東方魔剣術少年   作:mZu

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第119話

川のせせらぎに耳を傾ける。サラサラと流れるだけのこの場所に遠くから聞こえてくる木の葉の揺れる音。足元は川に入れているのでひんやりとしていた。河原に敷かれている小さな灰色に近い白い石はゴツゴツとしているが小さい分、優しい刺激になっているようで地面に座るよりも気分は良かった。

 

今、悩んでいることも川に流されたら良いがそれが出来るとは到底思えないのでふと水面を眺めて流れてくる葉を見つめていた。何も意味のないその葉に僕は何を乗せているのか、それさえも考えるだけ無駄なのかもしれない。

 

あの時、本当に僕のやったことは間違いなかったのだろうか。永琳さんの言う、今の生活を保つために戦い続ける。そう言うことも生活を守るためには必要な事なのかもしれない。けれど、それを続けて何になるのだろうか。僕にはいつまでも続く決闘の道でしかないように思える。昔から続けていたからこそ、あのように離れた土地でひっそりと暮らすようになったのではないのだろうか。

 

お父さんは逆に業を背負っている以上はもう何も変わらないとそう言っていた。確かに一人だろうか、二人だろうがそれ以上だろうが殺めた事には変わりはない。そう言うことを言いたかったのだろうか。幻想郷では今はもうないとは言えど、妖怪が人間を食べる事はよくある話と事前情報として聞いたことはある。人里以外の場所では人間が妖怪に襲われようとも無視されるのも言わば、自然の摂理なのかもしれない。けれど僕は妖怪ではない、それを同じになるのは少しどころでは無いほどに違うものだと思っている。

 

何が正しいのか、それさえも分からない。

 

「不思議なのですがすごく暗い顔をしていますよ」

僕はその声にあまり驚かなかった。小さな声ではあったし、何より脅かす気のない優しい声だった。心配に感じたと言うのが本音なのだろうか。僕は顔だけを向けていた。

 

「厄と言うものが見受けられないのですが、何かありました?」

人のことを気にしていられるほど、顔色は良くない。緑色の髪を顔の輪郭に沿わせて赤いリボンで結んでいる長い髪の女性で生気のない目をしていた。上が黒っぽい赤色のドレスに身を包んでいる。スカートの裾には白いフリルを付けていて長いブーツを履いていた。とても不思議そうに見つめているが僕はその事は言わないことにした。

 

「少しだけ悩んでいました」

 

「私も少しだけ悩んでいることがあります。お互いに話し合いませんか?」

僕も特に時間がないわけでもなかった。別に聞き流せば良いと思いながら、それもどうかと思いつつその人の話に耳を傾けてみる事にした。

 

「良いですよ。時間はありますから」

僕にだって少しくらいは元気になりたいとは思っている。ただ、何となくやる事全てにやる気が感じられない。ふと、嫌になったと言うわけでもない以上は何も言えなかった。

 

「私、実は厄神様です」

 

「そうですか」

その事については知っている事だった。なので、僕は特に驚く事なく、それについては流す事にした。

 

「実は前にその溜めていた厄を放出してしまったことがありまして」

淡々とした話し方で淡々と繰り出される昔話。僕はそれに耳を傾けながら自分の殻の中に入っている事にした。

 

「影響は凄まじかったですよ。私も立ち直れないほどに力を失いましたから」

それに、その人はそれを言ってから口の中で閉じこもってしまった言葉を吐き出そうとしていた。それでも出てこれなさそうで僕はそれを待っている事にした。どちらに転ぼうと興味はないのだが。

 

「それからの幻想郷は悲惨なものでした。私が何とかしてあげたいのに何も出来なくて。それでも時間は進んでいって。皆は私の厄に振り回されて、此処は地獄のようなものでした」

 

「そんなに酷い事になったんですね」

僕は相槌程度に言葉を交わす。しかし、それに意味はあるのかと問われると特にないのだろう。先程からあまり頭の中に入ってはいない。けど、一つだけ言いたいことがあるとすれば僕の悩みよりも酷そうなものだった。

 

「そうです。その時はある意味で人々に厄が溜まり込んでいましたから。私が溜めれる限り沢山の人から沢山の厄を貰い受けました。皆が幸せになれると思って、皆がその世界を少しだけ楽しく過ごせるように」

僕はこの時にふと気になることがあった。僕の悩みなんてさほど問題ないのかのように話が進んでいた。僕なんて流そうと思えば、この幻想郷では流せる問題だがこの人の悩みはそうではない。僕はこの人に出来るだけ楽になるように話を聞いてあげる事にした。

 

「貴女のする事は多分、良かった事ではないですかね」

無責任だったのかもしれない。

 

「そんな事、貴方は何も知らないからそうやって言えるものですよ。沢山のもの、を失いましたから」

その言い方からは何処にも嬉しさや楽しさと言うものは出てこない。まるで憎悪を纏っているようなその言葉には何処にも取り付く手も無いような状態だった。僕は本当に無責任なことを言ったのかもしれない。

 

「知らないですね。でも、何にかも失ったわけではないですよね」

 

「何も残ってないわよ。信頼もこれまで積み重ねてきた事も」

いよいよ、取り止めがつかなくなってきたような気はする。だけど、何となく消えてしまいそうな火を見ているだけなのは良くないと思ってからは僕も少しだけ考える事にした。

 

「何かはありますよ。そうじゃなければ僕に話しかけようなんて思わないでしょう」

会ったことはある。あの時はにとりさんもいたように思うが今は居なかった。だけど、もし何もかも失っているのならば、ここに来て誰かに話しかけるようなこともないのではないだろうか。

 

「ううん。何もないわよ」

悲観にも程がある、ため息にも似た、生きる事に諦めのついているようなその表情は出してはいけないようなものだった。

 

「それならどうして?」

僕は聞いた。僕は彼女が何をしたくて僕に話しかけたのか、それを聞きたかった。

 

「偶々ですよ。貴方の顔から出ている表情は暗かったです。ですが、周りから出ているのは何もなく、少なからず厄に似たものでもありませんでした。そんなちぐはぐな表情の人に私の身の上話をしてからこの水の中に入ろうと決意しています」

 

「貴女は此処で居なくなるべき存在ではないです。少なからず、誰かの助けにはなっています。だから生きてください。まだまだやれる事はあるはずです。だから、生きてそれを見つけましょう」

 

「……揺らいじゃうじゃない」

 

「だからそんな悲しい顔は辞めましょう。何か必要だから、何処かの誰かがまだ必要としていますから。最後の最後まで抗いましょう。僕も手伝いますから」

きっとこれも何かの縁だ。厄神様をどの程度知っているのかと言えば、名前くらいだろう。それと話から聞いた厄を集めていると言う事。そして人のために動ける心優しい人である事。そんな人がどうしてこの世から居なくなろうとしているのか、そんなふうに思えてしまった。

 

「今日はそっとしておいてほしいわ」

そう言われてしまうとこれ以上は何も声をかける事はできなかった。けど、伝えたい事だけ、まだ生きる価値はあると言う事だけを伝えた。それで良かったのか僕も少しだけ気になる。

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