東方魔剣術少年   作:mZu

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第125話

この光景はもう何度目だろうか。木目のしっかりとした天井とい草の香りがする畳、優しい日の光が漏れる障子に遠くからは誰かの足音。此処にいるのももう何日目かと言うところではある。その間、一切此処からは動いていない。腰のあたりに固定具を取り付けられていてあまり動かないように、と言われている。動くつもりはないがそもそも動けないのでは何ともならない。あと何日このような時間を過ごす事になるのだろうか。それを考えていると少しどころではない、退屈だと思えるのは。

浮かない顔をする女医、その人から話を聞こうとする天狗。二人はとある一人のことを心配していた。

 

「それで、永琳さん。何が起こったのでしょうか」

天狗は聞いていた。

 

「消えた外傷痕と体内の様子から察するに、腕や脚などを何度も打ち付けているわ。そして、極め付けには背骨に大きな損傷があるわ。恐らく、何か木などの硬いものに当たったのでしょう」

女医はシワを寄せた顔をしながら話していた。かなり事は重く捉えた方が良さそうだった。天狗もそれは重く捉えているようで真剣な眼差しを女医に向けていた。

 

「そうなると脚の動きが悪くなる、と。何か方法はありますよね?」

 

「あるわ。ただ、それをするにはサンプルがないわ」

 

「そのサンプルはどうしたらいいの?」

 

「とても簡単な話よ。何処かの妖怪を半殺しで此処に持ってきて。人間は危ないけれど妖怪なら何も言われないわ」

不敵な笑みを零し始める。だが、何も間違いとなる事は言っていない。天狗もその事は重々と承知していた。

 

「それは私が出してもいいのよね?」

 

「それは辞めておきなさい」

 

「それはどうして?」

 

「貴女がどうなるか分からない。神経というのはそれほど慎重なものよ」

 

「ええ、それは。でも、約束がありますから」

 

「約束なんて今の話の中では効力は示さないわ。それに私が絶対に止める」

 

「仕方がないですね。私があそこに向かいます。誰でも良いですよね?」

 

「妖怪は強いわ。それ故に守られていない、妖怪が居なくなるのは褒められた行為になるわ、特にあそこでは」

 

「それは知ってます。今日中に持ってきますね」

天狗はそれだけを伝えてこの部屋を出た。もうこの部屋に天狗は暫く帰ってきそうにない。

 

「実験をするのは良いが、大丈夫なのか?」

突如として現れた男はひょこ、と何もないところから現れた。あまりにも慣れすぎているが為、どの結界も通用しない。それどころかとある程度作り出すこともできてしまう。

 

「少し怖いわね。それでもやらないと貴方の願いも叶わなくなるわ」

 

「そこは任せる。俺が口を出すものでもない」

 

「変に言われるよりかは良いけど本当にいいの?」

 

「ある意味気にしたこともない。二人を信じている」

男はさらり、と答えた。

 

「本当に惜しい人物だわ」

女医はため息、一つ。一つ悩みを浮かべながら机の上に肘をついていた。

 

「さて、八つ目鰻を食べてこようか」

 

「気楽ね」

 

「世辞としても受け止めよう」

男は特に音もなく、この部屋から出ると平然と襖を開けてから縁側を歩いていた。

 

「本当、あの人はどうやって稼いでいるのか不思議だわ」

女医はそれだけを言うと、とある準備を始めた。此処からは大きな手術を行うことが必要になる。百戦錬磨の女医にとってもこの手術はこれまで以上に難解なものとなるだろう。そして本人の胆力が試される。

此処にきてからはもう二日は経っていた。僕はここから動くこともままならず、時々現れる世話役に身の回りをしてもらうのが嫌で仕方がなかった。だけど、動けないのも事実で僕一人では何も出来ることはなかった。

 

早く体を動かしたいが僕自身にも向こう側の関係者も双方の条件が一致しない限りは出来そうにない。これでは身体が鈍る一方で実力が落ちていきそうな気がしていた。

 

「面談をお願いしたいのですが、宜しいですか?」

 

「退屈なので大丈夫です。通してください」

僕は後ろから聞こえてくるその優しい声に返事をしておくことにした。ここで永琳さんの助手をしている鈴仙さんは様々な患者さんに対して同じような態度を取る。そこがかなり評価されているがどうやら永琳さんには腕が劣るようで助手の域を脱していないある意味可哀想な人だった。出来ることなら、独立も出来たりすると良いのかもしれないがそれも僕の力では難しそうだ。

