東方魔剣術少年   作:mZu

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第150話

 何となく眠れなかった、それだけは覚えている。何でもない言葉でも気になるものは気になる。僕はその引っかかりをどのように解消するのが良いのか、それを悩んでいた。しかし、こう届かないと思って諦めてしまうのも何か違うとは思えてしまう。しかし、何をするのが良いのかは今のところ、僕には分かっていない。

 いつのまにか着いていたその場所は間違いなく仙界だった。前にも見た事のある光景が広がっている。あれはいつの時だったか、それはよく知らないけれど。前に魔界に行ってしまった時に偶然にも見つけていたような気はする。

 

「随分と早い到着だね」

 

「迷惑でしたか?」

 

「いやいや、早めに用件が済みそうだから安心したよ」

 その人が神子さんだった。金色っぽい薄茶色で耳と疑いそうなほど尖った二つの何かがある髪型をしている。耳元には音を遮断するイヤーマフがあり、金色の文字で和、と書いてある。袖のない薄紫色のシャツに紫色のマントを羽織り、右腰には剣を携えている。スカートは紫色で下駄のようなものに白色の足袋を履いている。その先は見えない。

 

「何か、ありましたか?」

 

「あの人の頼まれごとは変に重たくてね。だから早く伝えておきたい」

 

「聖さんは神子さんから聞くように言われていたのですが、その事ですか?」

 その真実は知っているのだが、隠しておいた。聖さんには悪い事をした、その償いだと思ってくれたら良い。勿論、その場で謝りはしている。

 

「その通りだよ。君のお父さんが危篤状態にあり、勝負を挑もうとしている。長くてニ月と言っていたような気がする」

 

「約束は守ってくれるようですね。それは良かったです」

 

「その約束は知らないのだが、随分と元気は無くなっていた。それに生きたい欲はあれど、死にたい欲もある。不安定な状態だった」

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「それは分からない。けど、君に託したいという欲は十分過ぎるほどだった。恐らく、残りの人生は君に託すのだろう。だから、それだけの覚悟を持って向かっていってほしい」

 私から言える内容はこれぐらいだ。そういう神子さんは口元に笑顔を浮かべていた。しかし、目は笑っていない。

 

「そして、君は倒した後はどのようにしたい」

 

「聖さんにも言われたが、まだ答えはないです」

 

「そうだろうね。君に生きたいという欲は感じられない。何の為に今を生きているのか、それを知りたい」

 僕は考えた。だけど、それは何を言えばいいのかはまだ形にはならなかった。どうしても綺麗な言葉にはならなかった。

 

「僕には助けたい人がいる。答えはなくともその先で自ずと見つかると思う」

 

「それも良いでしょう。私にも託されている。君がどのようにこれからを歩むのか、太陽の道なのか、月の道なのか。それは恐らく今は定まらないだろう。静かにそれでも刻一刻と近づいている。躊躇っていると目の前の壁はいずれ超えられなくなる。恐らく、君は色んな人の想いを背負っているのだろう。道は険しくとても登れる道では無くなるだろう。それでも足は止められない。もし、勝ちたいとそう思うのであれば。生きるというのはそういう事だ」

 

「つまり、君には生きたいという欲は足りない。だけど、それには似合わない程人の想いがある。それに応える心が必要だ。戸惑いは要らない、その間に遠のく、君の目標がね」

 神子さんはそのように僕の事を評価してくれたのだと思う。僕はすぐには言葉には出せなかった。思い当たる節はある。その先、何があるのかは全く分かっていない。だけど、迷っていれば確かに道は暗くなるばかりなのだろう。そう思うと僕は頭を抱え込みたくなった。

 

「神子さん、有難う御座います」

 

「いいや、これは頼まれた事だ。道を示してほしいとね。匿名だから名前は言わないよ」

 

「実感がないです、その時が近づいていると言うことに」

 

「私が頼まれていた事は以上だ。何も無ければ命蓮寺まで送ってあげるつもりだが、どうだろうか?」

 

「是非」

 

「うん、ならば向かうとしよう」

 神子さんに言われるがままだった。僕はまだ路頭に迷っている。ただ、どこに向かえばいいかはどちらと言えば鮮明な気もする。取り敢えず、今は技を磨いていることにしよう。

 ……と、思っていたのだが、命蓮寺に着くなり何が始まっているのかと思えば、霊夢さんが札を投げている。聖さんはそれに応戦しているようだ。いきなりの状況に僕はどうしようか、迷ったが神子さんが向かうので僕も向かう事にした。

 

「丁度、頭が二人揃ったわね」

 霊夢さんはこちらの気分が悪くなる程に身を震わせていた。何が目的なのか、何をしようとしているのか。それは何も見えてこなかった。霊夢さんが何をもって聖さんと対峙し、神子さんと僕がいる事で頭が揃ったと言う発言になったのかは僕にはよく分からない。

 

「これはどういう状況かな?」

 

「神子さんは仙界で迎え撃つ準備を。私はここで時間を稼ぎます」

 聖さんの言い方は真剣そのものだった。何らかの巻物を構えながら霊夢とは対峙している。状況とは関係ないが聖さんが戦闘も行えたのは驚いた。

 

