東方魔剣術少年   作:mZu

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第133話

 少年は問う。

 

 何をしていたのか、と。

 

 彼女は答える。

 

 此奴と遊んでいた。アンタには関係ない、と。

 

 少年は再び問う。

 

 どうして家屋を壊してまで此奴と戦う必要があった、と。

 

 彼女は答える。

 

 そんなのアンタには関係ない、と。

 

 別に俺はその事については気にしていない。ただ、やった事に関してはとても許せるものではなかった。それだけは伝えておきたい。

 

「国を愛し、民草の安寧な日々を願った一国の王子にこの行為は逆鱗の中でも一番触れてはいけない場所を殴ったようなものだ」

 

「私は天人よ。歯向かうつもり?」

 

「此奴の信念を崩した奴は神だろうが戦うつもりだ」

 

「じゃあ、此奴の代わりにアンタが私の相手をしてくれるの?」

 

「いいや。その必要はない」

 

「避けてばっかで楽しくないから、もう良いわよ」

 俺は彼女の発言を無視した。友人を道具扱いにも等しいように聞こえる言葉を発した事で俺も少しばかりか気分が晴れた。仲裁のつもりで入ったが俺も少しは協力してやる事にした。

 

「俺に任せろ」

 

「後は頼みました」

 俺はその言葉を聞いて後ろに下がる。後は友人に任せて俺は徹底的に補助に尽力するつもりだ。

 少年は静かに剣を納めた。戦闘はする、そのはずなのに、其処に殺気はない。静かに、とただ静かに其処にたたずむ姿は大木であり、ずっしりと根を構えていた。

 

 一呼吸、置いた後で少年は一歩ずつ歩き出した。その速度は亀といい勝負が出来そうな程で誰もが抜かせそうなそんな速度。

 

「こんなに当てやすくするなんて何考えているのよ?」

 彼女は何も知らない。普段怒らない人が怒る、ということを。人が何かを守る時に発揮するその底力を。何より、彼の実力を。

 

 要石を何の捻くれもなく投げつけた彼女はそれだけで勝負を決した、とそう思えるほど余裕の高笑いをしようとしていた。

 

 当たる。

 

 その瞬間に要石は地面に突き刺さった。一瞬の出来事で彼女には何が起こったのか、その表情を大きく崩す程度には理解出来ていなかった。神や仏、自分よりも地位の高い人物でも誰がここまでやれると想像出来ただろうか。

 

 彼女は自分のの能力を遺憾なく発揮して少年を追い詰めようとする。前方広範囲から無差別に落とし込む無慈悲な連撃に地面から音が鳴り、辺りは土煙で目では様子が伺えなかった。それだからこそ、彼女は漸く悪夢から醒めたと思えた。そこから音はない。誰かが居るという感覚もない。

 

「アヤマレ」

 

「何?」

 

「アヤマレ」

 

「誰よ?」

 

「アヤマレ!」

 その声に抑揚はない。そして声も低く、かすれるような声でそれは悪役の親玉を思わせる。

 

「だから何?誰なのよ?」

 彼女も突然の声に戸惑っていた。そんな矢先、彼女目掛けて要石が飛ばされる。先の尖った大きな石でしめ縄が取り付けられた神聖なものだと思われるそれは彼女にとっては何でもないもの、そのはずなのにとてもそうだとは言えそうになかった。慌ててそれを能力で消す。

 

 そこから現れたのは少年だった。黒い髪、そして腰には二本の剣。体躯は彼女とそう変わりはしない。しかし、大きく見えた。自分よりも幾分か、何倍も大きく見えた。

 

 そんな存在からの左脚の回し蹴り。下へと沈み込ませるように放たれたそれを避ける手段はなかった。要石に身を隠し、取り除いた瞬間には彼が居て、視認した時にはもう既に当たっている。そして、気がついた時には後ろから蹴り上げられていた。

 

 おかげで倒れるようなことはなかった。彼女にとってそれが一番気になるようなところであった。

 

「ワビロ」

 

「そんな事するわけないじゃない」

 

「ワビロ」

 

「だから、私が何をしたのよ?」

 

「ヒトビトノアンネイヲ」

 少年はゆらり、と彼女の前に現れる。その様子には殺気も闘うという気迫も何もない。しかし、そこに居たのは目の前の敵をどうにかしようとしている優しい雰囲気を持つ少年だった。

 

「クズシタツミヲツグナエ」

 

「良いわ。こうでもないと楽しくなさそうだもの」

 

「ツグナエ」

 少年はその場から歩き出した。彼女もそれは視認していた。そのはずなのに、近づかれるのは一瞬だった。

 

 はっ、として後ろを向いた時、彼女は自分の右脚が後ろから跳ね上げられていた。突如の事に力は入らず、簡単に後ろへと倒れ込んだ。其処に少年は追撃を加える。踏みつけるような一撃を彼女へと与える。

