東方魔剣術少年   作:mZu

106 / 169
第106話

 先ほどまでの冷たい空気はころり、と変わり何事もなかったのようになっていた。黒いとんがり帽子に金色のカールをしている髪、右手にはその身の変わらぬ木製の箒を持っている。

 

「魔理沙さん⁉︎何かご用ですか?」

 

「それはこっちが聞きたいぜ、妖夢。何でヒカルと剣を違える結果になってんだ?」

 妖夢と魔理沙の口から言い放たれた少女はふと考えていた。最初は恐らく勘違いから始まったものだったが段々と意地のぶつかり合いに発展している事には言いようがない。僕だって段々とそうなってきた。言うならば、剣士としての意地というものだろう。

 

「負けるのが嫌でした。それだけです」

 

「そうかそうか。なら、ヒカルはどう思う?」

 

「真剣な様子だったので応えようと思いました」

 僕は少しだけ言葉をつまらせながら、頭の中で繋いだ文字を口から出していた。正直なところ、それ以外には嘘や偽りが混じるかもしれない。

 

「それでお前ら、こんなボロボロになるまでやってたのかよ?真剣にも程があるぜ」

 少しだけ魔理沙さんは笑っていた。正直なところ、僕もこの状況には笑うしかなかった。

 

「そうですね。何ででしょうか?」

 

「私はそれを聞いてんだぜ。妖夢はどうだ?」

 

「私は負けたくない、の一心でした」

 

「だったら、妖夢は負けたぜ。あのままやってたら首が飛ぶ。残念だったな」

 

「残念とはどういう事ですか!私が真剣にやった結果なら受け止めます」

 

「それなら死んでたぜ?」

 

「それはそうですが。私が未熟なばかりに」

 それは僕だってそうだ。それに後ろに男の影を見なければ僕は逆の立場になっていたかもしれない。ひとまず、傷を治すために患部に刀身を当てて、治れ治れと願いを届けていく。これにより、患部の止血や痛みを無くしたりできる。一時的に治るだけでそれ以上はないので多用は厳禁、後で医者に診てもらう必要はある。

 

「それは僕も変わりません。偶々が重なり合ってこうなりましたが、実際のところはどうだか」

 

「そんな、私も斬られていたのかもしれないですから。貴方の勝利にしたいです」

 

「いえ、そう言える自信はないもので」

 

「いやいや、貴方がーー」

 

「それは置いておいて、だ。いろいろな事はお前らに任せるとして夏に雪を降らせるとはどういう事だ?」

 魔理沙さんは僕たちのくだらない口喧嘩を辞めさせるために強引に話に割り込んだ。あきれ返った魔理沙さんの表情からは本当にそれだと思える。僕は黙る事にした。妖夢さんもそれは変わらないだろう。

 

「前にも春に雪を降らせた事のあるあの桜なら出来ない事もないだろう?」

 僕はよく知らない内容だが、それが本当ならばそれなりに重大な事になるだろう。

 

「それに関しては心外です。見てください。何も付いていない桜を。辛うじて生きているだけでいつ死んでもおかしくないです」

 

「まぁ、確かにそうだな。じゃあ、何だ?」

 魔理沙さんの視線の先、其処には大きな幹の桜だと思われるものがあった。かなりの距離があるが見上げるほどの高さで幹はとても覆えなさそうな程。景色の一部として壁か何かだと思っていた僕はそれを見たまま固まってしまった。

 

「それについては確かに疑いはあるのでここ数十日様子を見ています。何も変化がない間にそのような事態になっているとは思いませんでしたが」

 

「夏に雪が降るのは幻想郷だと偶にある事だと思ってましたが違うんですね」

 

「あってたまるか!季節がおかしくなっているぜ」

 魔理沙さんには少しだけ怒られてしまった。それでもそれは仕方のない事だと思っている。僕が無知だから。

 

「この人は幻想郷に慣れていないようですね」

 

「まあ、な。ここ数ヶ月だったな。三、四だったか?」

 僕はそれには答えられなかった。正直なところ、そのような数字には知識がない。それに月はどの程度で移り変わるのだろうか。さほど知らない。

 

「多分、そうだと思います」

 

「らしいな。それでヒカルっていう名前だ。前に聞いたことあるんじゃないか?」

 妖夢さんは口を丸くさせて固まると何か思い当たる節があるのか首を傾げる。それから悩んでいる様子を見せてから徐に口に出した。

 

