東方魔剣術少年   作:mZu

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第151話

 この三日、人里では傷害事件が起こっていた。不意ではないが、故意ではあった。そして、本人は自分の名を名乗り、その場を去る。傷害を加えるのは抵抗がなければ一人で、一発だけ。しかし、その一回で多くの人間が怪我を負わされた。捻挫や骨折、内出血……その他の怪我を負って人は心も折られていた。

 

 人里の人間も抵抗はした。しかし、その怪力には誰も対抗出来なかった。その怪力に勝つには同じく力を持つ怪物、これまでの異変を解決していった巫女や魔法使い、メイドに剣士、薬売り、その他。その人達へ情報が伝達された速度は今までの比ではなかった。そして、解決に向かってきたその速度も今までとは異なる。

 

 幻想郷を守る側としてこの脅威に脅かされるのは御免だと、いつもは怠け気味な巫女でさえ思っている。それがこの速さへとつながった。

 

 異変の解決をした事のある人達が到着したのは情報が伝達した当日、三人が訪れた。

 

 博麗の巫女、博麗 霊夢。

 

 魔法使い、霧雨 魔理沙。

 

 紅魔館のメイド、十六夜 咲夜。

 

 三人によってこの小さな事件の解決へと向かった。

 大きな太陽に照らされた人里、恐怖の立ち込める中で一人悠々と歩いていた。笠を被り、白い動物の仮面を被る老年の男性は腰に携えている刀の柄を触りながら、何かを準備していた。

 

 その人も前に現れたのは銀髪の青い服装をしたメイド。

 

「貴方ね。人里で人を傷つけているのは」

 

「そうだ」

 男の返事は軽いもので、三文字だけだった。その潔さはある意味死期を悟っているようだった。

 

「何をしたいのかは分からないけれど、此処で観念しなさい」

 その人からふわり、と空間が広がる。羅針盤をモチーフにしたような紋様があたり一面に広がりつつある。

 

 男はそれを刀を一振り、それだけで崩した。

 

「何、者よ」

 

「そう驚くことでもない。前から何も変わってなければ破られる事は想定内だろう」

 男は即座に鞘の中に刀を収納させた。その時に音は鳴らない、少なからず目の前のメイドには……。

 

「良いわ。それぐらいの不利は覆せるわ」

 此処までの経験、それを全て使っても止める、咲夜はそんな気分を拭えなかった。

 

 男は唾を親指で弾く。

 

 それと同時に放たれた六本のナイフは剣先を叩かれ、別々の方向へと散らばる。男から見て前半分、それを等分するようにナイフは軌道を描いた。

 

 咲夜が目を見開いた刹那、男の刀は鞘に納まっている。咲夜は前から来る六本のナイフはを避ける事で身体に刺さるという難を逃れた。その間、あの速さならば一撃は与えられた。それをしなかった男を見ていた。

 

「その程度の不利とは言ったものの、思いもよらぬ事態になったようだな」

 

「よくそんなしおれた声で此処までの力を出せるわね」

 

「俺は今日のために生きてきた。死に急いでいるからだろう」

 

「だったら、一人で死ねばいいじゃない。誰かを傷つける理由にならないわよ」

 

「そうだ。ならない。が、それは本当にそうだろうか」

 

「何を言っているのよ。意味が通っていないじゃない」

 

「悪事を働いて誰が得をすると思う」

 男は咲夜に問いを投げかけた。別に答える必要はない。それに、男も動いていた。

 

 咲夜は動かしかけた頭、口をそのままに太腿に備え付けているナイフを投げる。両手から三本、計六本のナイフは男の残像を斬り裂き、後ろへと流れていった。あれが何処まで行くのかは見当はつかない。ただ、順調に数を減らされている事だろう。

 

 男の動きは目に見えている範囲では早くはなかった。それこそ、普通に走っている程度、目で追えないはずはない。

 

 なのに、咲夜の首筋には刃が近づいていた。この時、何をされたのかはされた本人には何も分からなかった。

 

 防御はしたはず。それなのに、男の刀はそれを通り抜けてその先までやってきた。

 

「生憎だが、これ以上、敵に回す事はしない。早く去れ、ピーマンの嫌いな子供を悲しませる理由はない」

 男はそう言いながら、刀を鞘に納める。咲夜を突き放し、背を向ける。再び静かに歩いた男の背中に一本のナイフ。男はくるり、と身体を回転させて受け流す。

 

「だったら、本人を呼べばいいじゃない」

 男の背に向けて咲夜は叫ぶ。その目に何かは浮かんでいた。

 

「察してくれ。俺だってこんな事はしたくない。特に世話になった人を斬るなんて真似は」

 

「私が止める理由なんてないじゃない」

 

「そうだ。迷惑はかけた。次が来て、片付くまで何処かで眠っていてくれ」

 咲夜の身体は軽々しく浮く。鳩尾に放たれた鋭い弾丸が咲夜を意識不明にまで陥らせた。倒れ込む、そして立ち上がる事はなかった。そう、まるで息を引き取ったかのよう。

 

「到着が早いな」

 また始まる。男の惨劇が。

 

「誰かは知らないけど、これ以上迷惑は掛けさせないわよ」

 黒い髪、赤い大きなリボン、白い袖に赤の巫女服、赤い丈の長めのスカート。博麗 霊夢は持ち前のお祓い棒で男を指した。

 

「何が目的なのかは知らないが、ここで観念してもらうぜ」

 金色の髪、黒いとんがり帽子、黒いベストとスカート、白いシャツ。霧雨 魔理沙は箒に跨りながら、悪魔的な笑みを溢す。

 

「そうか」

 男は二人の事を蚊帳の外であるかのように扱う。視界に入れど、興味はない。そんな感じだった。

 