 

 少年の左脚が地面に着いた時、彼女は吹き飛ばされて半身程、地面を滑っていた。

 

 少年は左脚を自分の身に戻しながら、その場で垂直にその身を伸ばした。そして相手の方を向く。

 

「ウバッタモノヲカエセ」

 

「いったいわね!」

 

「ヒトノセイカツヲオビヤカスナ」

 

「頭に来た。本気でやるわ」

 彼女も立ち上がる。ここからは本当の意味での戦闘になるのだろう。彼女の闘うという意思はそれなりにあった。しかし、それを受け取るにはあまりにも少年が何の気も浮かばせていなかった。

 

 静かに佇む。

 

 静かに相手の目を見据える。

 

 静かに相手の動きを予想する。

 

 静かに相手に近づき、相手の動揺を誘う。右腕から振るい出した剣を左脚のかかとで側面から叩き飛ばす。

 

 そこから戻し、下腹部と太腿を足裏で蹴る。それから両腕で力を溜めて何かを吐き出すように両手で同じ場所を押して突き飛ばした。

 

 彼女もそれだけでは諦めなかった。落としかけた剣を再び握り、少年に斬りかかる。それと同時に側面から要石を出現させる。

 

 少年は相手にもしなかった。

 

 左腕を振り下ろし、要石を地面に突き刺す。それから相手の手を掴んで軽々しく受け止めた。これ以上はこちらには来ない、それはある意味静かに命を削ろうとしていると思われる。

 

「ナニガタメニソノケンヲフルウ」

 少年は剣を持つ相手の手を全て止めていた。この言葉に疑問符はない。押し付けるような威圧感のあるそれには感情は込められていない。冷たい言葉で彩られた少年の話し方に彼女はその身を燃やす。

 

「私は私のやりたいようにやる。自分の生活を守るために働くのとそう変わりはしないわ」

 

「ソレガダレカノメイワクニナロウトモカ」

 

「それは仕方のない損害よ。気にするだけ無駄」

 

「ソウカ」

 少年にとってその言葉が最後になった。リミッターとして働いていた自我が外れた。

 

 唾を右手の親指で弾いた。

 

 それから地面を少しだけ削り、横向きに滑らせると両足裏で地面を蹴り出した。

 

 彼女はその身の危険が迫っていることに要石で対抗しようとした。自分の前に出し、必死の思いで防ごうとした。

 

 抜刀。

 

 その時には要石は真っ二つに割れていた。石の力もそう通用しないということを意味していた。

 

 切れた裂け目から覗かせた少年の目は確かに殺気に満ちていた。脳に直接訴えてくるような真っ直ぐな眼差し。心臓が締め付けられるように痛くなりそうな程だった。

 

 そして少年は静かに剣を鞘に納める。音はない。

 

 二人の間の距離は何方かが剣を振れば簡単に当たる距離。そうなのだが、片方からすればその距離は途方もない距離であった。その場でずっしりと構えている。

 

 腕はたらん、と吊り下げられ顔は相手を見ている。そして、動きを見せずに腰を少し低くしているその姿。正にいつでも切れることを予感させる。

 

「ツグナエ」

 グン、とくるその声。

 

「アヤマレ。ワビロ」

 怒りという感情に全てを任せている声。

 

「ダレカノセイカツヲフミニジルナ」

 その時には相手が剣を振り始めていた。

 

 親指が唾を弾く。

 

 刹那、相手の剣はその空間から消し去られた。そして鯉口に当てられた峰が擦れば音を出している。

 

 いつ抜いたのか、それも相手には分かっていなかった。

 

 自分が振った、その瞬間に剣はその人から見て左方へと飛び出した。

 

 目を丸くして、相手はその場から動けなかった。

 

 また、唾は跳ね上がる。

 

 その時には天を仰いでいた。

 

 相手はその視界の変容に時間的に置いていかれていた。目を閉じたり、開けたりして現実であることを確かめた。言葉も出せず、その場から動く気力も根こそぎ奪われて人形のようになっていた。

 

「ソノイノチデタスケロ」

 少し上の方から声はしていた。掠れた優しい声で言葉を放つ。

 

「ソノイノチデツグナエ」

 鯉口と唾が強く当たる。それを見ていて何も感じないわけではなかったらしい相手はその場から動けずとも逃げ出そうとしていた。

 

「リカイシタカ」

 彼女は頭を縦に振った。それは本当の意味で命乞いをしていた。言葉は使えない、呂律の回せない状況でできる意思表示は体を使ってやることしかなかった。

 

「ツギハ、ツギハ」

 壊れた人形、標的を失った自我のない狂気は次の相手を探して彷徨う。

 

 彷徨う。

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