「青年がここに訪れた時に話していたような気はします」

 

「私の目測通りだぜ。そんな訳で皆からは良くされていると思うぜ」

 

「それで紅魔館でも軽く入れた訳ですね」

 僕は割り込んだ。

 

「それは多分、昔からのよしみだ。お前が気にすることではないぜ」

 

「それもそうですね」

 

「そう言う訳でここでこいつの話は終わらせよう。少し幽々子にも話を聞きたいのだが、良いか?」

 

「疑いが晴れるのでしたら」

 妖夢さんはそれだけ言って踵を返すとふらり、と倒れた。僕も魔理沙さんもこの事態は予想できていなかったので驚いた。

 

「おいおい、何があった?そんな弱い体だったか?」

 なんて軽口は言っているが表情は真剣だった。

 

「いえ、強烈な一撃を鳩尾に受けまして。もう耐えれなくなりました」

 それからは言うまでもない。僕は咄嗟に横に近づいて声をかけた。

 

「怪我とかそう言うのはないですよね」

 疑問とも質問とも取れない口調であると自分では思う。ひとまず、気になったのは外傷の有無で内側のことは気にしなかった。鳩尾がどうの、とは言っていたがそれ以上は何ともできそうになかった。

 

「ちょっと待ってくださいね。今は上手く話せそうにないです」

 妖夢さんはそんな様子だった。

 

「おいおい、何をしたんだぜ?」

 

「僕も分かりません。かなり真剣でしたから」

 鳩尾は一発、後は回し蹴りを二発だっただろうか。その辺りは覚えているがそれが正解なのかそれとも間違いなのかは何も確証はなかった。それは時間の中で流れた物で辺りを漂っているのだろうがその居所は分からずじまい。

 

「取り敢えず、横にさせた方が良さそうか」

 

「先にある屋敷に寝かせましょうか」

 僕は周りを見ながらその先にあった大きな屋敷を見つけた。相当、意識を妖夢さんに向けていたのか、大きな二つのものを見逃していた。

 

「そうだな。立てそうか?」

 

「それなら僕が運びます」

 

「おお、そうか。親子でも違う物だな」

 

「そうですか」

 少しだけ流すように笑いかけながら、僕は妖夢さんの左手を取った。柔らかくて細めな腕。これで剣を振っていたと考えると何か違うものが浮かび上がってくる。それ以上にキズモノにしていないか気になった。

 

「キズモノになってないと良いのですが」

 

「何でそんな心配しないといけないんだぜ?」

 

「男として責任を取らないといけないんじゃないですか。まだ僕にはそれを負えません」

 

「もし、そうなったらどうするつもりだ?」

 

「全力で傷の手当てをします。その後、全力で身の回りのお世話をしようと思います」

 

「それなら、妖夢も喜びそうだな?妖夢、こんな奴が婿ならさぞ羨ましいぞ」

 先程からモゾモゾと背中が動いていた。妖夢さんの位置が少し悪かったのだろうかと顔を後ろに向けようとしたがすぐに左腕で直された。そして、前を向いていれば良いです、とも。

 

「僕、何かやりました?」

 

「いいや、何も問題はないぜ。ただな、その思いは本当にそうなった時に言ってやんな」

 魔理沙さんの発言からは少しだけいたずら心があるように思えたがそれが本物なのかはよく分からない。僕は仕方なくその屋敷へと向かうことにした。】

 

 紅魔館とは違う屋敷で縁側があり、襖で仕切られていると思われる空間がある。少し永遠亭とも似ているようだが、種類的にはほとんど同じものになるのだろうか。僕の目には知識不足の余り、似ているとしか思えなかった。

 

 その縁側では、水色の被り物をした女性が茶を啜っていた。頭部を覆う白い布が付いている帽子でピンク色の短い髪がそこからは見え隠れしていた。帽子と同じ色をしている着物で首元、肘、裾のあたりに白いフリルを付けている。何より一番目を引くのは白い紐で付けられた頭にある三角形のもの。これはつまり死者を示していると何処かで見たか聞いた事はある。落ち着いた雰囲気で優しそうな人だ。

 

「よぉ、幽々子。元気にしてたか?」

 

