雛さんとの会話からは二日もかからなかった。動いても大丈夫だ、と検査の後で永琳さんの後で言われたので機能を回復するための訓練を行う事になった。最初に行われたのは立ち上がることだった。これで真っ直ぐに立てるかどうかを調べるらしい。
「それでは、起き上がることから始めましょうか」
今回の訓練に付き合ってくれるのは永遠亭では医者見習いの鈴仙さん。白いウサギ耳に白いシャツと紫色のブレザー、スカート。白色のハイソックスを履いている長い紫髪の女性。仰向けで布団に寝ていた僕はゆっくりと腰を曲げて起き上がることにした。
しかしながら、意外にも腰が固くなっているのか、起き上がるのが億劫だと感じるほどだった。永琳さんからの話だと半殺しの妖怪の背骨を移植したとか。深く理由は聞かない、とても怖いので。人間と妖怪の背骨を接合したことでその相性には誰もが疑問符を浮かべるしかない。前例がないからだ。よくやろうとしたが今は文句を言うことではない。幻想郷の裏側にあるルールと脚が使えなくなる実害を天秤にかけると圧倒的に良かったと思える。
「ゆっくりで大丈夫です。落ち着いて少しずつやっていきましょう」
確かに前例がないからこそ、鈴仙さんだけではなく、永琳さんも願うことしかないのだろう。だからと言って僕はこの現実に負けれる理由はない。いくら固かろうと、身体が鈍っていようと超えないといけなかった。そうしないと掴みかけた光も手から取りこぼす。そして一生届かないのであれば僕はどうしようもない、何を目標したらいいのかそれさえ見出せない。立ち上がることだけに集中した、今は。
「身体の調子はどうでしょうか?」
鈴仙さんは僕がいつ倒れ込んでもいいように手を差し伸べている。ただそれは甘えだと、それに頼るのは不味いと自分の中で察した。
いつ倒れようと私が見守ってます、と言いたそうな感じだった。それは構わない、患者を看る医者としてならば。
僕は両腕を使って上半身を起こしてから脚を折り曲げてその鈴仙さんの予想に反して早く起き上がらせた。脚も別におかしな点はない。あるとすれば脚の筋肉が細くなっているというところだろうか。
「暫く、付き添ってはくれませんか?」
少しだけふらつく脚から僕はそのうち倒れ込むのだろうと思えた。重心が何処か違う場所にある。その均衡を保つためにはそれなりに力を込めている必要があった。
「無理のない範囲で大丈夫ですよ」
「無理をしないと届かないんですよ。色々と」
「医者としては止めたいですけど。うーん、迷う所ですね」
鈴仙さんは特に僕に対して何かその時は伝える事はなかったが何かは言いたげだった。立っているのを維持しながら、僕は鈴仙さんの回答を待っていることにした。
段々と脚はしっかりとしていた。その重心にも慣れてきたような気はする。平然と立っている分には特に気にする事もない。
「もう歩くところまでやってみましょうか」
「そうしますかね」
「私の肩に捕まっても良いですよ」
「それは甘えです」
僕はそう思いながらふらふらと歩き始めることにした。布団の上から畳の上へと進む。足裏から感じる感触が変わると共に平然と歩いていた。特に鈴仙さんに頼る必要もないと思えるほど平然と歩いていられた。
「本当に甘えだったようですね」
「本当にそうなりましたね」
「付き添いは要りますか?」
「医者の判断に任せます」
「じゃあ、良さそうですね。しばらくはあまり体を動かさないようにしておいて下さい」
「そうなりますよね」
僕は軽く笑ったところで鈴仙さんは微笑んでくれた。