「そうはさせないわ」

 霊夢さんは僕達に向けて札を投げてきた。手一杯に持っているそれを多方向にばら撒く。様々な軌道を描きながら札は向かってくる。それを僕は避ける事に徹した。足裏が地面に着くその間際で走り続ける。不規則な札は近付けてから急な方向転換で何とかなった。それは神子さんも変わらなかった。何をしたのかは分からないが避けていた。

 

「博麗の巫女だったか。ここに居る二、三人を相手して無事に帰れると思うのかい」

 

「その方が良いですかね」

 僕は二人の輪には入ろうとは思わなかった。正直なところ、僕に戦いに参加する理由はない。攻撃を受けたといえ、目的が僕ではないと思う。誤射というものだろう。

 

「青年の息子も入ると良い。貴方にはどちらでも選ぶことが出来る」

 そのように神子さんは僕に向けて話してくれた。僕は少しだけ考えたが実際のところ、別にそれはどちらでも良さそうな気がしてきた。入る理由はある、入らない理屈はある、それだけだった。

 

「霊夢さんは何が目的ですか?」

 

「仏教と神道の先導者を潰す事、それ以外はないわ。でも、貴方はこちらに着いた方が後々、幸せになるわ」

 

「見るからに悪人の霊夢さんの味方は難しいですね。三人で霊夢さんと相手しようかと思います」

 

「後悔するわよ」

 僕に迷いはなかった。何があれど、この二人を倒す理由にはならない。僕に教えてくれた事は少なからず悪いものではない。その事を霊夢さんは知らないだけ。考えが甘いかもしれないがそれは僕の個性だ。

 

「それでも立ち上がる。皆の支えで」

 僕はゆっくりと霊夢さんの元へ歩き出した。

 

「さて、私たちは支援に徹しますよ、聖」

 

「その方が良いかもしれないですけど。良いんですか?」

 

「聖が苦戦するなんて相手も本気のようだしね。それと後継者を育てるのは私たちの役目だろう」

 

「それだけではないでしょう」

 

「青年の息子ならばどうなるのかいうまでもない」

 

「そういう事にしておきましょうか」

 二人の会話を聞くのは其処までにして僕は霊夢さんと対峙する。歩くまでに風は補充しておいた。

 

「アンタを倒す理由はなかったけど、今はあるわ。覚悟なさい」

 霊夢さんの手から放たれるその何十枚からなる札の弾丸は軌道を曲げて、変わって様々な方向から現れる。そういう時に扱えるもので勝負する事にした。避けに徹し、相手の出方を伺う『気まぐれの風』。

 

 左右上下から札は現れるが僕は何も気にしなかった。僕の事を執拗に追いかけているが僕は地面のすれすれを跳び続けた。足裏が地面に触れないそのギリギリで僕は何度も脚を伸ばして地面を蹴っては方向を思い切り変えていく。

 

 ゆっくりと近づいてくる本人も僕は何もしなかった。

 

 ゆっくりと横に抜けて通り過ぎるだけ。僕には攻撃をするという思考回路は作らなかった。相手の出方を伺い続けるだけで僕からは刺激はしない。それから全てを把握してからゆっくりと抑えていく。そうでもしないと相手には勝てなかった。速い速度の弾を避ける為には攻撃を考えている時間は今のところなかった。そして、それだけの速度を出す為に最低限の事しか働かなかった。自分の意思で動き続けて、自衛本能で避けて続けていく。その中で入れる隙があるならば、全力で叩き込む。

 

 段々と効力が無くなる札が多数、そして霊夢さんの手によって補充される札も多数。増えていく札の動きにも目と風の感覚で避け続ける。隙間を縫うように動き、霊夢さんに近づいては当たらない所まで高速で逃げる。世間では屁っ放り腰といわれる行為だろうが人間は下手すれば一撃の擦り傷で死ねる。だからこそ、こうするしかないのだ。

 

「夢想封印」

 一瞬だけ動きを止めた霊夢さんはそれを叫んだ。それから間も無くして七色に光る弾が僕の前に展開された。僕の脳裏にはヘカーティア・ラピズラズリの遊びの弾幕が想起された。でも、あの時よりは少しくらい強くなっていると思う。

 

 だから僕は負けなかった、過去を乗り越える。

 

 僕の左手は柄を握る。それから抜刀した『一ノ技派生 抜刀風刃』。

 

 それから僕は目の前の弾幕を避け続ける。弾自体はそれ程大きくない。そして、数もどうしても少ないように感じる。見ているだけでも隙間があると感じる。それに最低限の遮蔽物はある。それだけでも助かる。抜いた剣は鞘には納めなかった。此処からは攻撃に転じればいい。そして、あわよくばこの状態からでも一撃は加えてみたい。

 

 と言ってはみたものの、やはりそのような隙はなかった。だからこそ、弱い一撃を前方方向に一つずつ飛ばす。刀身の厚さのものから一振りのついでに出たもの、それも全ているだろう場所に打ち続ける『九ノ技 龍舞鎌鼬』。

 