「元気よぉ」

 魔理沙さんの軽口に軽く乗っかってきたこの人にはまるでカリスマ性がなかった。ただ、これも一種のカリスマというのならば学ぶべき事なのだろう。それにしてもこの人が妖夢さんが守りたかった幽々子様、なのだと思うとどのような役割を持っているのかふと気になる。

 

「少し聞きたいがまずは妖夢を横にさせたい。何処か良い場所はあるか?」

 

「それなら早く男の人から降ろしてあげたら?勝手に横になると思うわ。ねぇ、妖夢?私は大賛成よ。青年の息子ですもの」

 少し首を回してからゆっくりとした話し方でつらつらと言葉を並べた。

 

「ははは。さっきの話、聞いてただろ?」

 

「そうね。少しだけだけどあながち間違いでもないかしら?」

 

「もう、幽々子様!それ以上は駄目です」

 

「お顔が真っ赤よ?」

 妖夢さんはそれを言われてから勝てないと感じたのか、頭突きをする世に僕の背中に顔を埋めた。しばらく、ここから動いてくれ無さそうなので鍛錬がてらこのままにしておこうか。

 

「もしかして、ここにお父さんが来てますか?」

 

「連絡だけだったけどね。一応来たわよ」

 

「来たんですね」

 

「こんなしみったれた話をしに来たわけじゃねぇぜ。今、下界では雪が降ってんだが何か心当たりはないか?」

 

「前の異変を真似ているなら、あの桜が原因だろうけど何も変化がないから何とも言えないわ」

 

「やっぱりそうなるよな」

 魔理沙さんは困ったような顔をしていた。確かに枯れていると思われるがその木が何かするようには見えなかった。そもそもそんなことが可能なのか、と聞きたいが実際にあったのだからもう何も言えないだろう。妖夢さんが落ちそうだったので軽く跳んで良い感じの位置に戻した。

 

「妖夢と相談して経過を見てみることにしたけど間違いだったようね。貴女が来たのだから、霊夢が来るのももう少しでしょう。そうなれば紫に任せてみようかしら」

 紫、という人がどのような人かはそれほど知らないが恐らくこの一件に関与できる人物なのだろうと思う。そして幽々子さんと肩を並べるだけの人物。油断なんて言葉はこの時の辞書には調べれば簡単に出てくるのだろう。

 

「取り敢えず、まとめると二人は下界で起こっている異変については何も知らないんだな。じゃあ、聞くが何か思い当たる節はないか?こうなったら皆で解決しちまおうぜ」

 

「妖夢が言っていた話なら、ほんの少しだけ活動が活発になった?のよね。ほんの少しだけよ」

 かなり少しだけを強調した話をしている幽々子さんだが、それが本当なのだろうと思う。これは僕自身の勘だ。

 

「例えるならどんな感じだ?」

 

「妖夢の言葉をそのまま言うなら、死にそうなところで踏ん張っているだけ、だったかしら?」

 

「そんな程度で一面の雪が降るまでになるかと言われると難しいところか」

 うーん、と唸る魔理沙さんは異変を解決へ導こうと必死になっていた。そう思うと自分がどれだけ若いかは言うまでもないのではないだろうか。

 

「でも、疑いが晴れないの確かだわ。逆に誰がやったのかそれが分からないもの」

 

「言われてみや、そうだったぜ」

 

「もう良い加減おろしてください」

 小声で妖夢さんは僕に話しかけてきたので縁側に座らせるように体を動かしていた。

 

「困ったものね。あ、そう言えば聞いた話だけど天候を操れる人が居たわよね」

 

「比名那居 天子だったな。それにしては範囲が広すぎる。幻想郷の南側も東側もそう変わらず雪が積もっていた」

 

「妖怪の山でも雪が降ってますよ」

 

「おお、そうか。それは助かるぜ。こうなりゃ、もうその線はない」

 

「そうね。そうなったらこの木が原因でしょうけどどうするつもりなの?」

 あの大木をどうにかしようと思うと相当な重労働になるだろう。それを幽々子さんは軽く話している。現実味のない話に余裕な表情を浮かべる幽々子さんで不均等な感じが出ていた。

 

「横暴な手だが、燃やし尽くすのも良いかもしれない」

 

「その理由だけ聞かせて?」

 幽々子さんは魔理沙さんのこの言葉に疑問だけ投げかけていた。僕からするとありえない話なのだが、幻想郷に慣れた人なら案外余裕なのかもしれない。僕は一応黙っておくことにした。

 

