状況は依然として掴めない。ということは別に構わないのだが話が大きくなってきて何となく疎外感を感じる面があるのも否めない。
「これからどうするつもりよ。」
霊夢さんは僕に聞いてくる。未知の世界で先を行く阿保も普通なら居ないだろうが此処にいる。自分だ。
「兎に角月の都へと入る道を探しましょう。何か情報を聞けるかもしれません。」
「何でそんな冷静なのよ。」
霊夢さんはそんな事を聞く。そう言っているが僕の行動に対して特に関することがないので言える方ではないのかもしれない。
「こういう時こそ、ゆっくりとしている方がいいですよ。焦っても事が悪くなるだけです。」
「もし、状況が悪くなったらどうするつもりよ。責任取れるの?」
霊夢さんは焦っているようだが会った時の印象と比べると全く異なる人種のようである。本当に博麗の巫女なんていう大層な身分なのであろうか、僕は今の様子から何となく推測を立ててみることにした。
「その時は楽しみましょう。お父さんならそう言います。」
僕はそれだけ答えてみることにした。それだけなのだが何処か虚しく聞こえてしまう。
「そんなにお父さんを気にしているのね。いい加減離れたらどうなの?」
「お父さんは、怖いですよ。行動は読めませんし、対峙しても強さは読めません。ですが、まだ勝てないと思わせるだけの威圧を向けてきます。」
「あまり変わってはいないのね。その人の心を射止めたのだから並大抵の人物ではないようね。」
「お母さんはとても優しいです。そしてお父さんの行動を温かく見守っています。王妃としての気品も何もありませんがそれがかっこいいです。」
「そうなのね。アンタの家族に対する愛はよく分かるわ。」
霊夢さんは少し呆れていた。もしかすると僕は話しすぎたのかもしれない。
「霊夢さんは家族に対して何か思っていることはありますか?」
「居ないわよ、家族なんて。私は小さい頃から神社で一人で育っているのよ。今更家族が欲しいなんて思わないけど寂しかったと感じたことはあるのは事実よ。」
「あー、何かいけない事を聞いたような気がします。」
「別に気にしないで。射止められなかった私が悪いんだから。」
その時、僕は何を感じたのかはわからない。だが、ただならぬ事であるのは聞いていればよく分かる。
「キャハハハ!イッツ、ルナティックターイム!狂気の世界へようこそ。」
「何だか見かけない妖精がいたものね。」
「あの伝説として本に記されている魂のような存在のことですか?これはとても興奮します。」
「ちょっと、黙りなさい。」
「はい。」
ちょっと怖かった。霊夢さんは僕の発言に対してかなりお怒りになったらしい。
「妖精のクラウンピース!この大地を友人様に戴いてから貴方が初めての来客だわー!」
クラウンピースと名乗った妖精は金色の長い髪で目が赤みがかっている紫色をしている。玉が三つ付いた紫色の水玉模様の帽子を被っている。赤と白のストライプと青色に白色の星のマークをつけているのが半分になっている服装で下はその逆になっている。首元にはひだ襟が付いている。全体的には道化師を思い出しやすい。
「この大地を頂いた?ここは一体どこなのよ。」
霊夢さんはクラウンピースさんの訳の分からない事を聞いていた。僕はそうあまり気にしていない。へぇ、程度に聞き流していた。
「表の月さ。地獄よりは住み心地が良いよ。」
「それは良かったわね。」
あまり付き合いたくないのだろう、と霊夢さんの背中が語っている。僕は兎に角あまり気にしないようにした。
「そうだ、友人様から言いつかっていることがあったんだ。月の都から出てくる奴があったら容赦するなって。どうなると思う?」
「妖精風情が私を誰だと思っているのよ?」
「知らなーい。」
僕はやっぱり気にならない。
「泣く子も黙る博麗 霊夢よ。」
「そんな威圧感のある人だったんですか?初めて知りました。」
「アンタは黙りなさい。」
「あたいが泣くわけないじゃん。地獄の妖精だよ?どちらかって言うと泣かせる側だよー?良いこと思いついたわ。」
クラウンピースさんは手に持っていた篝火を僕たちに向けていた。その火は揺らめいているだけで特に気になる点などは何もなかったはず。しかし、僕は見入ってしまった。こう精神的に引き込まれるというのか、綺麗だな、と見に行く程度。それだけだ。
「どう?面白いでしょ。そしてどんどん狂ってきたでしょ。」
