第149話
大きな平たい机に対面した聖さんと僕。目的は何かは分かっている。それはここまでの感想なのだろう。優しい雰囲気のある聖さんだが、今回は少しだけ邪気が混じっている。嫌なことか何か隠しているのだろうと思った。
外はもう暗く、遠くに置かれている蝋燭も変に雰囲気を醸し出している。お互いの顔色は見えるが部屋の四隅の燭台らしきものと机の上の皿の上に寝かせた蝋燭の火だけだった。
「今日はお疲れ様でした。何か感じた事はありますか」
聖さんは本当に問いかけるように聞いていた。僕はその優しさもどこから出てくるものなのかは何となく分かってきたような気もする。
「物事は不変なものですから、感想という固定した言葉をつけるのは違うものだと思います」
「そのような回答も良いでしょう」
聖さんはうんうん、と何度か頭を上下させていた。僕はその様子を見つめながら話すべきか、そうではないかを観察していた。
「面白い着眼点ですね。幾度となく挑まれた方でも出るような事はないでしょう」
よく似ている、聖さんは自分の話をその言葉でしめた。誰に、というのは聞くのは野暮だろうが気になったものは仕方がなかった。
「誰に似ているのですか?」
「……貴方のお父様です。あの方は普通の人でありませんでした。幾分か時代を間違えているとしか思えません」
何となくだが、褒めているのだとは思った。だけど、ある意味では汚しているようにも思えなくもなかった。それでも、黙って言葉が紡がれるのを待った。
「人は弱い生き物、だからこそ目に見えない物にすがり、助けを求める。が、それが人が生きていく上で不可欠な要素なのだろう。そのように内容を概略するとそのように言っていました」
「そして、それは仏教を否定するという訳ではなく、宗教を否定するものでした。そういうものに興味がないのかと私が聞いた時には貴方のお父様は『先祖の考えは大事にする。歴史は紡いでこそ価値がある』と言いました」
「お父さんらしいです。勉学にはよく励んでいる姿を僕も見ています」
「その時に歴史について、そうではなくても昔の伝承を学んでいたのだと思います」
「敵わないですね、お父さんには」
「勝ちにこだわる理由は何かあるのでしょうか?」
聖さんは優しく僕の呟きに耳を澄まし、聞いてくれた。
「師を超えたい弟子の気持ちと同じですよ。いつかは何かで抜かしたい。出来れば居るうちに」
「その点においてはとても欲深そうです」
「もしかしたらそうかもしれません」
「……もし、私の力を貸すとしたら欲しいでしょうか?」
「要らないです」
聖さんの口振りから、少し悩んでいたのは読み取れた。だけど、僕は自分の意思を貫きたかった。だからこその困惑させる程の即答だった。
「その理由は?」
「同じもので勝負したいんです二刀で風を使いながら。自分の考えついた答えで。下らないこだわりです」
「いいえ、その心持ちはいつか身を結ぶでしょう」
「それで、聖さん。本題は何ですか?」
その言葉に動きを止めた。まさかの切り返しに返答は用意していなかったようだ。
「実は貴方のお父様が危篤状態らしいです」
「……知っています。そして、どこで潜伏していることも」
「そうですか。実は今日、急に貴方を呼び出したのにはお父様に頼まれたからです。この事を伝えるように、と」
聖さんのそう言った後の表情は明らかに暗かった。僕とお父さんの因縁はやはり理解されにくいのかもしれない。それだけ性格的に合致はしないのだろう。
「それはどうして?」
「お父様が話す限りでは、時間がなくなってきた。だからこの事を伝えるための口実を作って欲しいという事でした。それは何を意味するのかは私には分かりませんが平和的に解決する術はあると思います。だから私から話すのは渋りました。ですが、向こうには相応の覚悟はあるようで私は椛さんに手紙をほとんど同じ内容で送りました」
「そして、僕を体験という名目で呼び出して今、その事を話したという事ですか」
「いえ、私から話すつもりはありませんでした。貴方が私が嘘をついている事を見破りましたから。仕方なくこの事を伝えました」
「本当は誰が言うつもりだったのですか?」
純粋にその事が気になった。聖さんの思惑も何かしらあるとは思うがそれは僕が無駄にしてしまった。聖さんはお父さんと僕の約束は知らないと思うのでどうしてそのような事を伝えようとしているのか、其処までは分かっていないと思う。
「豊聡耳 神子さんです。あの方なら伝えられると私が思いましてその事を伝えました」
「そうですか。明日、朝から向かう事にしましょう。準備は手伝います」
「それは助かります。ですが、最後に一つ、お父さんを超えてからどうしますか?」
「今のところは何も。ですが、本当の意味で超えたとは思えないのは確かです」
「……そうですか。また、何かあればいらしてください」
聖さんの言葉は冷ややかで重たかった。だけど、それ以上は聞けなかった。答え方を誤ったのかもしれない。