 

「お入りください」

鈴仙さんの声がしてからとある人の足音が聞こえた。僕は後ろを振り向けないので布団の中でうつ伏せになったまま人が来るのを待っていた。その足音はおどおどとした感じでこの場所が危険地帯であるかのように慎重に音を重ねていた。僕はそれをゆっくりと待ちながら隣まで来るのを楽しみにしていた。

 

「こんにちは。……えっと、今回は申し訳ないです」

 

「別に良いですよ。僕がやった事ですし」

軽く笑っておくことにした。顔は見えないが声からは誰なのかは大体察することが出来た。遠慮気味で木漏れ陽のような優しい小さな声。それ以上の言葉は今のところ付け足す必要はないだろう。

 

「そう言って誰かを困らせるのですか?」

雛さんはその言葉の通りに話していた。困っている、と言う理由は今のところは分からないがその通りだったのは言うまでもない。

 

「わざとではないですけどね」

 

「……だから困ります」

ぐっ、と最後の方に力を込めた言い方だった、唇を噛み締めて出血でも故意に起こさせようとさせていると思える。それほど雛さんの最後の方に出てきた語気は凄まじかった。僕はなんとなく理由を聞けなかった。だけど、聞かないと話が進まない。

 

「それはどうしてですか?」

 

「どうして人の心をいたずらにかき乱すの?」

 

「それは僕が理想と現実の間に居るからでしょう」

それが自分なりの答えだった。雛さんはゆっくりと口を開いてどうして?と聞いてくれた。

 

「僕には理想があります。お父さんは強者は誰かの支えがあってこそ成り立つ、と言っていたそうです。人の字を書いてみると分かりやすいですが、棒が二本で書けます。それはつまり、人自体が誰かの支えが必要だと示しているようでした。それでも、僕にはやり方は分からなくてとても強引になりました」

 

「理想の中にはお父さんも入ってるの?」

 

「はい。前までは嫌いでしたけど、圧倒的な実力とここでの活躍を考えると自分の身勝手な感情でしかありませんでした。もう本人に聞くしか手がないんですよね、色々と。それなので僕は取り敢えず言葉次第にやってみる事にしました」

 

「それなら他に沢山居たでしょう。どうして私なのよ?」

 

「あの時、一番近くて一番遠くの方にいたのが貴女だったからです」

 

「それだけなの。もっとに理由はない、の?」

 

「ここ最近出会ったのにどうして私なのかは事の成り行きとしか答えられそうにないです」

 

「他には?」

 

「もう無いです。話し尽くしたと思います」

 

「もっとよ。他にあるはずよ」

 

「そこまで焦っている理由は分かりませんが、僕が選んだのが貴女、そして応援したいと思った、僕からすれば今のところは知り合いです。他に出るのは距離を縮めてからでしょう。家族ですら、最近になって純粋に尊敬するようになりました」

 

「……私にはどうしても分からないわよ」

 

「僕は貴女を助けた。そして誰かに向ける優しさを聞いて、協力してあげたいと思った。仲良くなりたいと思った。それを聞いて雛さんは僕をどう思いますか?」

 

「分からないわよ。取り敢えず落ち着かせて」

雛さんはその場に一呼吸置いていた。そして、何を思ったのか右腕を伸ばして僕の上に乗せていた。僕は動くことも出来ないのでされるがままではあるが何をしているのかくらいは気になる。だからと言って聞こうとは思わなかった。

 

「……何してるんですか?」

聞かない、と思っていたがどうしても話をしないといけないような気がした。

 

「厄を送っているのよ。これで私を見限るでしょう」

僕には雛さんがどうしてこのような事をしているのかは不明だったがそれだけ僕のことを疑っているとも感じた。目には見えないものの、儚い手から出てくる厄とされるものはじんわりと温かい。

 

「不幸なんて人の感じ方で幾様にも変わりますよ」

 

「人肌に触れたいわ」

雛さんは変な要求を僕にした。

 

「腕くらいは出せますので」

 

「有難う」

優しい声ではあった。だけど、いつもよりも温かみがあった。

 

「……人肌に触れるのはいつぶりかしら」

そう言いながら僕の右腕をサラサラと撫でている。僕はこそばゆい感覚を覚えたがそれを口にはしなかった。

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