東方魔剣術少年   作:mZu

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地霊温泉珍道中
第131話


 今のところ、取り急いで行う用事は特にない。でも、この足は前にも感じた事のある悪寒からか凄く急いでいる。隣で俺についてくる人もとても大変ではある。

 

 魔法の森からは随分と進んできたように感じるがまだ開けた場所には出ていない。走れたら良かったのだが、それは少し叶いそうにない。

 

「申し訳ない。どうにも足を止められそうにない」

 

「……良いのよ。……気になるのでしょう」

 前にも手紙を書いてもらったことはある。その時は手当たり次第に遅れそうなところへと似た内容の手紙を送る手筈を整えてもらった。紅魔館や人里、後は博麗神社に、だが一向に返事は返ってこない。それはつまり、届いていないことを意味していた。それとも無視をされているのだろうか、それは彼奴の性格的にあり得ないのだろう。

 

「少し話は変わるのだが、疲れてはいないか?」

 

「本当はね。でも、私にはそうやって誰かを思うなんて出来ないから。少し見習いたいの」

 彼女は俺が感じるほどに息を切らしている。それを聞いているだけでも自分の行いに対する罪悪感に苛まれる。

 

「だからと言って、巻き込みたいとは思わない。無理だと感じたら一言だけ言ってくれ。俺だけでも彼奴の顔は拝む」

 

「私も意地はあるわ。こんなところで諦めるわけにはいかないでしょう」

 

「俺もそれは知らないわけではない」

 

「な、何よ!?」

 

「俺は急ぎたい、そして意地を張る相手がいる。お互いの利益になる行動をしただけだ」

 

「だからって、こんな。降ろしなさいよ」

 

「俺にだって意地はある。どちらが折れないとことは進まん」

 

「だからって、恥ずかしいわよ」

 

「それなら背中に移動しておけ。それなら幾分かマシになるだろう」

 

「……うん」

 彼女が折れた事で俺は更に移動する速度を上げることになった。今のところ、引っかかる問題は一つしかない。彼女には少しだけ我慢をしてもらうことにしよう。

 

「後で埋め合わせはする。今は耐えてくれ」

 

「……うん」

 一言、謝罪だけしたが余計に怒らせる結果となった。俺にはよく分からない。

 人はまばらながら、居る。それは恐らく不安から来る傍観だとは思うがそれでもいつ危害が及ぶかは分かったものではない。だからこそ、抑えられる限りはそうするつもりだ。

 

「兎も角、アンタは私を楽しませない。天界はとてもつまらないのよ」

 

「自由ですね。天人なんてそんなものですか?」

 

「いいえ。歌って踊ってばかり。そんなものに自由なんてものはないわ」

 

「そんなものなんですね」

 

「ええ。だからここで自由にやらせてもらっているのよ」

 

「上に立つ者は下にいる者を納得させるだけの品格が必要ですよ」

 

「だから何?私は天人だけど一緒にされるのは嫌よ」

 

「そこは僕には理解出来ないところですが、誇り高い人のようですね」

 

「その評価の仕方は珍しいわね。まぁ、良いわ。もう少し付き合いなさい」

 

「人様に迷惑をかけない程度でお願いします」

 

「そんなものは知らないわ」

 相手は自分の剣の間合いに僕を入れるように動き出した。向こうの方が間合いが長いので僕は迎撃の態勢をつくりあげる。向こうもここまでされては何らかの対策を講じるだろうとそれは予想していた。

 

 要石。

 

 真っ直ぐに飛ばして視界を防いでいた。それに伴って風の力も要石の回転と存在に吸われる。これでは相手が何をしてくるのかはよく分からなくなっていた。偶々なのか、気付かれているのかはまだ判断できないが自分のできる限りのことをしてみようとは思う。

 

 要石の回転を止め、少し上へと打ち上げ、自重で地面に突き刺さるように仕向け、その左側へと脚を進める。そこから一気に前進、要石を通り越して……。

 

 上。

 

 上から落としてきたのは要石。それも三つ同時。あの会話の最中に僕の反応できる範囲外に置かれていたらしい。とてもではないが僕もこれには相手に対して何かするよりも避けるという判断しかしなかった。

 

 土煙は簡単に立ち込め、辺りの視界を軽く遮る。もしこれが家屋や人の上に落とされるとなるとその時はどうにか出来るのか、それは不安でしかなかった。

 

 相手はまだ動いていない。

 

 先手必勝。

 

 僕は剣に風を纏わせて土煙の向こう側にいるはずの相手に対して攻撃手段を講じることにした。

 

 溜め込む。

 

 そして、前へと一本の光を与えるように切っ先を相手に向けて押し出した『二ノ技 風凸』。

 

