東方魔剣術少年   作:mZu

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第132話

 人里に入って暫くは経った。流れてくる人は俺たちとは反対の方向へと逃げていく。そして何処からともなく出ている音はとても不快でまるで世界が終わると思われる予兆かと感じる。空も少しだけ暗くなっているような気はした。

 

 更に先ほどの岩は何だったのだろうか?大量の岩が空に現れては方向を変えて落ちていった。それからだった。

 

 野次馬はいないわけではない、と思う。それでもあの状況で見ているのは相当な胆力の持ち主なのだろう。それとも前にも会ったことのある自警隊と言うものだろうか。

 

「あの、もうそろそろ降ろして欲しいんだけど」

 

「あ、あぁ、申し訳ない」

 

「人の目に見られたらどうするのよ」

 

「二人の仲がいいのが証明されるだろう」

 

「冗談は辞めなさい」

 

「二人で人形劇をやっているのは事実だろう」

 そう言いながらも俺は降ろすことにした。彼女には酷になりそうだった。

 

「それはそうだけど、ね。とりあえず向かいましょう」

 

「そうだな」

 嫌な気はしている。そうなのだが、それほど感じた時よりも強く、嫌な感じはしていない。何処かで気にしていないとそう思える。

 

「それで何処なの?」

 

「正直分からん」

 

「私が人形を操るから、少し待ってなさい」

 仕方なさそうに彼女は俺にそう告げる。

 

「手を煩わせてしまった」

 

「それは良いの」

 そう怒りっぽく答えた彼女も本当の意味ではなさそうに思える。俺はそれ以上の言葉はかけなかった。

 

 場所さえ伝わればそこへ向かうつもりだ。取り敢えず今は返答を待つ時間を過ごすだけだろうか。

 ジリジリと家屋が、これまで平穏に生きていた日々が失われ、壊れていく。その様子を僕は見ていられなかった。激しい炎に巻かれているような熱が体の中から外側へと抜け出そうとしている。だからと言って、僕はその力を全て出し切ればいいわけでもない。ほんの少しだけ疑惑はある。

 

「さぁ、どうするのよ⁉︎アンタの判断によってはもっと酷くなるわよ」

 

「ふざけるなよ」

 

「ん、何?」

 

「……ふざけるなよ!」

 僕はこの時には既に脚が地面を蹴り出していた。空中に浮かぶ僕の身体は次の着地を待っていた。

 

 無意識に感じる身体能力の増大も激情に駆られるこの身体も少しだけ待っては欲しかった。止める人がいない、このまま沈み込めば誰も止められなくなる。それだけは避けたい。

 

「やっとやる気になったのね」

 彼女も僕の行動を見て、満足をしたようだった。しかし、それはどちらかと言えば起こしてはいけないもので自分の体とは言え、僕では抑え込めなかった。

 

 出せれば、負ける事はない。だが、自分の意とは反するのでどのようになるのかは本当の意味で分かってこない。

 

 彼女を振り回す剣を僕は受け止めた。右斜上から来る、それを回り込みながら日本の剣で止め、横を通り抜ける。壊れていく家屋とは垂直の位置にならないように移動しておく。

 

 振り下ろしたところから水平に振る。

 

 僕に向けて本格的に戦闘へと入り込んだ彼女の剣はそれなりに鋭かった。

 

 足裏で地面を噛みしめ、ぐるりと回転をしながらその身を低くした。そして、後ろに飛び去る。未だ平常は保っているがそれがいつ決壊するのかはどうにも決められない。相手はそんな事は構う事はなくその身に持つ剣を振る。

 

 僕にとっては捌けない程ではないが攻撃に転じることもできない。そんな感じでどこまで近づけば良いのか、どこまでその身を振り回せば良いのか、それは見極めていた。

 

「どんどん行くわよ」

 彼女にとって、僕との戦闘はやはり遊びの領域からは出ないらしい。僕からすれば、これはもうそういう場所ではない。

 

 真正面から振り下ろす一撃を僕は右脚で弾いた。剣の横から、あの幅を蹴り飛ばす。これはお父さんがやっていたものだ。そして右脚が着地をする前に振り上げる。同じ脚で前に失敗したところを蹴り飛ばす。

 

 刺すようなものではなく、面で押すような感覚に切り替えたことで相手の体勢を崩す事にした。それは功を奏したらしい。其処から前へと走り出す前に自分で止めた。そうしないと止められそうにない。

 

「もっと来なさいよ。楽しくないじゃない」

 

「もう楽しめそうにありませんよ」

 

「どうしてよ?」

 

