東方魔剣術少年   作:mZu

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第147話

 昨日の雨とは違い、水によって洗い流した悪いものを乾燥させるような明るい朝となった。昨日とは本当に違う。それは朝、起きた時、その瞬間から分かっていた。

 

「命蓮寺の場所は昨日教えましたので一人で行けますよね?」

 

「流石にそこまで子供でいるつもりはないですよ」

 僕は寝ぼけながらに答えた。椛さんの手を煩わせるほど手を焼かれる覚えはない。そう思いたいが結局のところ、僕は何かしてあげられた事はなかったりする。それでも椛さんは嬉しそうに毎日食事を作ってくれるのだが。それが一番怖かったりする。本人には聞けないが何を求めているのか、それは気になるところではある。

 

「そうですよね。暫く食べれなくなるのでちゃんと味を噛みしめてくださいね」

 

「ご飯食べれないんですか?」

 

「そういう意味ではないです。此処では食べれなくなるので、意味合いとしてはそういう事です」

 

「そうでしたか。てっきり食べれないのかと」

 

「そこまで厳しくないですよ」

 椛さんは冗談を言われてたように楽しげに笑う。そういう姿は普通に女性だった。怒った時、本気の時はどうしようもなく怖いものだが。

 

「そうですよね。安心しました」

 

「私には何とも言えませんので、聖さんに色々と聞いてください」

 

「はい。そうすることにします」

 僕にはこの食事は塩辛かった。いつもなら感じることのない味だった。椛さんが分量を間違えたとも、わざとやったというわけでもなかった。

 

 悲しい味がした。

 木製の大きな門に白い塀に囲われた敷地、此処が命蓮寺だった。僕は意外にも遠いと思っていたがそうでもないらしい。あまりにも静かなものだからなんとも言えない感じになった。

 

「こんにちは!」

 大きい声で挨拶をされた。僕はその声の大きさには耳を塞ぎかけたがニコニコ、としたその笑顔を見て悪意はないのだと思った。前には居たような居なかったようなそんな感じ。それほど記憶にはなかった。

 

「こんにちは。今日から体験入会するヒカルと言います。数日ほどお世話になります」

 

「どうぞ!お入りください!」

 

「そうさせてもらいます」

 その声の大きさはとんでもなかったがその悪意のない笑顔には僕は何も言えなかった。挨拶をすること自体、悪いことでもない、余計にそう思えた。そういえば、何処からか読経の声がしたりしていたのはこの人のしていることなのだろうか。帰りにでも聞いてみようか。

 

 僕はそれから中に入り、白い石畳に足を置く。それから前へと進む。やはり、綺麗な場所は清々しい気分になる。こういう場所では不可欠な要素なのだろう。落ち葉一つない庭と綺麗な本堂。そこで待つのは紫髪にウェーブをかけた尼僧が座っていた。その姿には神々しさも感じる反面、人間味のないその姿に僕は不思議な感覚に苛まれる。

 

「こんにちは。聖さん」

 

「こんにちは。お待ちしておりましたよ。此処まで来るのは疲れたでしょう。一度、休憩と致しましょう」

 優しい目だった、仏のような。そしてそれは機嫌の良い時の椛さんだった。

 

「それで良いのでしたら。構いませんよ」

 

「すぐに茶と茶菓子の用意をさせますね」

 

「お手数をおかけします」

 

「良いですよ。そこまで改まらなくても」

 

「これは自分の気持ちですよ。何か与えたこともありませんから」

 

「いけませんよ、そういう謙遜は。人の慈悲は受け取っておくものです。この世で価値があるのは愛ですから」

 

「その理由だけ、聞かせてもらえますか?」

 聖さんの言ってもらっている事は僕には理解できなかった。それは急に出てきた言葉が愛だったから、というわけではない。どちらかと言えばこの世の価値についてだった。

 

「愛というのは貰える人はいくらでも貰えます。それこそ、生きているだけで、子供が良い例だと思います。そして、貰えない人は幾ら自分が動いても貰えません。そういう意味合いですよ」

 

「詰まるところ、その茶菓子は聖さんからの愛だという事ですね」

 

「恥ずかしい話がそうなります。私の場合は期待の愛ですが。好みの愛を向けている方も居るのではないですか?」

 

「僕にはあまり。区別が付いていませんから」

 愛なんていうものは僕にはどのように向けられているのか。昔からよく分かっていなかった。お父さんは僕を毎日のように鍛錬してくれた。僕が倒れても立ち上がるように促されては倒される一種の虐待ではないかと思うほどの厳しいもの。けど、僕はほとんど毎日やっていた。不器用な人だとお母さんから聞いていたから、やり方を知らないから自分なりのやり方をするのだと、僕は聞いていた。だからこそ、僕は愛の形はわからない。そうやってやれば正解とは思っていないから。優しくしていたらそれで良いとも限らないから。愛の形は何かは知らないから。

 

「少しずつで良いです。少しずつで。貴方は誰でもないのですから」

 

「そうだとは思いますけど、実感が湧かないのが事実です。だからこそ、こういう所に来るように言われるんでしょうか」

 

「貴方は自分が好きですか?」

 

「好きとか嫌いとかそういう事を考えた事はないです」

 

「それはつまり、貴方はそのまま貴方を認めているのです。素直に受け取ればいいのですよ」

 

「そうなりますよね」

 

「さぁ、ゆっくりと過ごした後は写経をやりましょう」

 

「元気ですね」

 

「年甲斐もなくはしゃぎすぎたかしら」

 

「その明るさは人を引き寄せると思います」

 

「そうなのかしらね?」

 

「僕だってこの本堂にどれぐらいの人がいるくらいは分かりますよ。聖さんもこれだけの人に愛されていることを受け入れてみてはどうですか?」

 

「……まだまだですよ」

 聖さんとはそれ以上はこの場では話さなかった。これから写経を行う予定らしい。聖さんはその後も色々とやってもらいたいようだ。

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