 土煙を晴らすのではなく、逆に利用した。視界が通らないからこそ、一本の小さな一撃が効くと思った。相手に気付かれていなければではあるが。後は待つしか出来そうになかった。

 

「逃げた……?」

 そんな訳はないとそれは頭で理解している。ただ、あまりにも反応がないのだ。何をしようにも何もやることが無い。ただただ時間が過ぎる。その時間はある意味では恐怖でしかなかった。何をしてくるのか、それは知るにはまだ早い。

 

「いいえ。そんな訳ないでしょう」

 聞き覚えのある声。高らかで何もかもを上から見るそんな声。

 

 一瞬の出来事ではあった。大量の、数えるのも一苦労だと思われる量の要石を空中から地上へと撃ち下ろしてくる。まるで雨だった。それも強い雨、人を押しつぶすような量の。計り知れないもの。

 

 僕は一瞬だけ思考が停止した。この数を何とかしたいと思う。それをするための行動は白紙であった。天候は人の力では何ともならない。神に祈るしか道はないのだろうか。もう祈るしかない、人命を尽くしたら。神に。

 

 僕は一気に大量の風を剣に纏わせることにした。そして、基本的なものである地歩、僕が空中で同じことをやろうと勝手に作り出した空歩を作用させながら自分の身の回りに剣を纏わせた。そして、後はその場で舞い切るしかなかった。それがどうにかなると信じて僕は自分の身を左右上下に振り回した『九ノ技 竜舞鎌鼬』。

 

 地面から飛び上がり、要石の回転を止めつつ、無力したところで場所を比較的安全なところへと落とす。その中で相手の攻撃を対処をしていた。

 

 右下から振り上げる。それを感じながら左腕で地面に着地して肘を曲げながら相手から遠ざかるようにして跳ね、再度放つ。まだ、数としては半分にもなっていない。

 

「どうしてそんな無駄なことをしてるの?」

 僕には答える言葉は出せなかった。そんな余裕はない。やった事がないことにやれない事が重なった。

 

「そんな雑魚、放っておけば良いのよ。私たちの戦闘には全く関係ないわ」

 それにも僕は答えない。変に黙りたくなった。この人の考えに賛同は出来なかった。協力してもらってこその強者だ。無意味に破壊を繰り返すだけならそれは力に振り回されているだけなんだと思う。

 

 その中で僕は上空から降り注ぐ要石の回転を無力化し、今居る街道の縁の方へ落としていく。多少だが、屋根が削れたかもしれないがまるで使い物にならないということはないと思いたい。それほど数と大きさは段違いだった。

 

 非力だ。この戦闘で勝てないとその先が続かない。型が違うから負けたのは言い訳でしかない。

 

 どんな戦いであろうと捌き、自分の力を示す。そうだろう。自分に言い聞かせた。

 

 何の為の日々の訓練なのか、と。今まで何をしていたのか、と。一人の人間としてこの場で出来ることは何なのだろうか、と。

 

「こんな命いつでも誰にでも消せるわよ」

 僕は全てを捌いて地面にたどり着いてから彼女は一言そういった。今なら、口を開く事ができる。

 

「それを守るのが強者の為す事です。貴女のような暴虐な方から守るのが今の僕にできる事です」

 

「アンタ、私に勝てると言いたいの?」

 

「いいえ、別にそう言いたいわけではないです」

 

「じゃあ、何よ?」

 

「本物は存在で強さを示す。貴女は行動で示す。まだまだ手の届く範囲という事です」

 

「あ、そう。なら私も応えてあげる。広くしましょう」

 彼女は確かにそう言った。その直後、轟音と共に要石は動き出した。地面からは土煙が立ち込め、石の前には土の塊が溜まっていく。そして、木材もメシメシと音を立てながらゆっくり、ゆっくりと削れていく。その様子を見るしか出来なかった。何処か数カ所を同時に止めようとも残りの何十数箇所が動き続ける。止めればそれ以外は止められない。

 

 要石に押されつつある家屋は未だにメシメシと音を立てていた。だが、僕にはどうにか止める方法はない。それでも耐えていた。本人に攻撃を与えてもいい。ただ、そうすれば周りの人間の生活はどうなる?

 

 逆に食い止めようとすればどうする。要石はさらに強い力で皆の生活を破壊するのだろうか?

 

 あの人の性格は自分さえ良ければ問題ないとそう言うつもりなのだろうか。

 

「ふざけるなよ。」

 僕でも驚いている。ここまで止まらないと思ったのは、怒りが。その手に宿る力も早く剣を振りたくて仕方ないらしい。僕はそれを自我を持って食い止めるしかなさそうだ。

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