「取り敢えず、あの木の生命力を絶てばそれで異変は解決するだろうと考えたぜ。それを私がやろうとすると焼き切るしかないだけだ」

 

「私は別に興味はないから良いけれど、妖夢はどう思う?」

 

「私ですか?幽々子様が良いと仰るならば私は全力で全うするのみです」

 

「決まりね」

 幽々子さんは一つ、手を叩いてこの話には終わりをつけた。だからと言って異変の解決には至っていないので何をするのかと言うと……。

 

「お茶でも飲んでから皆で解決しましょう?」

 

「私はすぐでも良いだがな。仕方ねぇ、付き合ってやるぜ」

 魔理沙さんがそう言うので僕もそうする事にした。ただし、それをするのは完全回復していない妖夢なので僕は運ぶのを手伝うことにした。】

 

 

 灰色の壁、突き抜ける一つの影。赤い服装と髪についている大きな赤いリボン。それから、右手に持っている幣、お祓い棒を武器とする巫女。

 

 博麗 霊夢は段のない階段を周りを飛び去り、上へと辿り着いた。其処には石造りの道とその周りには灯篭が立ち並んでいて白い石が規則正しく置かれていた。落ち葉の一つ、雑草の一つを生えていないその様はここの庭師がどれだけ繊細なのか、どれだけ真剣なのかが窺える。しかし霊夢にはただの風景、通り過ぎる際に横目に入るのみで気にする様子はなかった。

 

 階段も塀も飛び越えて屋敷へと直行した。土埃を上げ、その場へ現れた霊夢は庭師の努力も虚しく辺りを散らかした。

 

「アンタでしょ?この異変の主!」

 霊夢は手持ちのお祓い棒でズブシッ、と突き立てた桃色の髪をしている水色の落ち着いた色合いをしているその人は首を傾げるだけで優しい笑顔を振りまいていた。

 

「まぁ、待て。もうそろそろ異変は解決するからお茶でも飲んでゆっくりとしようぜ」

 金色の髪、そして黒いとんがり帽子の昔からの霊夢とは交友のある魔理沙はその人の横で座っていた。他の人は呆然としている。ある意味、差別のような眼差しを受けた霊夢は右手を震わせていた。

 

「冗談じゃないわ!ここで私が異変を解決しないといけないのよ。協力しなさい。どうせ、こいつを倒せば良いんでしょ?」

 霊夢にとって、異変解決とは信仰を得るために必要な事だった。そして信仰がなくなれば幻想郷を覆う大結界が効力を失う。そうなれば、ここに居る少年のような異世界から来る人が現れる。そして、何より賽銭がない神社なのでそもそも生活がもう既に傾いている。それなのに相手は誰も何も協力しようとはしない。

 

「そう言う急いだ気持ちは何処かで対価を支払う事になりますよ。今は落ち着きましょう」

 少年はポツリ、と言う。その声に悪意はない。しかし、霊夢にとってそれは悪意のない悪意だった。ここまでの自分の努力を溢され、元には戻りそうにない。そんな気持ちが霊夢の中で込み上げてきた。

 

「落ち着いていられるとでも⁉︎そんな時間はないのよ」

 すると、少年は何も言わなくなった。その代わり、高みの見物のばかりに茶を啜る。

 

「まずは紫と話し合いたいわ。それからでも良いでしょう」

 

「そんなの要らないわ!これは私がアンタを倒してあの木に何らかの力を注ぎ込むのをやめさせれば良いだけ!早く倒されなさい」

 袖から赤い文字と模様が描かれた札を取り出しながら、霊夢は威嚇を通り越した仕掛ける一歩手前まで来ていた。

 

「辞めろ!霊夢、どうしちまったんだ?何があった?」

 

「うるさいわ。これでも私は大真面目なのよ」

 霊夢にとって、これは生活を維持するために必要になるもの。それ以外には何もない。ただ、目の前の敵を倒して異変の原因を解決させる。それの何が悪い?私は何か変なことでもしたのだろうか?否、私は幻想郷を守る巫女であるはず。霊夢はそう考えただろう。手に持っている札は宙を舞い、桜にも似た色をしている髪の女性へと向けられた。

 

 四方向から弧を描いてその人へと向かられた札は寸前ではたき落とされた。効力を失った札はただの紙切れとなり、地面に落ちた。

 

