その後、僕は霊夢さんから事の顛末を聞いていた。どうやら僕が今倒れている人と対峙したらしいがあまり記憶は覚えていない。ただし、所々骨の関節のように霊夢さんの話と接合できそうな箇所はあった。それだけなのだがどうやら僕はあまり覚えていないらしい。
「そんな事があったんですね。僕は何も知らないです。」
「そうでしょうね。狂気に駆られていただけだったから。それでも何処か慣れているようね。」
「そうでしたか。まだまだ修行の身なので何とも言えませんがありがとうございます。」
「まぁ、兎に角起きるまではここで待機。分かった?」
霊夢さんはそう言っている。反論を述べる気もないのでそれは霊夢さんに任せる事にした。
それからはクラウンピースさんの収縮した様子と左肩の出血が気になりながらも僕は何もしてあげる事はできないという自責の念にかられながら案内された場所へと向かう事にした。よくいう裏側という場所である。息を潜めるためにはこのような場所が必要になる、そしてそれを悪用される前に取り締まる、みたいな事をお父さん入っていたような気はする。実際のところ、何かしているのを見た事はない。
「いかに策を練ろうとも相手はそれを乗り越えてくる。もう少しで宿敵まで届くというのに。」
「貴方が月の都を侵略している張本人ね?」
霊夢さんは見境もなく言葉を投げかける。その人は少し落ち着いた雰囲気があるがそれだけではなく、少し狂気に満ちているようにも感じる。金色の髪でウェーブのかかった長い髪をしている。服装は何処か偉い位の人が着用していそうなもので黒のロングスカートで大きく広がった扇子のような帽子を被っている。後ろには7本の紫色の尻尾のようなものが生えているのだが狐ではないだろう、と僕は感じた。そして薄ら笑いを浮かべているあたり、気が知れない。
「一先ず負けを認めよう。」
その人は特にこちらは何もしていないが敗北を認めた。その理由が何であるのかはどうでも良いとして兜の緒を締めたくなった。
「急にどうしたのよ。」
霊夢さんでさえ拍子抜けのその言葉には乗る事はなかった。
「まさか地上人を送り込むなんて。まさかこんな姑息な手段を使ってくると私の読みが甘かったよ。既に勝負は決している。」
その人は堂々と言っているが、要するに戦いたくはないという事なのだろうか。それとも油断させるための罠を仕掛けたに過ぎないのか、まぁ本当のところは気になる。
「随分と余裕ね。闘いはこれからなのに。」
臨戦態勢に構えている霊夢には一瞬の隙もないような目をしていた。それ故に何処か危なげな気もしてくるのだが僕は気にしない事にした。
「私の名は純狐、月の民に仇なす仙霊である。ここまでやってきた貴方を持て成してやろう。それが礼儀というものだ。来なさい。」
「正直、月の都がどうなろうが知ったこっちゃないけど。私にここまで手こずらせた鬱憤を晴らさないと気が済まないわ!」
「彼女とはもう別の星に住み会うことは出来ないが、倶に天を戴かずとも憎しみだけが純化する。見せよ! 命を賭した地上人の可能性を!そして見よ! 生死を拒絶した純粋なる霊力を!」
純狐がそのように叫び始めたが最早何が起こっているのかは明白なものだった。僕は参加する気は無いのでゆっくりと地面に腰掛けて静観している事にした。それと戦う気は無いという意思表明でもある。
「頑張ってください、霊夢さーん。」
僕は気の抜けた声で話しかけて応援しておく事にした。
「さぁ、行くわよ。」
霊夢さんが右手から札が投げ込まれる。赤色の一枚のぺらぺらの紙であるはずだがしっかりとした軌道で純狐へと近づいていく。しかし、落とされた。そう易々と通じる相手ではないというのはその時に知れた。
「その程度では私は倒せん。」
純狐さんはいつもこうなのだろうか、と疑いたくなるほど上機嫌であるので僕はよく観察してから判断を下そうと思う。
「そうでしょうね。」
霊夢さんは実際のところ、あまりそうとは思っていなさそうだった。僕の見立てでは攻撃の通らない防具を着込んでいるような硬さがある。あるいは打ち消しあう何かを発射した結果なのか。お父さんはこんな世界でどのように過ごしたのだろうか。
「諦めなさい。予想よりも遥かに弱かったようね。」
純狐にとってみればその予想というのは思ったよりも霊夢さんが弱かったという事になる。それがハッタリなのか、真実なのかはともかくあまり動揺している様子のない訳だが僕は動こうという気にはなれなかった、体への疲労が溜まっている。
「霊夢さーん、ここに居たんですね。」
其処にいたのは緑色の髪をしていて霊夢さんとは同じような服装をしているが色合いは反対である。青色のスカートには白の水玉模様が描かれている。そしてお祓い棒とは異なるがきっと何かの道具であると思う物を右手に持っている。名は東風谷 早苗。どうやら守矢神社で風祝をしている巫女であるそうだ。
「よぉ、霊夢。楽しい事してそうだな。」
今度は魔法使いの服装をしている金色の髪をしていて黒色のとんがり帽子が特徴的な人が現れた。箒に跨り、僕の知っている魔法使いではない。名は霧雨 魔理沙。霊夢とは古くからの友人であるらしい。
「こんな仕事嫌です。」
少し疲れ気味のウサギ耳をしている見たことのない服装をしている。靴は歩きにくそうな革靴で短めの紫色のスカート、白色のシャツに赤色のネクタイをしていて黒色のジャケットを羽織っている。名は鈴仙。実際の名前は話すのが煩わしいそうだ。
「人間と月の兎が来たか。まとめて持て成してあげよう。それが礼儀というものだろう。」
純狐はその人の登場でさえ予見していたようだ。
