

 

 それは相手には見え透いているのだろう。余裕があるような、そんな気はする。脚に剣を触れさせている僕には受け止めることも出来なかった。どうしようもないので代わりに避け続ける事にした。出来るだけ少ない力でどれだけ細かく動き続けることができるのか、それを考えていた。後はどれだけ風を感じるか 。それは自分の体を使って周りに起こっているものを利用する事にした。他にも感じ取れるものは何もかも使う事にした。

 

 だからこそ、僕は今のところやる事が多くて何処かを疎かになっていそうで怖い。右へ、左へ、前転して、後転して、前後左右全ての方向に体を動かし続けていた。段々と遅くなっているのを感じる。相手の速度は変わらないのだろうが自分の目が慣れたのか、避けることに専念しているので頭の感覚を目だけに集中できるのはそれだけでも幸いだと思う。

 

 しかしながら、相手の剣がこちらの体なんかを通り過ぎるのはどうしても理解出来ない。何があるのか、それが分からなければ此方としては何も施しようがない。このまま誰かが来るのを待っているのも良いがその確率は低い。なら、もう一層の事、突き抜けるか。それも少し怖い。僕にはこういう時の判断は遅いのだと思う。お父さんならこんな事で悩んだりしないのだろう。羨ましいものだが、ある意味では恨めしい事でもあった。

 小さい頃から剣を握らされていた僕はお父さんの背中を見て育った。使っている動きかたを真似ていた、それに準ずるように教えを乞うていた。いつかは勝てるとそう思いたい子供心に水を差したのは足技で全てを捌かれるようになったからだ。何をしているのかはいまだに分からないが何もかも無に帰すそれは僕にとっては絶望だった。相手は何も盗めるものがなかった。僕は剣を使い方を習いたいのに、脚技を使われては何も学べるものがなかった。ただ一つ分かっているとするならば、判断が早かった。常にそれは日常の動き方からもよく分かる。何事に置いても考えているところを見たことはない。しかしながら、そこそこ上手く回っている。それが不思議で仕方がなかった。あれさえあれば僕はどこまで勝てるのだろうか。教えてはくれないのだろうか?

 こうなれば全てを解明する。僕は急に動き出した。前へと身を倒した後、双剣は目の前の相手を斬ろうと動いていた。相手は唖然としたのだろう。それらしい顔を覗かせていた。だからと言って攻撃として与えたかと言えばそれは違う。何もかも異なる平行線。お互いの件は垂直に交わり、その力を相殺した。とてもではないが今の僕では勝てそうにない、この鍔迫り合い。

 

 僕は此処から動くしかなかった。間合いを一刀足、それよりも遠くに移動した。この勝負には何方にも意味合いがなくなっているのかもしれない。終わりがない、それはこの勝負の行方だと少なからず僕は思っている。相手は恐らく、大事な人を守るために刃を振るっているのだろう。僕には余裕なんてものは二重の意味でないがやれる限りはやろうと思っている。

 

「綺麗ですね」

 

「何が、言いたいんです?」

 

「そのままの意味です」

 

「命乞いのつもりですか?」

 

「全くそのつもりはありません」

 

「なら、どうして?」

 

「分かんないです。何も」

 

「本当に何なんですか!馬鹿にするのもいい加減にしてください」

 白髪の刀のような目をした少女は僕に対する敵意を剥き出しにした。僕は両脚の太ももに刀身を当てながらどこまで時間が持ちそうか、それが一番問題だった。

 

 確かに相手の剣を通り抜ける剣は美しいもので触れられないのもその理由が何となく頷ける。それだけではない。身体さえ通り抜けるそれは霊に近い存在と思っている。だからこそ、生死の理を超えた何かが其処にはあるのだろう。

 

 僕はもう止まることはしなかった。ある程度、脚には溜めれば少しくらいは動けるだろう。

 

 後は、自分の判断を見誤る事がなければ良いか。楽観的に考えておく事にした。頭の中をもう軽くさせた。次の動きは特に考えず、自分の感覚に何となく身を委ねてみる。一度、感覚を振り払うために剣を一回手首を使って縦に回す。

 

 左腕を逆手、右腕を下段で構える。腰を低くして何処からでも立ち向かえるようにした。

 

 僕は走り出す。そして、右腕を振り下ろそうとする。透き通るなら自分に対する一撃はどうする?先ほどのように通り抜けないのか、それとも受けることを承知で使い続けるのか。

 

 消す。

 

 失くす。

 

 その剣を。

 

 その刃を。

 

 その時の気分を。

 

 幻へと変えして夢とする。

 

 その先、剣は剣で止められた。

 

 その先、脚は身体で受け止められた。

 

 その先、通り抜けた剣は僕の体を突き抜けた。斬られた、という感覚よりかは金属らしきものが体を通っていることに関する気持ち悪さがあるのだが、それはもう今はどうでも良い事だった。あの能力は剣のみに有効、そして通り抜ける分には無害。それなら、全てを防ぐ。通り抜けても関係ない。

 

「僕は勝ちます」

 この勝負には制止者はいない。二人の熱意とその先の未来を賭けたものである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。