東方魔剣術少年   作:mZu

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第105話

 今更弁明をしようと結果は変わりはしない。それだけは僕も分かっている。それに、紛れもない事実として怪しい人物である事には変わりない。お互い初対面で特にそれほど言葉を交わさなかった。

 

「何という戯言を。私には理解しかねる」

 正直も僕も理解はできていない。何故に挑発的な発言をしたのか、しかも勝負に勝つなんていうありもしない概念を入れて。

 

「でも、負けたら死、ですよね」

 

「それは、確かにそうなるかもしれません」

 

「生きたいので勝ちます。それ以上はありません」

 

「承知」

 白髪の少女はその剣を鞘の中に入れようとしていた。しかしながら、それはまた違うものだった。溜め込む、自分の力や気迫その他必要そうなもの。その全てを賭けて僕にその技を持って相手しようとしていた。

 

 大地が割れ、目の前の空気の流れは僕の後ろへと逃げるように向かっていく。上半身が傾いた瞬間にはこちらへと来ていた『枝垂れ桜一閃 二連』。

 

 だからと言って慌てるようなことはない、順手である両腕はお互いにそっぽを向いていた。右腕の剣は上へと、左腕の剣は下へと向いていた。其処に相手の技は当たる。

 

 刹那、相手の剣は切っ先の方へと流されていた。まるで強力な同極の磁石の反発のように。相手の腕は大きくその身を外側へと向かせていた『七ノ技派生 二連疾流し』。

 

 其処から僕は空中での後転をしながら身体を丸めていた。その回転を利用し、逆手にした剣からは斬撃が飛ぶ。無防備な相手の胴体への攻撃。防ぐ事も避けることも出来なかった。その上、これにはもう一回ある。左腕から始まった斬撃は右腕へと出番が変わるとほぼ同じ軌道を描いていた『一ノ技派生・縦 二連風刃』。僕は逆手になった両腕で一度地面を触ると音もなく、スッ、と立ち上がった。少女はその場で動けずにいた。だからと言って倒れているわけではない、僕の斬撃は余りにも弱すぎた。かなり剣を受け流す事に使い過ぎたようだ。

 

 白髪の少女は立ち上がる、瞬時に詰められた間合いは僕には防御の一択しかなかった。

 

 右腕が振るわれる。それに付随した剣は僕から見て左上から放物線の軌道を描いていた。そして通り抜ける。

 

 防御という選択肢しかないのを見越してのこの一撃。ある種厄介な攻撃手段ではあった。まるでこちらが透かされているかのようなそんな感覚に陥る。最もそれは自分の未熟さが招いている事実だろうが。

 

 しかしながら、そういうことを余裕を持って考えていられるほど状況は楽なものではない。次の攻撃は至って普通に来ている。左腕を下から上へと振り上げるような軌道を描いている。

 

 僕は一歩後ろへと下がるしかなかった。少女の剣は僕の前で止まった。少し失敗をしたと思った。それでも、考えることは諦めなかった。此処から強引な突き刺しが来るのか、はたまたそれは囮で違う箇所から来させようとしているのか。

 

 だったら、大きく動く。

 

 足裏で蹴り出した地面、其処には足跡が軽く残る程度の力で後ろへと再度逃げ、左へと転がる。少女もそれにはついてこようとしていた。

 

 僕はこちらに視線を集めてから前へと転がり、間合いを急に詰める。その先では少女は急いで剣を振るう。

 

 僕はそれを見逃しはしなかった。素早くその軌道の前で待ち構えた僕の剣が相手の攻撃を無に帰した『七ノ技 疾流し』。弾けるように外側へと向けられた剣は暫く元に戻せそうになかった。その開けた奥地に僕は全身を捧げた一蹴りを見舞う『ニノ技派生 風凸脚』。

 

 左脚で着地した後、僕は周りを見渡そうとした。誰かがいるような気はするが目の前の少女なのか、はたまた違う人なのか。それを判断するには目の前の人の行動を止めてからしか何ともならなそうだった。その人の目は血走っている。あまりにもそもそも蹴った場所も分からない上にやり過ぎたようだ。必死に大丈夫そうなのを装っているがそれでも見えてしまうものはある。申し訳ない気持ちになった。

 

「もう辞めましょう」

 

「私は、幽々子様を、守りたい、です。だから、こそ、此処で、負けて、いられない」

 息も途切れ途切れ、偶々の一撃で此処まで追い込んでしまうとは僕は一体何をしたのだろうか、と思った。しかしながら、少女の殺気は死んでいない。それだけは確実に言えることだった。僕にはもう止めることは出来ないのかもしれない。終わらせないと、意味のないこの勝負。

 

「僕もそんなところです。辞めようなんて言いましたが一層の事、この勝負に決着を付けましょう」

 白髪の少女の先、黒髪の男は密かに笑う。

 

「賊とかそう言うのは関係ないです。もう止まりません」

 息を整えた矢先、こう言い放った少女は同時にその脚を地面から離していた。

 

 身体の回転を加えた双剣の連撃。強力だった。一撃目は透かされて二撃目は渾身の一撃。体を折りたたむのを余儀なくされた僕は地面を転がり、一度立ち上がる。

 

 少女はこの間合いを詰めてくるのか居合の構えをしている。腰に携えた鞘に納められた剣を握り、静かに佇んでいる。それは霊が其処に存在しているように不気味な感じで桜のように美しい。でも、その時間制限ももうそろそろ迫る。来る。

 

 来る!

 

 僕は剣を地面に突き立ててそこに収まるように身体を縮こませる。それから剣には風を纏わせておく。これまでやったことのない程の威力を咄嗟にしてしまったのだろう。何となく見えてしまう。

 

 少女の剣は腰を低くした分、地面を削るようなものだった。瞬き一つ、一瞬で近づかれた上に剣は既に抜かれていた。僕は腕の力を抜いていた。

 

 少女の一撃に回る自身の体。地面に突き刺さる剣。そして抜けてしまう剣。焼き切れる右頬。

 

 足の力も抜いていなければ首がさっくりと切れていたに違いない。僕は土埃に気をつけながら自分の体を横転させると脚を使って起き上がる。流れる血が首筋を伝う。気分が悪い上に気色が悪い。それでもそれだけで済んだのなら儲けものなのだろう。僕はそう思う事にした。

 

 でも、僕は止まらない。捨身の一撃とも似ている突進を見せる。地面に突き刺さり、微妙に手間取った少女に向かって左肩を胸の辺りに当てる。勢いよく吹き飛ぶ少女に残された剣は地面からは脱したもののその場に転がる結果となった。それを僕は飛び越えて前に突き進む。

 

 下から持ち上げた僕の剣は少女の抜いた剣に阻まれた。それから一歩離れた。

 

 予備動作のほぼない剣撃。鋭い切っ先は死の宣告のように目の前に現れる『斬霊剣 突き』。僕は避けはしたが間に合わなかった。左腕に風穴を開けられた僕はそれと同時に一度落とされた右腕を振り上げる。

 

「おーい、二人とも何やってんだ?」

 その金髪は空気の読めない発言を放った。僕も少女も戦う気はなくなった。


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