「アンタ達に手を貸してもらう必要はないわよ。」
霊夢さんは相変わら無愛想な態度をとり続けている。
「良いじゃねぇか。折角来てやったんだぜ。」
と魔理沙。
「はい、一緒に頑張りましょう。」
と早苗。
この時に鈴仙さんは特に話す事はなかった。僕は霊夢さんの後ろで座っているだけ。一番の邪魔はきっと僕だろう。だが、一番非力であると言う意味合いでは仕方がない事だ。霊夢さんは先ほどの僕とクラウンピースさんの話はしなかった。僕の耳に入ってくる四人での作戦の中では聞こえてこなかった。
「少し気が変わったわ。全力で潰してあげる。私にとって容易いことでしょうね。」
どこからその自信が出てくるのかは知らないがきっと何かその根拠になるものがあると思われる。
「それは如何かしら?」
霊夢さんも同じように謎の自信を持っている。僕はその場から立ち上がると後ろへと下がって左側へと歩いて回る事にした。
霊夢さんと早苗さんは札を、魔理沙さんは魔力の込められた道具を持って鈴仙さんは指で何かを作っていた。それだけであるがきちんと戦闘準備を済ませていた。純狐の弾は大量の槍のようなもので直線でありながらもその量はここまでの比ではなかった。そしてとても素早い。間を通り抜けるための隙間は人間一人しかなかった。それほどの弾を幕のように張り巡らせている。横から見ている限り、霊夢さんたちの動きを見ているとその間からは逃げられていない。
しかし、僕には関係ない。関係ないと思わせておく。
「見てるか、嫦娥!」
純狐さんが叫ぶ。それに答えるように放っていた弾幕の形相が一変した。曲線を描いた白く発光した長い尾を引いた弾が霊夢さん達を襲っていた。どうやら僕には目をくれていないらしい。ただ歩いているだけだ。後からでも対処できると感じているのだろう。まるで其処らへんに転がっている石ころのような存在感をしているのだろう。思っている自分が悲しくなる。
しかし、四人は慣れているのか平然と避けながら応戦している。札を投げる二人、魔法を扱って攻撃を仕掛けている人が一人、先の尖っている筒のような弾を放つ人。全てが個性的だがどれも僕は持っていないものだった。その場に描かれている絵画は美しく臨場感のあるもので一人一人が躍動していた。己が信念をぶつけている人もいれば面倒なので早く終わらせたいと思っている人もいるのかも知れない。
「結構やるな。援護を頼むぜ。」
魔理沙が自分の服の中から黒い物体を取り出していた。手の中に収まるものであるが不安な要素の塊だったと思う。僕は何となく静観を継続していることにした。何が起こるのかが気になるのと何をするのか分からないからだ。対処出来ずに、味方の流れ弾に当たるのはみっともない。
「分かったわ。行くわよ。」
残された三人が三方向に別れていく。左へ、右へ、真ん中で純狐の一撃を避けていくもの。扇型に展開された四人に苦戦を強いられた純狐さんが更なる弾幕を作り出す。
赤と青の弾が地上から空中にまで一気に展開された。そして形状は異なるがあたり一帯を一気に覆い隠したのが全ての方向に散り散りになっていく。それは無差別の範囲攻撃というものであり、咄嗟の判断を常に強いられるそんな弾幕だった。見たことがあるのか、それともそんな事はなかったのか。いくら想像をしてもその域から脱しない。
「純粋な弾幕を見せよう。」
純狐さんもここまで来るとトチ狂った人と言われても仕方がないほどになっていた。どうしてこんなことが出来るのだろうか。それはどうしても分からなかった。お父さんともさほど変わりはしない。だが、まだ優しいのは此処に斬撃が加えられていない事。他国の王と演習をした時にそのようなものが見られた。あの時ばかりはお父さんでさえ子供、いや、そんな余裕はない。静観を終始続けていた僕でさえその弾幕の標的とされている。最早やってみるしかなかった。
「何よ?この弾幕の量は?これが月の流儀というものなの。」
「一気に行くぜ!マスタースパーク。」
溜め込んでいた白色に輝く光線を出した魔理沙だが、強引に出した為にたまたまなのか、故意に当てたのか手元の狂ったのが仇となり不発となった。
「何という弾幕なのでしょう。」
「やるしかないわ。死にたくないなら。」
そう絶望に浸るのもいいかもしれない。
相手の手の中で踊っているだけなのもいいかもしれない。
そして最後には吐き捨てられて見下される。
そうなるのかもしれない。
それは今は後でいい。
僕は急激に接近してから純狐の両脚を自分の右脚で刈り取り、宙に浮かせる。
今度は自分の右脚を折り畳んでバネを自作する。そこから自分の回転を加えて一撃を加える。
吹き飛ばされた純狐さん、着地した地面から砂埃が捲き上る。僕はそれでも冷静に見つめていた。一切効いていないと言うことはありえないが万が一にもそうならばこの場から逃げておく必要がある。
僕は冷静にそして息を殺していた。何も起こらないという事はまずありえない。
予見は当たった。余裕の笑みさえこぼす純狐さんには僕から何かできるような事はない。何回も攻撃を当てれば良いということはない。
「逃げましょう、霊夢さん。戦力を増やす為に幻想郷に戻りましょう。」
僕は叫んだ。その勢いには誰か反乱を加えるものはなかった。きっと僕の言葉に勢いがあったからだ、というのはあまりにも自惚れであった。後ろですでに立っていた純狐を見て本能的にそれを感じたのだろう。僕はもちろんその場から逃げ出した。怖かったから。
そして四人も同じように逃げていく。その人たちが何を考えてそれをするに至ったのかは今のところは何も分からない。しかし、恐怖したというのならば、大体予想はつく。