 身体を空中で止め、そこから逃げ、地面に音もなく着地し、そこからまた別の場所に低姿勢のまま走り続ける『四ノ技 風舞』。

 

 自分の前で剣を一回転させて壁を作り上げる『六ノ技 防風』。

 

 矢を弾く際に扱える翅のように動かす『胡蝶の舞』。

 

 出せる限りの技は扱う事にした。その中でも即死になるもの、そもそも使えないものは使わなかった。

 

 勢いを殺す為に地面を滑り身体を回転させて相手の方を見る。

 

 右手は剣を持っていたので親指、人差し指、中指で。左手は剣に当たらない位置で手の平で。両足は付けれる所は全て付ける。そして、顔は地面すれすれまで落とす。

 

 そして相手の動きをそのまま待ち続けた。

 

「どうなってんのよ」

 其処には片膝を付けた霊夢さんが居た。僕は飛び込まなかった。

 

「神子さん、聖さん。本体はどこにいますか?」

 僕は目の前の霊夢さんが偽物である事は風で知っていた。それでも何をするのか分からないのであれば注視する。指一つ、その動きも見逃さなぬよう。

 

「そう言われても」

 二人は困惑していた。視界に入らないのと言えばそれはそうなのかもしれない。上は少しだけ気付くのには遅れた。物理的に距離が遠くなる上に上、斜め方向は偶に見逃す。僕の技が未完成だからだ。

 

 僕は指先で柄頭を押し出して地面に軽く突き刺さりそうなところで足裏で押し込んだ。正確には飛び上がる為の足場にした。

 

 僕は霊夢さんに向けて直上を目指す。そこから体勢を整えて左脚を回す。霊夢さんはそれに注目する。避ける姿勢をとったところで僕はそこには放たない。

 

 右足の裏で空中を蹴り出して回す角度を変える。避けようと前に姿勢を出していたことが霊夢さんにとっては災いだった。僕は左足も空中を蹴り、両脚を揃えるとそのままとある場所へ振り下ろす。我ながら残酷で非常な攻撃ではあると思う。

 

 立ち上がれなくなった霊夢さんが地面に横たわっている。僕は空中から地上へ降りた。

 

「霊夢さんはやり方を間違えたと思います」

 霊夢さんは立ち上がる素振りを見せたところで僕は話しかけた。そして、僕は自分なりの主張をしてみる事にした。

 

「数は圧倒的な力に負けます。その圧倒的な力は同じ思いを持つ何かに負けます。同じ思いを持つ何かは数も力も有しています。霊夢さんはその思いを潰してまで幻想郷を守りたいですか?霊夢さんは幻想郷の住人を何らかの形で殺しても良いと思いますか?僕はそう思いません。だって、守るものがないですから、下から支えてくれる人が居ませんから。自分の首を絞める行為は辞めましょう。霊夢さんの今の行動に少なくとも此処にいる人たちは賞賛はしませんから」

 

「じゃあ、私はどうやったら幻想郷を守るのよ!?アンタはどうやったら守れると思うのよ?教えなさいよ!早く」

 

「簡単なことですよ。具体的に何をするかそれを宣言する事です。霊夢さんが何の為に此処に来たのかは僕には想像出来ませんが、恐らく重要な理由はあるのでしょう。ただの殺戮ではないと、霊夢さんの言葉で説明して下さい」

 

「私はね、幻想郷を守る為に、博麗神社の信仰を取り戻したいのよ!そうじゃないと幻想郷が終わるかもしれないわ」

 

「信仰を取り戻したいから恐怖で人を押さえつけるのであれば、それは守るではなく、支配すると変わらないです。その反発は霊夢さんでは止めれませんよ。この人数に負けるくらいですから」

 

「早くしないと幻想郷が終わるわよ。結界が消えかかっているのよ!?早くしないとアンタだって困るでしょう」

 

「紅魔館で読んだ書物の内容なのですが、神は世界を作るのに六日掛けたそうです。でも、壊すのは一日で足りるそうです。それは信仰同じです。無くすのは簡単ですが、取り戻すのは容易いものではないです。これから、霊夢さんがどのような行動をするか、それにかかってます。どうしたいですか?」

 

「私は何をしたら良いのよ?」

 

「此処で修行とかしてみたらどうです?」

 

「馬鹿じゃない。何で私がこんな所で修行しないといけないのよ」

 

「こんな所に負けている霊夢さんはそれよりも下ですね。それに霊夢さん。敵情視察は重要ですよ。自分に足りないもの、勝てるものがあるかもしれませんから」

 

「例えば何よ?」

 

「聖さんでしたら、僕に人としての生き方を経から教えてくれました。神子さんは僕に足りないもの、足りているもの、必要なもの、不必要なものを教えてくれました。霊夢さんは何が出来ますか?」

 

「知らないわよ」

 

「とにかく、今日はお帰りください」

 

「分かったわよ」

 霊夢さんはそれからここから離れていった。使われた札は百何十枚、その紙切れは命蓮寺の庭に散りばめられたままだった。

 

「剣、抜くの手伝ってもらえますか?」

 僕は二人に少し笑いながら話しかけた。

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