「霊夢さん、もう異変は大方解決しました。それでも幽々子さんを倒そうとするならば、僕は黙ってませんよ」

 少年はあまりにも目に余る霊夢の行動には怒っているようだ。無理もない、急に来た上に勝手に異変の犯人に仕立て上げようとしたのだから。そして、それを平然と正義として実行しようとしているのだから。

 

「うふふ。かっこいいわよ」

 

「今は茶化さないでください」

 少年は幽々子を怒鳴りつけるようだった。気が昂っているのだろう、それだけ持っている剣の震えはしっかりと目に見えるものだった。

 

「アンタ、私に刃向かうことは何を意味しているのか、分かってる?」

 

「全く。ただ、霊夢さんの今の行いは許されるものではないです」

 少年のその言葉には確かな重みがあった。それが分からない霊夢でもなかった。ただ、幻想郷については何も知らない青二才に言われて腹が立たないわけではない。

 

「アンタ如きがその口振りをするんじゃないわ」

 

「霊夢、本当にどうしちまったんだ?私たちは大方異変は解決させたぜ。何が不満なんだ?」

 

「私が解決しないと駄目なのよ。アンタ達には分からないでしょうね!」

 霊夢の声に全く怯えることなく、少年はゆっくりとした落ち着いた声で対話を行う。

 

「何か急いでいる理由は分かりませんが、色々なものを失いますよ。それに得たとして何か対価のあるものでしかないです」

 

「例えば?何があるのよ?」

 

「友人を失ったり。それこそ、人気なんてものも。挙句、取り返しがつかない事になるでしょう」

 

「こいつの言う通りだぜ。私も助けてやるぜ」

 

「魔理沙も何しているのよ?私の宿敵でもあり味方でしょ?此処は私に協力しなさい」

 魔理沙の意味の不明である行為は霊夢にはやはり理解が出来なかった。それこそ、飼い犬に噛まれたような気分なのだろう。

 

「霊夢が生活に困っていることも信仰が足りなくて悩んでいることも知っている。けどな、こいつの言う通り失いかけてるぜ。頭を冷やせ、霊夢」

 

「アンタまで裏切るの⁉︎」

 

「裏切りじゃねぇ。正しいと思える此奴に一旦加担するだけだぜ」

 

「一体何してるのよ?霊夢」

 もうそろそろ始まりそうだったのをある一人が話しかけて止めた。突如として現れたその人は空中から顔を出していた。それだけではない。紫色の扇子を口元で隠している太極図のようなものが描かれた服装をしている。頭には白いナイトキャップのようなものを被り、長い艶やかな金色の髪をしている色気のある女性。

 

「丁度いいわ。あの二人を止めなさい」

 

「待って紫。この二人は私を守ってくれただけよ。この件には全く関係ないわ」

 

「そう。幽々子がそう言うならそう言う事にしておくわ。それに何故こうなったのか説明をお願いしたいわ」

 紫と呼ばれたその人は空中に空いた穴から身体全身を出すとゆっくりと歩いていた。少年はもう戦う気は無いのか、剣を鞘の中に納めていた。そして、その人が幽々子の元へと行く際に通る道を開けていた。

 

「ええ、良いわよ」

 にっこりとした笑顔を見せているがその裏には何があるのか分かったものでは無い。周りには微妙な緊迫感のある空気が流れた。

 

「それでまずはーーという事があったの」

 

「取り敢えず、幽々子達が人為的に起こした異変ではないのね。そして、霊夢がそれを勘違いした形で二人がそれを止めている、と。分かったわ」

 

「そんな感じで良いわ。それで今はお茶を飲んで休憩していたところ。妖夢とこの人が戦っていたから疲れたと思って」

 

「……確かに男には頬に傷があるわね」

 紫はひらひらと扇子をあおぐ。そこで起こった風が彼女の前髪を遊ばせていた。その間から覗く殺意のような強い眼差しは幽々子とは別の方向に向いていた。

 

「それで気分を損ねちゃったからどうしようかな、って」

 

「それは申し訳なかったわね。それでは、私が指揮を取るわ。幽々子は休んでなさい。男は借りていくわよ」

 

「任せるわ」

 その後にも続きそうな言葉だが、口からはそれ以上は出現しなかった。それだけにまたもや嫌な雰囲気はその辺りを漂う。二人の間ではかなりのせめぎ合いを行なっていると思われる。そして、それを止められる人物はこの中にな居なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。