「素っ気ない態度ね。どうでもいいけど」

 霊夢は裾から札を取り出す。八枚をばら撒き、多方向へと飛ばす。札は霊力が込められていて対象者に張り付く事で効力を発揮する。それまでは本当の意味合いで紙切れのように風の流れに任せるまま漂う事も一直線に向かわせることも出来る。

 

 ただ、相手が悪かった。

 

 刀を一振り、男は静かに鞘に刀を納めた。

 

 札は二分化され、ただの紙切れとなる。八枚ともそれに例外はない。綺麗に斬り裂かれ、風に流されて何処かへと飛んでいくその様は何処かもの悲しい雰囲気を醸し出す。

 

「相手が悪かった。そう思って此処は退いてはくれないか」

 

「そんな事するわけないじゃない」

 

「そうだぜ。二人で攻撃を合わせれば、まだ何とかなるだろうぜ」

 

「そうか。ならば早く始めよう」

 男は他人事のように吐く。二人はその言葉を真に受けた。

 

「行くぜ!霊夢」

 

「任せなさい、魔理沙」

 星々の煌めきをそのままに空から地面へと降り注ぐ光の数々は彗星のように空を描いた。一つ一つの星は小さくとも、それが塵、塊と変わりつつある。

 

 それに合わせるように十六枚の札が空を舞う。赤い文字の描かれた白い紙は青い星の数々の合間を抜けて、男の元へと近づいてくる。

 

 男は特に動くような事もしなかった。一面に広げられた星と札は男の視界の目の前に広がっているはずだった。

 

 土埃が舞い上がる。そして、音はそれ以上は聞こえなかった、風の音しか聞こえない。柔らかい風だった。

 

 それは生きているという証拠、そして視界を埋める程度ではまだまだ足りないという事を意味していた。

 

「優しい弾幕だった。残念だが、俺はごっこ遊びは御所望ではない。もう少し血を湧き立つような弾幕を頼む」

 男は刀を抜いていた。右腕を伸ばしてその先には緑色の弾が出来ていた。男は笠で顔の半分を隠していた、そしてその顔も仮面で隠れている。それでも楽しそうにしているのがよく分かる。静かにそれでも着実にそれは動き出している。

 

 そして、それが動いた時には多方向に細いレーザーが放たれる。それは魔理沙が放ったものと変わりない。しかし、真っ直ぐな直角に折り曲がったレーザーとなり、その場に暫くは居座り続けた。

 

 その間は其処を通り抜けることはできない。文字通り、袋の鼠となりかけているところを男は追撃を放つ。

 

 斬撃だった。ただの斬撃ではなく、距離に応じて大きくなっていくようでそれはいくつもあった。目には見えないほど、細いが確かに放たれている。

 

 避けること、それ以外にやれる事はなかった。それほどに過密な弾幕と斬撃に二人は半ば参っていた。

 

 しかし、それだけでは終わらない。ある程度遠くへと移動した緑色のレーザーはその場に留まる。そして、二人の後ろから男に向けて一直線に向かってくる。まるでスナイパーライフルの連射だった。強力な弾幕に二人は軽々しく弄ばれて、咀嚼された後に吐き出されたかのように地面に落ちた。すぐに立ち上がることも許されない。

 

 其処にあろう事か、男は右腕を肘を折り曲げて肩よりも高い位置で構えた刀を押し出していた。その前には緑色の弾がある。それを突き飛ばした。まるで散弾銃が発砲されたように辺り一帯にばら撒かれる。

 

 地面に当たる緑色の弾は静かに吸収される。そして家屋に当たりそうになった弾もそれは同じだった。

 

「これが現状に満足した者としなかった者の差だ」

 男はそう言いながら、地面に伏せている二人に近づく。何も警戒はしていない。そう感じさせるほど、淡々と歩いていた。

 

 黒いとんがり帽子がピクリと動いた。その刹那、八卦炉を取り出した魔理沙は男に向けて放つ、いつものお得意の魔法。

 

「マスタースパーク!」

 男は特に驚くこともしなかった。しかし、刀で一閃。全てを受け止め、少し角度を変えて弾き返された。地面に当たるだけでもそれなりの衝撃を与えられた。

 

「ずいぶん弱くなったものだな」

 男は吐き捨てる。しかし、その現実を見てそれを否定する気力は魔理沙にはなかった。そして自分の非力さを嘆く。

 

「何も出来やしねぇ。負けだよ」

 魔理沙はそう言った。確かにそのように言った、もうこの男には勝てないと悟ったからこそ、出てきたその言葉。

 

「そうか」

 男は淡白にそう答えた。そして一気に距離を詰めて魔理沙の首筋に目掛けて刀が振られる。

 

 刹那、何が起こったのか、金属がぶつかる音がした。魔理沙はその音を不審に思いながらも目を開けて目の前で起こったのであろう事を探った。

 

「やっと本題に入れそうだ」

 男は呟く。確実に男の視線は魔理沙には向いていなかった。角度的には刀の振られた方を見ている。

 

「ここで会ったからには死んでもらいます」

 

「そんな約束もしたものだ。して、その自信はあるのか」

 

「あるとかないとかそんな話ではないです。言ったからにはやってやります」

 

「そうか。最後まで続くと良いな」

 刀にこめていた力を抜いて一歩退がった男は腰に携えていた二本の刀を抜いた。刀身は銀色で綺麗な金属の色合いをしていた。

 

 そして訪れた男も一本退きながら剣を抜く。黄色の刀身で異界のものを思わせる色合いをしていた。

 

「始めましょう。初めから全力で行きます」

 

「そうか」

 男は嬉しそうだった。

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