東方魔剣術少年   作:mZu

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第107話

 最早、焼き切ろうなんてことは出来ないのではないだろうか、そう考えるまでには見上げるほどの大きさと植物として何年生きていたのかは想像できないほどの大きさをしていた。この木は桜の木で今まで満開まで咲いたことはないが生きてはいるらしい。名前は西行妖と言い、幽々子さんの名字である事を近づいていった時に事前に僕が聞いておいた。これからこれを焼き切ろうと考えた魔理沙さんに、かなりの気の荒立て方から少々疲れた様子の霊夢さん、そして現場責任を任された妖夢さんに居るついでに見学をしたいと自ら申し出た僕と見守り人の紫さんが西行妖の前には居た。

 

「それでは、始めなさい。万が一の時は私が避難させてあげるわ」

 

「早速私から行かせてもらうぜ」

 何処からともなくポケットから小さな八卦炉を取り出した魔理沙さんはゆっくりと構えてから両手で持ち、目の前の標的に向かうようにある程度調整した。それから力を込めているのか、魔理沙さんは力み始めた。

 

 小さな八卦炉の先からは何かが出ようとしているが魔理沙さんができる限り溜めようとしているので溢れそうなところで踏ん張っている。風に吹かされている髪も衣服もこれからの強力な一撃を予見させるようだった。

 

「早めに逃げとけ。相当な威力で放つ」

 

「そんなんで異変解決の場からいなくなるとでも思ってるの?私は博麗の巫女よ。分かってるでしょ?」

 

「そういう意味じゃねぇよ。行くぜ」

 マスタースパーク、魔理沙さんはそのように叫んだ。その声に呼応するように小さな八卦炉に溜められていたエネルギーは目の前の西行妖に放たれた。白色の太い光線は瞬く間に目の前の光景を変えていった。しかしながら、その事については誰も何も言わなかった。もう見慣れているのだろう。僕ももうそろそろ慣れていないと心臓が保ちそうにない。

 

 西行妖とマスタースパークと呼ばれる光線が織り成す轟音が鳴り止み、何事もないかのように終わった。魔理沙さんは少しだけ疲れているようだった。それは無理もない話なのかもしれないがそれによる対価はあまりにも不釣り合いのものだった。

 

「何も傷がついていませんね」

 妖夢さんはポツリ、と申し訳なさそうに呟いた。僕は魔理沙さんの健闘を讃えようかと思ったが、それは霊夢さんが邪魔した。どれだけ自分の利益にしようとしているか、その浅はかさは目に余る。

 

「なら、私がやるしかなさそうね」

 どこからそのような笑顔が出せるのか、それについては疑問だが、何も言うことはできなかった。それとも何か違うものがあるようだった。

 

「やりなさい、霊夢」

 保護者らしき立場にいた紫さんの霊夢さんの粗暴な態度には何も言わなかった。僕も何も言わない事にした。

 

 霊夢さんが何かの準備をしている間、僕は左手で柄を握ると、軽く抜刀していた。そして目を閉じて風を感じ取っていた。より多くの、そしてより強い風をその剣に纏わせていた。霊夢さんが成功させるなら、それも良いかもしれない。だが、僕も出る機会があるならそれはそれで有難いものではある。

 

 目を閉じている間、僕は外で何が起こっているのかは何も分からなかった。連射のような細かくて素早い音がしているのを耳の中に入れた。それ以外は何もなかった。まるで西行妖が侵入を拒んでいるようで悲しいくらいに傷なんてつけられなかったのだろう。死にかけの木に此処までやろうとする事になるとは思いもしなかった。

 

「僕がやります」

 僕の声は意外にも静かだった。

 

 僕の左手が剣を完全に抜き去り、右手を柄に添えた。それから心を落ち着かせる。全ての存在を消し去る。それから強風を思い描くことにした。身体を縮み込ませて耐えるしかないこの風を僕は剣に纏わせた。とてもではないが剣は重たい。脚にもその負荷はかかり、地面に敷かれている砂利が音を鳴らした。とてもではないが、今の僕にはこれ以上は耐えられそうになかった。

 

 ゆっくりと肩と同じ位置に構えて肩よりも後ろへと剣を持っていく。それに合わせて、腰を捻る。それから僕は思い切りそれを右へと振るう。その際に、集めた風は全て陰の魔法元素で薄く包んだ剣に纏わせるようにした。中で反響するようにどんどんとその活動を広げていた。自分の腕が振れる限界を迎え、腕を折り曲げるようにしながら背中を通してもう一度肩の後ろまで運ぶ。その時でも既に危ないほどだった。それでもまだ僕は引っ張った。この一撃に全てを込めるように僕は目の前に西行妖に向かってこの技を放った『五ノ技 絶狂嵐』。

 

 一撃だけだった。僕が目を開けていた時には西行妖は後ろへと倒れていた。少しだけ斜めに切り込みの入った西行妖はその坂を滑り込むようにして倒れたのだと思う。僕はすぐに全ての方向に風を放った。その風は一瞬で周りの情報を教えてくれる。周りには四人、館には二人。僕ではない誰かがこの異変を解決した。

 

 僕はそれが誰なのか不思議で仕方がなかった。そして、ある種の力不足を痛感した悔しさもあった。


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