東方魔剣術少年   作:mZu

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第124話

ギシギシと歯車は悲鳴を上げている。駆動部分は特にそれが酷い。視界は白濁としてからしばらくの間脱力しているように治る事はなかった。腕や胴体は地面に引っ張られていて息を整えていることしかやる事はなかった。だが、此処で伸びているわけにもいかなかった。

 

「ねぇ、どうして私なんか助けたのよ」

 

「分かりません。とりあえず怪我はなさそうですね」

 

「私なんて良いから、逃げれば良かったのよ」

 

「それだと臆病者じゃないですか」

 

「私が怪我をすれば貴方が此処まで追い込まれることもなかった。なのに、どうして」

 

「強い人が弱い人を守るのを当たり前にしていきたいんですよ」

僕は此処で言葉を止めなかったが、一呼吸置いた。そうしないと言葉が出しきれなかった。

 

「それに皆で助け合うことで初めて人は立てると思うんですよ」

その人はそれから何も話そうとはしなかった。僕には見えないように顔を俯かせていた。此処で言うのも酷だが、僕も助けを呼びたいとは思った。だけど、今、天を仰いでいる状態では何も出来そうになかった。

 

「お礼と思って、僕の上半身だけでも起こして下さい。助けを呼べる手段があります」

 

「分かったわ。任せなさい」

僕の脇の間に両手を通して必死に起こしているのにも関わらず僕は体の軋みから何も動かせそうになかった。特に脚、感覚がないかのように動き気配はない。

 

「すみません。どうにも動きそうにないです」

それに対する返答は布からの返答だった。言葉ではない何かは僕にとっても大きな不安ではあった。何も出来なかったのに、此処までやってもらって良かったのだろうか。

 

僕の視界が下流の方へと向いた時、僕は動きづらい右手で剣の柄を握る。それから脱力するように抜き去り、左側に運んでから一気に右側へと走らせた。その後はぐったりとした右腕はもう笑うことしかできそうになかった。だけど、もう少し耐えてもらいたい。

 

「暫く、待ちましょうか。当たらないように注意してください」

 

「何を、するんですか?」

その人は目に溜まるものを落とすまいと耐えていた。言ってやりたかった、落としたって良い、貴方がそこまで気をこちらに注がなくても良いと。だけど、それは本当にそうだろうかと思うとそうでもないような気はする。

 

僕はそれから滴る血を止める為に刀身を当てて治るように念じた。お父さんが使っていたその術は意外にも僕でも扱えた。ただ、強く願えばいい。治るように、そして出血が止まるように。だけど、内側まで治せるようなものでもなかった。節々は痛む、それに継続的な痛みは段々と時間を割いていくほどに強くなっていく。僕にはどうしようもなかった。

 

「もう、大丈夫です。後は任せましょう」

 

「何で私じゃないのよ。いつも」

 

「運がいいだけじゃないですか」

 

「運なんて、そんなものは信じないわよ」

 

「僕もそうです。言ってはいるんですけどね。自分の未来は自分で掴み取らないと」

 

「それならこれも貴方の掴んだ未来だと」

 

「はい」

僕は笑った。相手からすれば冗談じゃないと激昂もしたくもなるかもしれない。後ろからのそのような気配が濃くなっている。

 

「判断が遅くなってこうなりましたが。僕が肩代わり出来て良かったです」

 

「人が良過ぎるのよ」

その人はそう言いながら僕の左肩に自分の顔を打ち付けた。それからも何度か同じような動きをしていた。それからはもう何もしようなんて思わなかった。それこそその人がしたいようにさせていることにした。

 

「落ち着きましか?」

 

「落ち着けるわけ、ないでしょう」

 

「これは僕がやった事、貴方が何も責任を感じるような事はありませんよ」

 

「私は貴方に何をしてあげたらいいのよ」

 

「ただ、生きてください。自分の長所を生かしてやりたいことをやって下さい」

 

「……。」

相手は何も答えなかった。言葉にもならないと言う感じで直接見たわけではないがもう僕も何も言い出せなかった。もう何もなかったかのように静まり返った妖怪の山では僕たち二人以外に誰も居なかった。先ほどの大きな衝撃を受けた原因も何も探るようなことはできない。

「ーーと言うことがあったわけですね」

白髪の白狼天狗、妖怪の山では孤高とされる椛さんは僕の前に立って明らかに軽蔑の目をしていた。僕には心当たりがないとは強く言えないがそこまでされる気はなかった。だけど、反抗はしない事にした。

 

「はい。しくじりました」

 

「これで雛さんはとある親子に助けられたわけですが、何か言うことがありますか?」

 

「どうして私なんかが助けられるのか不思議です。でも、この人は私を助けようとしていたことは確かです。私には何を返せばいいのか……。」

 

「それで、どうしてこの人を助けようとしたのですか?」

椛さんの言い方はいつになく怖かった。何がそうさせるのかは理解出来ないのだが、確かに言えることは変な事を言うと食い殺されそうな気がする事だろうか。

 

「応援したかったんです。先日に聞いた話からそう思ったんです。お父さんを超える為に手引きしてくれる椛さんのようになりたかったんです」

 

「そうですか。傲慢で身勝手な行動をした挙句、そのような幼稚な考えとは。恥を知りなさい。けど、私はそれを含めて貴方が好きです」

椛さんは僕から視線を外して後ろの方を向いていた。

 

「こんなわがままですが、付き合ってくれますか?」

 

「ちょっと分かりませんけど、頑張ります」

雛さんは振動からしか分からないが何度も首を振っていたような気がする。それこそ、雛さんは必死に命を乞うようにしていた。椛さんはそのような事をするような人ではないと思うが何があったのかは僕にはどうして理解してあげられそうにはなかった。

 

「それでは、行きましょうか」

僕の手を椛さんは雛さんから引き剥がすように優しく引っ張った。僕は力なく、この身を委ねるしかなかった。

 

「雛さん、また来ますね」

 

「仕方ないのでこの人が落ち着き次第、後で連れていきます」

雛さんの様子は僕は見なかった。顔をどこに向けても椛さんから向こうは見ることができなかった。

妖怪の山から永遠亭へと向かう途中、とある事を聞かれた。

 

「前に悩んでいたことはどうなりましたか?」

 

「今のところは特に考えていないです」

 

「それでは、自らの行いについて自分の手で戒める事にしましょうか」

 

「そうですね。胸に刻み込んで生きていこうとは思います」

 

「それでいいでしょう」

椛さんはそれ以上は何も言わなかった。永遠亭までの道を長く感じないように話しかけてくれるだけでそこに特に内容といぅのはなく、変な話聞き流していてもさほど問題ないようなものだった。それよりも脚を下ろし過ぎると当たりそうな大剣は怖かったところだろうか……。

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