東方魔剣術少年   作:mZu

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第109話

 椛さんに連れられ、空中散歩を楽しんだ後は博麗神社へと辿り着いた。妖怪の山からはそれなりの距離がある。大体、永遠亭くらいはあるのではないか、と勝手ながら思ってしまう。僕の中での昨日と変わらず、人数自体は少なかった。そして頭に二本の角を生やしている人に椛さんと一緒に向かうと椛さんは一枚の板が取り付けられている底の厚いと言って良いのか判断のつかない下駄を脱ぐと僕はその隣に裏生地が硬めは素材でできている草鞋を脱いで青いシートの上に足を乗せることにした。

 

「久しいなぁ。一匹狼も誰かを引き連れるほどになるとは」

 これも昨日聞いた話だった。連日の宴会なら今日この話をしているのは少しどころではない疑問が浮かんでくる。そしてこの返答は何となく覚えている。

 

「それは昔の話です」

 昨日はあまり気にならなかったが改めて見ると何処か含みのある言い方をしているように感じた。椛さんと萃香さんは何処かで知り合っていと思われるが良い関係ではなかったように感じてしまうのは僕だけなのだろうか。

 

「男も気を付けろよ。いつ、牙を剥くか分かったもんではないからな」

 

「もう大丈夫だと思いますよ」

 

「お、言うねぇ」

 

「そういう訳で昔の話はこの程度で。今は異変の解決を祝いましょう」

 昨日と変わらず、杯に入った液体を湯水のように飲み干していく姿はどこか圧巻とするものだった。これこそが鬼と言えるような雰囲気だった。

 

「そうだねぇ。ただ、久しい顔を見たらそういう話になるのは仕方ないだろう」

 

「萃香さん、良い加減にしてください」

 椛さんには悪いが僕はその話が気になった。お父さんもそれほど話さないどころか、全く話してはくれなかった。それに椛さんがどのような人なのかはこの人が一番知っていると思えた。

 

「萃香さん、少しだけ聞かせてくれませんか?」

 

「肝が据わってんねぇ。隣を見てみなよ」

 隣には椛さんが居る。この話の流れからあまりにも強引に引き込んだせいかかなり危ない状況になっているような気もしないでもないが、椛さんの目を見ることにした。

 

「良いですよね?」

 長い沈黙。椛さんの目は見慣れたものとは言え、鬼を脅かすようなほどの威力が持ち合わせているのは事実。萃香さんも正座に座り直すほどだった。

 

「……仕方ないですね」

 

「という訳で、萃香さん宜しいですか?」

 

「アハ、ハ、ハ。ソウダネェ。ハナソウカ」

 カチコミに凝り固まった萃香さんはその口から震え声が出ていた。しかも棒読みで其処にはある意味では感情の篭っていないのがよく分かる。それでも、僕の興味が薄れることはなかった。

 

「二人が初めて会った時から聞きたいです」

 

「ほら、萃香さん。早く説明してあげてください」

 

「はい、分かりました」

 半ば恐喝のような状況だが、決してそのようなことはない。それどころか、何もやましいことはしていないのにも関わらず、このような状況になっているのが不思議で仕方なかった。

 

「あれは、二百年くらいか前か。あの時は今みたいに妖怪と人間は共存はしていなかった」

 その走り出しからこの話は進んだ。萃香さんの口によって椛さんに強制されているような感覚に襲われながらも行き先に向かって歩みを始めていた。僕はその全ては難しいかもしれないが出来るだけ多くのことを学ぼうとはした。

 二百年前、妖怪と人間は共生はしていないどころか、強い者が勝ち残り、弱い者は食い散らかされるような時代だった。その当時の妖怪の山は守矢神社などはなく、その代わりに鬼の中でも四天王と呼ばれる鬼が暮らしている屋敷があったとのこと。鬼というのは幻想郷の神、妖怪、人間という大まかな図式の中では妖怪として位置付けられ、その中でも最上位の中でも選りすぐりと言われるくらいだった。それは正しく、妖怪を統括していた、と言っても大凡は真実であるほどだった。例外なく、妖怪の山でも鬼、天狗、河童の順ではあったがそれを全く受けない人がいた。その人が犬走

椛。彼女は縦の序列が厳しい社会の中で一匹狼として暮らしていた。

 

 実際のところ、天狗の中にも烏天狗と白狼天狗が居て、上下できっちりと分けられていた。白狼天狗である犬走 椛もその枠組みに入るはずだったが彼女の持っている能力がそうはさせなかった。千里眼、正に千里先まで見渡すことの出来る彼女が白狼天狗として哨戒の仕事に準じてきたのならば、他の白狼天狗はお役御免となる。それを危惧した天狗の長が切り離す形で犬走 椛を一匹狼として、一人の種族として独立させた。そのくらいの話らしい。ここまでは二人から聞いた話を僕なりに解釈してみたものだ。

 

 白い髪を後ろで一つに纏めた白色の毛皮のような服に濁った赤色が飛び散ったような装飾のある服装をしていた椛は何も怖くなかった。それこそ、若気の至りとして少々やんちゃな事もしていたとの事。下は紅葉が散らばった黒色の布であるが其処にも上と変わらない装飾がされていた。

 

 本人曰く、何かの気の迷いで訪れたのが鬼の屋敷だった。先ほども話した通り、鬼の四天王が住処として利用していたところだったが当時の椛さんからするとそのような事はどうでも良かったとのこと。其処で相手をしたのが伊吹 萃香さん。萃香さんは最初のうちはいたずらの一種とのことで大らかに話をしていたそうだが、服装を見てから鬼としての血、純粋な力勝負がしたくて仕方がなかったので勝負を受けたらしい。

 