クラウンピースさんの声が脳内で何度も、何度も再生される。そして響いてくるだけでは終わらず、上から言われているような何かを感じる。それは威圧感というか、それともまた別の気になる存在であるのか。
「霊夢さん、ここは僕にやらせて下さい。」
僕は何故か剣の柄を握る。と言うよりかは、何か破壊をしたくなって仕方がなかった。それなら得体の知れないクラウンピースさんはを斬りに向かう方がいい。
「あれ?何か思っていたことと違うような?」
クラウンピースさんの声が聞こえたのはそれが最後だった。
少年は静かに剣の柄を握ってその場で立っていた。腰はゆっくりと落として何処から、いつきても問題ないようにしている。それは隙がない、と言うのと変わりない。
「辞めなさい。」
霊夢が少年に向かって叫ぶがあまり届いているようではなかった。
「霊夢だったけ?協力して止めない?あたい、どうしたらいいのか分からないよ。」
少年はまさに鞘のない刀だった。触れれば斬る、こちらから向かって当たっても斬る。八方塞がりとは言わないがそれに等しい環境であることには間違いない。
「それはアンタが勝手にやったこと。アンタが何とかしなさい。私は後ろで静観しているから。」
「そんな〜。」
クラウンピースが弾幕を張る。
横に線を入れた弾幕を張った後で、星型の弾を少年へと向ける。一直線にも等しいが少年には関係のないことだった。
縦方向の隙間を見つけたのか大きく跳躍した少年は軽い体さばきで音もなく地面に着地する。表面についていた砂のようなものが舞い散るだけだ。
少年にとってはそれは一歩でしかない。だからこそ動くしかない。
それはクラウンピースにとっては異次元からの侵略。まともに弾幕を攻略されないと言うこれからの指標でもあった。近づいて欲しいないとばかりに赤色の弾幕を円状に作り出した。
それは少年にとっては見たことのないものであり、近くまで寄ってきたのを得体の知れないものから遠ざかることにした。
しかし、目の前で止まるだけなので少年はその場から動くことはなくなった。それだけではなく、弾と弾の間から素早く一撃を見舞う。一閃だけの攻撃だがそれは見えていなかったのだろう。
右腕を思い切り後ろへと持っていかれたクラウンピースの弾幕が大きく乱れた。その隙を少年は見逃すことはなく、前へと走り出した。地面とは距離を近くなっていてそれはどう見ても滑っているようだった。
だったら、と白色の前にも見たことのあるような玉を地面の砂をすくい取るような形で出してその後ろから青色の弾を尾を引かせるようにさせた。
少年はまたも足を止めていた。それは一瞬の事で大体の状況を理解したらしい。
クラウンピースはさらにストライプを描くような弾幕を張って少年の動きを止めた。それの効果は少しばかりかあったようであまり近づいてくるようなことはなかった。
しかし、少年の剣は左へ、右へと揺れ動いている。それはまるでここまで見えているようで少しだけ恐怖心を煽られるような感じがする何か。クラウンピースは自分の体の左側、其処へ大きな負荷をかけられたような感覚を覚えた。その予見はおおよそ当たっていた。
まるで、斬り落とされたかのようだった。力無い一撃がクラウンピースの左肩に直撃していた。その場所の衣服は破けて白身のある明るい肌色が真紅に染め上げられている。一つの線を描いた箇所から大きく吹き出した水がクラウンピースの直感を揺さぶっていた。そして思考を凍結させて停止まで追い込んだ。
少年は其処で事切れた。
「アンタの負けよ。」
静かに近づいた霊夢のその言葉によってようやく凍結した思考が大きな躍動を見せていた。その負荷はそれなりにあるらしく頭を抱えて蹲りかけるクラウンピースに同情の眼差しを向けていた。
「さて、この異変を起こした奴はどこにいるのか言いなさい。さもないとどうなるかは分かっているわよね。」
「という事は敵か!だけど、身体が動かせそうにないや。」
「兎に角、その人が居るところまで連れて行きなさい。私には何が起こっているのか、全く分からないのよ。」
霊夢のその言い方には何処か含みがあった。どこからどこまでが本当で、また嘘であるのかは読み取れない。少年は事切れた。ここで何かしようとしていても何も動かせる気はしない。
「はぁ、はぁ。少しだけ休憩させて。」
クランピースも緊張の糸から解放された勢いでその場に倒れる。