大きな深い穴に一つの橋。赤い色をしているが寂れていて古臭さを感じる。味わいがあるとか、趣があると言えたらいいが青二才がそれを言っていいのかは定かではない。
その先には街があり、提灯から漏れる赤い明かりが僕達を誘うようだった。その前に橋を渡らないと向こう側にはいけない。それは分かっているが誰か居た。
橋の欄干に片肘を置いているキセルを吹かせた女性。地底という事で薄暗く、色合いがわかりにくいが金色で翡翠色の目が特徴的である。着物と洋装を組み合わせたような服装で黒色のスカートの裾には赤い糸が、明るめの茶色の羽織の袖には白色の模様が橋を彷彿とさせる。耳の先が尖っているように見えるが気のせいか何かだろうか。
「こんにちは」
僕は通りがかったついでに挨拶をして過ぎていこうとした。
「観光客ね」
「そうですね」
僕は其処で脚を止める。
「私によく挨拶なんてしたものね」
「機嫌が悪かったですか?何がありましたか?」
「そんなんじゃないわよ」
妬ましい、強い語気でそう言った。彼女はどうして此処まで口が悪いのか、それは僕には分からなかった。僕は何かしたのだろうか?
「普通、私になんて声をかけなくて良いのよ」
「綺麗なのに……。どうして自分を卑下するんですか?」
「妬ましいわね!アンタには関係のないことでしょうが」
その人は急に怒り出した。
「確かに関係ないですけど。気になりますから」
「自分の身は大切にしなさいよ。地底は元々忌み嫌われた妖怪なんかが沢山いる場所だから。どうなっても知らないわよ」
「知らない経験が聞けて面白そうですね」
「もしかして頭おかしいの?危険だからとっとと帰りなさい」
「帰りなさいって。僕は何かしました?」
「危なっかしいのよ。見ていてハラハラするわ」
彼女にとって、僕はどのように見えているのだろうか。それについては誰も分からないだろうが、聞いてみた。
「どうしましょう?ケプリさん」
「……とにかく、危険な場所ではあるようだな」
「……そうですね」
「だったら、帰りなさい」
「好意だけは受け取らせてもらう。お気遣い痛み入る。だが、俺たちは温泉に入りに来た。それだけはやらせてくれ」
「……好きにしなさい。私はどうなろうと知らないわよ」
彼女は変わらず悪態をつく。それにしても僕達は何か嫌なことを言ったのだろうか。それだけはどうしても疑問に残る。
「そうさせてもらう。行こう」
「道だけ聞きませんか?」
「そうだったな。其処の方、もう少し付き合ってもらえないだろうか?」
「チッ、仕方ないわね」
露骨にも程がある舌打ちをかまされたところでケプリさんはその人の目を見て話を始めた。
「地霊温泉だったか、その場所を教えてくれないか?」
「此処をまっすぐよ。大きい街道があるから其処をまっすぐ行きなさい。寄り道しなければすぐに着けるわ」
「あまり気乗りしていないようだな」
「妬ましいのよ。彼処はとある男がとある鳥を使って生み出した温泉なのよ。能力を上手く使って出来たものなんて。認めたくないのよ」
「という事は少なからずあまり良い印象はないというだな」
「ええ。私もあんな風に成功してみたいものだわ」
「ありがとう。それでその地底ではどうして忌み嫌われた妖怪が沢山いるのだ?」
「例えば、私は嫉妬を操る能力を持っているわ。人の嫉妬を増幅させる、単純だけど恐ろしいのよ」
「嫉妬、か。人によっては厄介かもしれないな」
ケプリさんは妙に納得していた。
「そうなのよ。それで地上では居場所がないから此処にきたのよ。まぁ、簡単に言えば自分から此処にきた人と入れられた人がいるわけ。分かった?」
「つまり、嫌われ者の集合地と言ったところだろうか。それで危険だと。その気遣いは有り難いがそう心配することもなさそうだ」
「何よ?私の言葉は信用出来ないわけ⁉︎」
「いや、あまり意味がなさそうな奴が一人いるからな」
「確かに、二人にずっと使っているのに何も効果を示さないから。特に後ろの奴よ。子供なの?」
ビシッ、と指を刺された僕。僕はこの時、どのように反応すればいいのかは分からず、目を丸くすることしかしなかった。
「確かに世話がかかる。同感だ」
「何か酷くないですか」
「何なの?」
「取り敢えず、嫉妬とは何か説明してくれないか?」
僕はその質問は意味合いはどうにも分からなかった。話すだけ話してみようとは思うのだが。
「個人が他人が持っている魅力なんかに対する尊敬の裏返しですよね」
「だそうだ。合っているか?」
「もう、良いわ。早く行きなさいよ」
「済まない、迷惑をかけた」
行こうか、ケプリさんは僕を呼んで先に歩き出そうとした。僕はそれについて行く。
「ほっといて良いんですか?」
「決定打はお前だ」
その言葉でその話は尽きた。