東方魔剣術少年   作:mZu

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第129話

 ここ暫く、晴れが続いている。心地よい明るさのある晴れではなく、曇りと感じてもあながち間違いではないという天候だった。つまり、ずっと気分の良い天気は見せてくれていない。それだからと言って僕がやる事は変わらず、していなかった分を取り戻すべく走り込んでいた。

 

 そこについては何も変わらないが、一点だけ違うところがあった。いつもより高度を低くしていた事。

 

 河原の広い此処では足場の悪い場所を走ることが出来る。いつもとは違う場所ではあるが、いつもとやる事は変わらなかった。

 

 真っ直ぐに踏み抜けないからこそ、足裏に集中を向ける。触れた時の断面を感じ取りながら、次にどこに行くのかを考える。それを走り抜けながら、段々と速度を速くしていきながら登ったり下りたりしていた。いつになったら追いつけるのかは分からないがやっている事に近道はないと思えば模索するこの時間も成長の一途を辿るとは感じている。

 

 ーーそれを何回か繰り返していたところ、人気のない妖怪の山の裏側と言うこともあり、不審者らしいのか声をかけられた。僕は特にやましい事はしていないのでそそくさと面倒ごとになる前に説明を終わらせて再開するつもりで軽く跳んで空中で姿勢を保持させながらその場で止まった。これもまた練習の賜物だとは思う。

 

 正直なところ、誰からどのような声をかけられたのかはあまり聞いていなかった。ただ、頭によぎったのは妖怪の山では警戒を厳しくしていてありとあらゆる怪しい人物に声をかけては事情を聞いていることぐらいだった。椛さんも忙しくしている以上、僕も何かしてあげたいがそれが叶わないところである。

 

「僕は走り込んでいただけですよ」

 

「それはもう知っているわよ。だからそんなに怪しまないで」

 聞いたことのある優しい声ではあった。そして、此処で出会うとすればある意味一人しかいないと思えた。

 

「雛さんでしたか。天狗の人が話しかけてきたと思いました」

 明るい緑色の髪を胸元の上の辺りで赤いリボンで結んでいる、ゴスロリ調の黒いドレスを着て茶色の長いブーツを履いている女性はその場で立っていた。手は前で組んでいて縮こまっているがそれも彼女の性格を表したものだとは思える。

 

「ううん。ちょっと興味を持って聞こえないだろうと思って話しかけてみたら、あの勢いを殺して止まったから凄く驚いたわ」

 

「いつもの鍛錬の賜物ですよ。出来るようになったのは最近なのですが」

 

「そういうものなのでしょうか。私にはとても想像が付かないです」

 

「もしかしてそれで怯えているのですか?」

 

「ううん。これは元々よ。疫病神は皆に疎まれる存在だと思っているから。けど、それも貴方には通用しないようだから」

 

「不幸や幸福は人の感じ方次第ですからね。貴女もそれは感じてませんか?」

 

「私には何も。だから沢山これからも応援してね」

 ぎこちない笑みを溢す。それでも何か引っかかっていたものが取れたような感じになっていて僕は少しだけ嬉しくなった。相変わらず腕を前で組んで静かにたたずむ姿にはその神の名残があったりするのかもしれないが。

 

「はい。僕も頑張りますから」

 

「それで貴方は何を目指してるの?」

 その質問は僕には意外と聞かれなかったような気がする。

 

「特には考えないです」

 僕にはこの程度の答えしか出せなかった。少しは考えたがそれでも溢れていく砂はすくってもすくっても止められそうになかった。

 

「考えもないのにどうして輝いて見えるのはどうしてかしら?」

 

「曖昧でどうしても言葉にならないと言いますか……。あまり言うものではないと言いますか」

 

「何か目標があれば輝いて見えるのかしら。私には理解に及ばないわ」

 

「それは自分で自分の可能性にフタをしてませんか?」

 

「そんなつもりはないけど……。でも、私もどう扱えばいいのかは分かってないわ」

 儚い夢に身を委ねるーー。それも人として、この社会を動かす一部として必要な事なのかもしれないがその姿に生命は感じれなかった。

 

「それは一人で考えて考えて、それでたどり着いた結論ですよね」

 

「誰もが匙を投げるものよ。とても一人で考えつくものでは」

 

「僕を、皆を信じてみましょう」

 

「そんなことを言われても」

 急な自信の喪失に僕は何となく気づけた。

 

「難しいですよね。これからですよ」

 

「いつも有難う。今日も、良いかしら?」

 突如として空いた隙間に雛さんはその身を入れた。言葉としての自分を二人の間に生まれた溝に流し込んだ。

 

「良いですよ」

 急な言葉とは言え、僕は拒否する気はなかった。

 

「有難う」

 

「はい」

 僕は右手を差し伸べる。それに擦り寄るように雛さんは顔を近づけて僕の目を見つめる。淡い緑色の瞳には僕の顔が映っている。少し色白い顔色にも熱は伝わっていてじんわりと右手の平から感じるそれは生きていると言うことを証明した。

 

「気持ち良いわ」

 

「良かったです」

 雛さんが僕の体の一部に触れたがる理由は露知らず、僕は人肌が触れる、それに何か意味があるのだと思う。僕の勝手な予想である以上、想像でしかないが満足そうな顔を見ているとそう思える。

 

「これ以上は迷惑よね」

 

「体が冷めると少し不味いですからね」

 

「今日は有難う。これはまた違う形で返したいけどーーもう少し待ってて」

 

「無理にはしないでくださいね。ゆっくりで良いですから」

 

「うんうん。この気持ちはいつか形にしないとまた無くしちゃう」

 

「前にも聞きましたね」

 少し前の話だった。前にも同じような感じで会った時に今と同じ悲しそうな顔でそれを雛さんの口から聞いた。あの時はあまり気にしていなかったが今はどうしても気になった。

 

「それは良いの。速くいってらっしゃい」

 

「あ、はい」

 その言葉のまま僕はもう一度走り出すことにした。

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