アリスさんのところで二人の人形に対する熱意を垣間見たところで変に満足して今日のところはもう妖怪の山に帰る事にした。ここまでそれほど鍛錬を積んでいなかったこととは関係ないと思うのだが、体力が落ちたのかここまでの会話でお腹はいっぱいに感じて変に疲れてしまった。それに自分の悩みも誰かとならば乗り越えられそうな気もする。でも、それをするだけの力量は自分にあるのかどうかなのだが。正直なところ、考えていても仕方ないと思うのだが、それでも駄目なものはもうどうにもならなさそうだった。
「ただ今帰りました」
「少しは解決したようですね」
いつもなら、椛さんが土間で調理をしていると思っていたがどうやら違うらしい。椛さんは囲炉裏で何かを温めていた。そこにあるのはすまし汁の残りなのだが、杓文字を入れているあたりどうやらそれとは異なるものであるらしい。
「少しだけですが、取り敢えず考えていても仕方がなさそうだな、と結論に至りました」
「それで良いんですよ。後は時間と交流によって変わっていきます」
「そう言えば、早苗さんが言っていたその影については解決したのですか?」
「今のところ見間違いなのでは、と言う結論に至りました。少なからず妖怪の山に居るような物ではない事は確実です」
少しだけ不甲斐なく笑っている椛さんを見ながら僕は囲炉裏の近くに座り込んだ。昨日と同じでこれから出かけると言うのならば僕は今日も昨日と変わらずにやるつもりではある。
「僕は一応見つけましたが聞きますか?」
「いえ、このまま見間違いという事で通します」
「それで良いんですか?」
僕は思わず聞いてしまった。
「良いですよ。何を言ようとも変わらなそうなので。それと貴方はちゃんと見つけたのでしょう。それでもう私たちの出る幕はありませんよ」
「あんまり意味が分からないのですが」
「つまり、そんなに危険性もなさそうと言う事です。その人影は」
確かに単純にアリスさんとケプリさんの合作という事で片付けてしまえはそれで構わないと思う。別にあれで幻想郷を何とかしようなんて言う思考に至る人かと言われると別にそう言うわけでもない。アリスさんは人形を作る事に尽力していて、人里で人形劇を行なっていることも風の噂で聞いたことがある。それとケプリさんも同じような意思を持っていると思う。互いの意思のぶつかり合いはいずれ大作を作り上げる上で必要になるだろう踏段だと思えてしまう。
「何とも言えないですけどね。これから大きく化けるかもしれません」
「ふふ。単純に微笑ましいだけです」
思わず笑い出してしまった椛さんは左手で口元を隠していた。僕はそれ以上は視線を合わせようとはせずに空を見て気を紛らわせる事にした。あのように見ると意外にも可愛らしいものである。
「それはそうですね」
僕も少しだけそれに賛同する。
「あ、そろそろ出来そうです。お椀だけ取ってもらえますか?」
見様見真似で覚えたのだが、意外にも当たっていたらしく一回で二つを取り出すとそれを椛さんに渡した。椛さんが囲炉裏で温めているすまし汁の入っているはずの鍋の中を杓文字で取り出している間に僕は二人分の箸を取り出した。此処にはナイフやフォークのような西洋のものはなく、箸しかない。スープが出ようとも此処では箸で食べる他ない。
「今日はもしかして雑炊ですか」
「聞くまでもないと思いますよ」
「それはそうですね」
椛さんの食事ではすまし汁の食材が少なくなると鍋の中に炊けたご飯を入れ込む雑炊になる。この時だけはいつもと違うのだが、正直なところいつもの方が具があるだけ食べ応えがあるのは言うまでもない。だが、それも此処ではご馳走となる。何たっていつもと食べるものは違うからだ。
「それと今日は特に話し合いに参加する必要もないですからね。ゆっくりと話しましょうか」
「そうですね。と言っても食べ終わってから本題に入りましょう」
「分かりました」
「時間が出来たらそれだけ分聞いておきたいんです」
「それはどうして?」
「実践する事にしたんです。椛さんが朝のうちに言っていたことは今も分かりませんが」
「良い心がけです。それなら、私は静かに貴方のする事を応援しましょうか」
「お願いします」
「私が出来る限りですよ。それだけは十分に承知していてください」
その言葉に僕は静かに頭を縦に振った。これ以上は言葉にならなかった。もうお椀に今日の夕食は注がれている。食べないわけにはいかなかった。