「他の関係のない人を巻き込んだ。それはもう遊びではなくなりますよ」

 

「そんなのは関係ないでしょ」

 

「取り敢えず、意見は相反しているので口では解決できそうにないです」

 

「なら、これで勝負をつけるしかないじゃない」

 

「嫌です。木は人を守るためにこの剣を振るいます。復讐のための、誰かに危害を加えるためにこの剣は振るいません」

 

「なら、良いわよ」

 彼女は赤い刀身の剣を地面に突き刺して、自分の身の前で腕を交差させてから思い切り外側へと押し出した。

 

 置かれ、止まっていた要石は再び動き出す。

 

 再びあの轟音が鳴り響く。あの時よりも遠くまで聞こえてきそうな音で家屋が壊れていく。いとも簡単に壊れていく大量の人々の生活、僕にはもう止められなかった。

 

「く、くぅー」

 歯を噛みしめ、声を出して出ていかないように我慢した。

 

「どうよ、これで少しはやる気になったかしら」

 

「良い加減にーー。」

 

「まぁ、待て」

その声は確かに聞いたことのある声で、かすかに懐かしいと思える。この人になら、任せられる。

 青いドレスの服装をした金色の髪の人形が三体返ってきた。彼女曰く、大体の目星はついたようでそれを教えてくれるらしい。

 

「人里の中央寄りの北側で騒ぎはあるわ。そこに行ってみましょうか」

 

「そうだな」

 俺としては彼女に全てを任せている以上、嘘だろうとその言葉を信じる必要はある。少なくともそのような事はないと思っている。

 

「何も起こらないなんて思わないけど、貴方はどうするつもりよ」

 

「もし、助けが必要なら加勢する」

 

「怪我はしないようにね。いろいろと困るから」

 

「分かってはいる。だが、どうなるかはまだ見えてこない」

 

「とにかく、早めに向かいましょう。何があるかは確認しておきましょうよ」

 

「そうだな。それにしても心配にはならないのか?」

 

「信頼してるもの」

 

「そう、か」

 彼女の顔は今の間は見れなかった。変に気恥ずかしい。兎に角人里の中央寄りの北側に向かい、先ほどの空中に浮かんでいた石や謎の轟音には注意して進んでいく事にした。彼女には引き続き人形を使って情報収集をしてもらいつつ、俺が逃げ惑う人々の合間を通り抜けて道を切り開いていく事にした。

 

 ーーそう走り出して大体の位置まで走ってきた。後ろには彼女が居て、目の前には友人が居た。周りは空中に浮かんでいた石があって家屋を程々に壊していた。そして友人は自分の怒りを抑えながら、相手を傷つけまいと動いている。俺はそれを静観しているつもりだった。

 

 だが、そうも言っていられない。青い髪の女性が腕を開いた時に横に置かれていた石が動き出した。近くということもあり、耳に響くような音がしていた。

 

「きゃっ!」

 彼女は耳を塞いで突然の事に少なからず驚いていた。この数だ、そしてこの音。いくらいつも冷静とは言え、こうもなるのかもしれない。俺は近くに行って、寄り添ってあげる事にした。

 

 その間、友人に近づく手立てを探していた。彼女にはとても悪いがここからも仕事はありそうだった。音が収まってから彼女に聞いた。

 

「少し頼みたい事がある。良いか?」

 

「何よ?」

 

「人を近づけないようにして欲しい、大至急だ」

 

「あまり時間がないの?」

 

「そうだ。後、お前はここから離れた位置にいてくれ。彼奴にもそっちの方が良い」

 

「どういう意味?」

 

「答えている暇はない」

 

「く、くぅー」

 友人はあの状態で無我になるのを抑えている。だが、あれがいつまで続けられるかは俺にも理解の範疇にはない。

 

「何よ?何か話してよ」

 

「早く、何処かに」

 

「どうよ、これで少しはやる気になったかしら」

 誇らしげな声で答える女性。とんでもないもので神経を逆撫にするその感覚はどうにも理解は出来ない。俺だって流石に手を加えてやりたいがそれは自分がやる事ではない。

 

「良い加減にーー。」

 友人とて、そうなる。それでも溜め込んで、溜め込んで苦しそうにしているその姿を見て俺は協力くらいはしてやろうと思った。

 

 彼女にはとても悪いが軽く突き飛ばした、転ばない程度であるが彼女にはとても理解できないものだった。言葉をかける暇もない。

 

「まぁ、待て」

 俺は友人の肩を掴んでおいた。これ以上何も壊させない、そう思いながら。

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