 最初、牽制のつもりで一発殴った萃香さんだったが呆気なく仕返しをされた。真正面から受け止めた椛さんの拳が萃香さんの拳を退かせた。それだけでも逃げをしないはずの鬼が負けた、と言っても過言ではなくなってきた。それを感じた萃香さんは今までのようには行かなくなったらしい。更に言えば、椛さんは然程力は込めていないらしく、相討ち程度で又は少し負けるくらいのつもりであったらしい。その時から椛さんは鬼に匹敵するような力を持ち合わせていたのはそれほどに鍛錬と経験を積んだからだそう。僕には正直なところ、よく分かっていない。

 

 一発だけ受けた萃香さんはその場で鬼にも関わらず怖気付いてしまったそうだが、それを出すわけにもいかない。それがある意味での萃香さんの苦い過去を生み出すことになったのだそう。もう一度先程よりも力を込めて放った一発は椛さんの右手の中に吸い込まれた。拳をぶつけもしない椛さんはその場でその右手を起点に押し返した。萃香さんはそれに圧倒され、椛さんは左手に持っていた盾を捨てた。腰には携えていた大剣には手を触れようともせず、型というものでもない手を出していた。その時の萃香さんはある意味での恐怖を感じたそう、その時萃香さんは目の前の壁を殴ろうとしていた。止まらない鬼としての意地と本能が訴えている危険信号の狭間で萃香さんは左腕に力を込めてその一発にすべてを賭けた。

 

 バチン、と甲高い音がした。その時にはもう一つガン、という痛そうな音もしていた。椛さんはその時には萃香さんを投げ飛ばしていたようだ。それこそ、小さな子供を投げ飛ばすように軽く投げたそうだ。萃香さんは一瞬の間の記憶とそのあとで来る激痛に苛まれて立ち上がる事も出来そうになかったが鬼としての意地が、下の種族に負けたくないという執念が萃香さんを立ち上がらせたらしい。その時の本人はそれほど記憶になかったらしい。ここからは椛さんの話が主体になる。

 

 萃香さんはその時は生まれたての小鹿のように足を震わせていたがそれでも向かってくるので椛さんはその勝負を受けることにした。ここから逃げようものなら、逃してくれなさそうだと何となくそう思ったらしい。椛さんは更に向かってくるのならば対峙しないといけないと感じていたらしい。だが、その思いは意外にも裏切られる事になった。

 

 萃香さんはその場に立ち止まった。鬼として負けを認めたという事だろう、と椛さんは何となく思った。一安心していたところで突然の行動を起こした。萃香さんが飛び上がり、上から押し潰すような一撃を見舞う。だが、それは椛さんには簡単に対応されたのだが、手加減というものを忘れてしまった。飛び上がった上で蹴り上げられた萃香さんは着地した地面にすぐに倒れる事はなかったが出すものは出してから前のめりに倒れた。少しばかりか匂いがキツかった。酒のせいだろうと、椛さんはそれで話を終わらせた。萃香さんは其処に追加するように言い放つ。鬼じゃなければ死んでいた、と。

 

 それから萃香さんは危ない時は逃げるようになった。それ故にこうやって地上で暮らしているのだと。

 一通り二人からの話を聞いて思った事は椛さんは一体何者だったか、それしか思えなかった。一人の狼として妖怪の山に君臨していた事、鬼と対峙して何ともなく勝利をしている事、その全てが規格外だった。それなのに僕はとても失礼な事をしたような気がした。いつもご飯を作って貰っていて寝床も貸してくれている。元はと言えば、お父さんが行くように言われたから行っただけで本当ならこんな事は起こり得なかった。それなのに僕は感謝の言葉一つも言わなかったような気がする。

 

「ご飯も作ってもらって寝床も貸してくれて技も教えてくれているのに感謝していないのを謝罪したいです」

 

「良いですよ。半ば好きでやっている事ですから」

 すごく優しい笑みで答えられたがそれがどうしても怖かった。なんか含みがありそうな言葉に最早何か思うところがあった。それは萃香さんも変わる事はなかった。

 

「ひとつ聞いていい?同じ屋根の下で暮らしてるの?」

 

「はい」

 

「その意味分かってるよね?」

 

「多分思っていることとは違うと思います。私も楽しんでますから」

 椛さんは表情をくるくると変える。昔の頃だと思う厳しい目をした人と、今のような丸くなった故に萃香さんから見ればズレていると思う事。布団は別れている、茶碗は混同していない。何をもって間違いなのかは変なところで分かっていなかった。

 

「楽しんでいるなら良くないですか」

 

「良くない。男女が一緒の屋根の下、不埒な」

 萃香さんの頬は酒なのか、恥ずかしさからなのか赤くなっていた。顔中にも広がりそうなその表情には僕たちが萃香さんから見ていかに異なる考えを持っているのかを指し示しているようではあった。

 

「それもあるかもしれませんね」

 それでも受け流した椛さんの胆力はある意味では敵いそうもなかった。実際のところ、僕にも一緒に暮らしている事について何か問題があるのかはふと疑問には思った。男女にそのような区別はいるのだろうか?そんな事を考える。

 

「椛は大丈夫なの?本当に?」

 

「前に青年も居ましたので。何も抵抗はないです」

 

「それで良いなら何も言わないよ」

 

「何か問題があるのはどうしてですか?」

 一旦の終わりを感じたところで僕はその質問を二人に投げてみる事にした。

 

「無知はこの場合は勲章ですね」

 

「そうだね。色々なところで聴き回ってみると良いよ」

 基本的に社会で生きるためには必要な事だから、と付け加えた萃香さん。それに賛同した椛さんだが、僕には正直なところ調べてみようか興味が湧いた程度でしかなかった。

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