第140話
街から出て程なくして、ようやく入り口にたどり着いた。その形は大きく、城のような風貌、そして淡い黄色が基本となっている見るからに派手な様相だった。周りが暗いからこそ、余計に目立つ。
「遠くから見えてましたが凄い存在感ですね」
僕はそんな事を話す。確かにその大きさはとてもではないが目立たないとは思えなかった。
「大きさは城のようなものだな」
「ここが地霊温泉ですか。早速入りましょう」
「そうだな」
僕は中に入ろうと歩く。壁は白く、静かな趣がある。門は程々の高さで自分の背とその半分を足したくらいだった。その中には庭園のような場所が広がる。石畳の小道の側には木が生えている。緑が映えるこの場所を後で歩いてみるのも悪くないと思った。
「景色が一変した。後で歩くのも悪くないだろう」
「僕も同じこと考えてました」
「そうか。とりあえず今は中に入ろうか」
「そうですね」
ケプリさんが今度は先行していた。その辺りのことは大体はケプリさんに任せている。どちらも手持ち自体は少ないが僕はそこまで使い方は知らなかった。
落ち着いた雰囲気のある内装に一人の中居。その人の顔立ちは綺麗で若さを感じる。麗かだった。
「ようこそお越しくださいました。こちらにお座りいただきお履物をお脱ぎください。この場で脚を洗わせていただきます」
綺麗な一礼だった。誰かが教育したのだろう、品位を感じる。そして、僕達の前に水が張られた桶が運ばれた。僕たちはその中に脚を入れて手で揉み解されていた。
「今日はどのような目的でいらしましたか?」
「温泉に入ろうかと思う」
「もし宜しければ、宿泊も出来ますが如何なされますか?」
「頼むことにしよう」
「お二人でよろしかったですか?」
「ああ」
「それではお部屋について、どのようなところにされますか?」
中居は一枚の紙をケプリさんに渡していた。じっくりと見ている間、僕は軽く背中を曲げてゆっくりとしていた。
「ここで頼む」
「承知しました。何かご質問、ご要望が有ればここまでいらして下さい」
「お履物は布で包んでお客様で保管して下さい。布はお部屋の方に置いておいて構いません」
それではご案内します、そう言ってから僕達は脚を上げて水気を拭き取ってももらった後で部屋へと案内された。木製の廊下に部屋に取り付けられているガラスで出来たランタン。そして防音がしっかりしていそうなドアだった。それをいくつも見てから自分の部屋に案内された。
「こちらです。それでもごゆっくり」
「有難う、助かる」
「有難うございます」
「さて、部屋に入ろうか」
ケプリさんに先に行ってもらってから僕はその後をついていく。荷物を置いて、浴衣に着替えるとそのまま聞いてから浴場へと向かう。
○
何処にあるのか、それを聞くのは野暮だと思う。
木製の看板には足元注意と書かれている。木製の浴槽の中、濁り気のある多少なりぬめりとしている程よい温かさのある温泉。熱くはなく、だからといって温くもない湯加減はゆっくりとじっくりと僕の体を温めてくれる。
こう、ゆっくりとした時間を過ごしているのもいつぶりだろうか、とは思っていたりする。ここに来てからは暫くはこのような時間は無かったように思える。
「気分が良い。それに限る」
白い肌を赤らめかけているケプリさんは頭の上に後で体を拭くための布を乗せてゆっくりと湯に浸かっていた。そういう僕も姿はそうかわりないのだろう。
「そうですね」
「しかし、人は少ない。何があった?」
「ここまでの道のりを歩いてこれる人が居ないからでは」
「それは間違いないだろう。だとしても、俺たち二人だけなのは何か理由がありそうだ」
「そこは気になりますけど、今はそれは気にしなくても良いのでは」
「やはり今聞くのは不味かったようだな」
「今はゆっくりとする時間ですからね」
「そうだな。この時間を楽しもうではないか」
ケプリさんは目を閉じ、頭を体勢を楽な姿にさせていた。僕もそれに見習って同じような体勢に変えるが少しばかりか合わないので自分なりの楽な姿勢を見つけてからはそのままでいる事にした。
それからと言うもの、会話はなくただただ時間を過ごすだけで地底という今まで脚を踏み入れなかった場所で友人と二人でなんでもない時間を過ごす。
その時間、経験は今まで味わったことのない感覚を与え、いつの間にか終わりを迎えていた。記憶にない、と言うわけではない。記憶すると言う脳の働きが停止するほどなんでもない時間を過ごしたと言うことだった。
「そう言えば、小道に行こうと思うのだが、どうだろうか?」
「言ってましたね。行きましょうか」
「決まりだな」
ケプリさんに先導されて外に出掛ける。それについて疑問はない。