東方魔剣術少年   作:mZu

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第143話

 平たい透明なテーブルと黒い革のソファー、そして自分で汲んだ紅茶を三杯用意した。

 

 二人の前に出した時に素直に喜んだ方と毒が入っているのではないか、と疑った方。二人はそれぞれ別の反応を示す。だが、ここまで正反対となるとどうして気が合うのか、それが知りたかった。出逢ったばかりならば、此処に来る理由なんてものはない。あったとしても何日かすれば消え去る運命ーー。ならば、彼らの関係とは一体。

 

「これが紅茶というものですか。慣れていないのか、微妙です」

 子供というのは偶に残酷な事を言う、それはある意味世間の邪な思いに縛らない生き方をした人にも見られる。まさか、こんなふうに会えるとは思いもしなかった。

 

「まぁ、何だ。私はあまり心を読まれる事については疑問がある。だが、此処に来た理由はわかるだろう?」

 

「心は読めますので此処に来た理由はよく分かりますよ」

 恐らくだが、ケプリはヒカルのことをまた別の目線で見ている。そうでもなければこのように過保護になるようなこともないだろう。

 

「地底という場所はどのような人が居るのか、どのような生活をしているか。そんな所でしょうか」

 決して嘘ではない、二人の心を読んでみると純粋な興味を示すのがそれらだった。私としては答えられるものはそうするつもりではある。一人だけ変に乗る気になっていないが恐らく板挟みになっているのだろう。

 

「と、その前にケプリさんの心は読みませんので安心してください」

 

「ふむ、そう言われてしまっては此方も警戒を解くほかないか」

 

「ケプリさん、何をしようとも筒抜けなんですから警戒しても仕方ないですよ」

 

「その適応力は……。いや仕方ないか」

 

「お父さんの事ですか。そうですね、そうだと思います」

 私が心を読むよりも早くここまでしっかりとした意思表示をされると能力を使っている意味合いが無くなってくる。逆に早くいうことで能力を潰されているとさえ思える。でも、彼にとっては素の状態なのだろう。

 

「地底について話す前にその父親について聞いても?」

 

「お父さんは突拍子もないことをよく言うんです」

 

「例えば?」

 

「悪人をどう処罰するか聞いてきたり、何か言ってふらっと居なくなったり。後は話の最中に居なくなったり」

 どれも嘘ではない。彼の言うことと、心の中の様子は変わる事はなかった。本心からそう思っているそうだが、そこに恨みはなく静かな喜びがあった。正直言ってよく分からない。二人とも王子である存在だとは思いもしなかった。そうでもないとあんな衛兵が二人を見ているはずがない。彼の思い浮かばせていた情景からはそんな様子が伺える。

 

「随分と破天荒なのですね。聞いていて、見えてきた景色がどれも関連がなさそうに思えます」

 私としても地底を統べる者だが二人とは天地の差がある。まさに言葉の通りに感じるのは私だけなのだろう。此処をあの緑目の橋姫に漬け込まれそうな所だ。二人の仲が、二人の境遇が羨ましい。

 

「そうですね。おかげでどのような状況でも驚かなくなりました」

 それは冗談だった。でも、悪意ではなく、そうなりたいと言う願望、そうはなると楽しくなるかもしれないと言う不安から来る期待。そんな所だろうか。

 

「統べる者として必要になります。貴方達もそうでしょう」

 

「此処では肩書きで生きるつもりはない。普通に名前の通り、一般人として扱って欲しい」

 

「それは僕も変わりません」

 私の羨望は二人の軽い言葉に簡単に砕かれた。そして、心を読まれているのにも関わらず、これだけ動じないとなると本物としか言いようがなかった。

 

「でしたら、お二人方は私の事は名前でお呼びください。私もそのように呼びます」

 

「そう言えば、さとりさんには何か目標はありますか?」

 

「いいえ。何も無いです。私も地底に落ちるべく落ちた嫌われ者ですから」

 

「それは居るだけでしょう。生きてくださいよ。抜け出すのは自由だと思いますよ」

 

「ヒカルは私の能力について何も思わないでしょうけど、普通は隣のケプリのように身構えてしまうものですよ」

 

「ケプリさんは慎重ですから、余計だと思います」

 ケプリはこれまでもそしてこれからも苦労をするでしょう。それでもついて行きたい理由は何となく分かります。

 

「それはヒカルの前だけ。本当は意外と活動的のようです」

 

「それも知ってます。だから、安心して出ていられるんです」

 少なくともヒカルはケプリのことを信頼している。それは逆も然り。ある一定の信頼を持ってヒカルのそばを離れようとはしない。お互いに支えてもらって二人で生きている。でも、一人でも問題はない。もう二人の仲を切るのは容易くないだろう。

 

「二人の仲は生半可な気持ちではないようです。視ていればよく分かりますよ」

 

「それは良かったです。でも、気恥ずかしいものですね」

 

「褒め慣れていないようですね。其処も凄く良いと思います。と言うことで、本題に入りましょうか。地底というのは……。」

 遠くから聞こえる騒がしい呼び声。そして、二人にも聞こえていそうな足音。騒つく心に私は二人の本性を見た。

 

「さとり様、さとり様!大変です。鬼人 正邪が暴れ始めました。鬼達が止めていますがどうやらお空の力も奪っているようで手に付けられません」

 

「それは大変な事になりましたね」

 騒つく心、二本の支柱にて私の行く先を防いだ。

 

「行きましょうか、ケプリさん」

 

「あぁ」

 二人の会話はそれだけだった。心の中でされた会話はそんな比ではない。まるで心の中が見えているように絶大な信頼を持って二人で進んでいく。

 

「客人にそこまでしてもらうのは気が乗りません」

 

「困ったときはお互い様です」

 

「もしもの時のためだ。俺なら援護できる」

 ーーそう、二人には私の言葉は通らなかった。それは心を読んでいれば分かっているはずだったが実際に聞いてみないと分からなかった。憶測で心を読んでいた私にとってこの二人は眩しかった。

 

「お燐、この二人も連れていかせなさい」

 

「はい。本当によろしいですか?」

 

「良いわよ。二人ならいけるわ。私の心を読む能力は忘れているとは言わせないわよ」

 

「読まないと言ってなかったか?」

 

「興味があったの。申し訳ないとは思うわ」

 

「些細な事ですよ。行きましょう」

 ヒカルは天真爛漫の少年だった。楽しいと思えばそれを全力に表に出す。言葉よりも動きで表現する彼は誰かの手綱は必要だった。

 

「兎も角、邪魔した」

 私は手を振りながら二人のことを見送る。吉報か凶報かそれは二人に委ねてみる事にしよう。

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