ーー次の週、僕は永遠亭に向かうことにした。特に理由はない。一つあるとすればここまでの感謝を伝えにいくぐらいだろうか。僕は静かに歩いていた、一言も話すこともない。誰も居ないから、と言うのが正解なのだろう。
竹林に包まれた迷いの場所とされる此処では本当は一人で入るべきではないのだろうが今更それを言われても遅いような気はする。何回か利用している以上、ある程度は道を覚えている。細心の注意はするつもりだが、それもいらないくらいだろう。僕はそれほど早くない速度で歩いていた。竹林の中を通っていく風も涼しいもので高くから日差しを遮る細長い竹の葉があるからか、意外にも涼しい。
だが、道のりはとても長めだった。妖怪の山から人里を超えて此処まで来たわけだが更に竹林を抜けていこうと思うとそれなりの体力は必要そうだった。負荷をかける歩き方をしているので余計なのかもしれないが。
視界が通る竹林では何となくでも人が居るのが見える。その人は濃い茶色の長い髪をしていて頭の上の辺りに三角の耳が付いている。服装は長い衣服を着ているようで黒、赤、淡い青色と花札の絵柄をしているような服装だった。その人が僕が近づくや否や、急に態度が小さくなっていた。
「何かありましたか?」
そう聞きたくなるくらいには小さくなっていた。
「あまり人が近寄るところではないから」
怯えているのだろうか、声は確かに震えていた。それにしても綺麗な赤い眼をしていた。そして、毛深そうな袖をしていて暑そうだった。
「通りであまり人に会った事がないのですね」
「こんな所に来るなんて相当な物好きね」
「永遠亭に用がありまして。少し永琳さんに日頃の感謝を」
「良い心がけね。だけど、もうそろそろ日も沈むわよ。どうしようと考えているの?」
「少しゆっくりと歩いていたらこうなってしまいました。少し迷惑ですかね?」
「それよりも妖怪が出てくる頃だから。自分の身は大切にした方がいいわよ」
「その点では問題ないと思います。逃げることには自信があります。それに、そう易々と負けていたら越えるべき壁も遠くなるばかりなので」
「強いわね。私の方が狩られそうだわ。私は今泉 影狼。狼女よ」
「影狼さん。わざわざありがとうございます。僕はヒカルです」
「ヒカルさんも私なんかに構ってくれて嬉しいわ」
そう言いながら、手を振り少しだけ機嫌良く帰っていく姿は何処か楽しげなものだった。そうだな、僕も影狼さんに言われた通りと言うわけではないが急いでみるのがいいかもしれない。
○
永遠亭には闇が近づいている。扉は閉ざされようとしていた。