東方魔剣術少年   作:mZu

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第157話

 赤い廊下、蝋燭は静かにその命を燃やしていた。しかし、その火は消える事はない。人が輪廻するように蝋燭も消えかけるところで取り替えられている。月下に現れたその人物は門番を突き飛ばし、火を消そうとしていた。

 

「何者よ」

 銀色の短髪、三つ編みにした髪を横から垂らす。青色のメイド服と白い腰掛けエプロン、太腿にはナイフを携え、黒いハイヒールを履いていた。紅魔館で働くメイド長である十六夜 咲夜は階段をヒールの音を鳴らしながら降りながら相手の行動を静かに眺める。その眼には冷たい眼光を放ち、冷徹な何の感情もない表情で白銀のナイフを構える。まだ、日は浅かったがそれはどうという事はない。

 

「地上人如きに苦戦するとは思わなかった。だが、あの門番は強かったな」

 その人は拳に金属製の何かを付けていた。咲夜の目では視認出来ないほどの小さな棘が確かにそれにはあった。

 

「何者か答えなさい」

 

「答える義理はない。その理由も聞こえる気はない」

 男、だと思われるその人は拳を構えて空打ちをする。話をしに来ているわけではない、とその意思表示をしているつもりなのか。それとも、ただの戦闘狂なのか。

 

 とにかく、咲夜にとって見知らぬ人が用もなく入り込んだ事については排除というのが通説だった。それに加えて暴力的な人は余計に。

 

「それなら、問答無用で追い出すわ。門番を倒した事は評価するわ。でも、ここに居るのは吸血鬼の姉妹。貴方では私に勝てたとしても意味はないわよ」

 

「吸血鬼が何かは知らんが地上人である事には変わりないだろう。なら、俺がやる事は一つ。言われた事をやるまでだ」

 咲夜が完全に降りるまでその男は拳を空打ちしていた。そして、止めて咲夜の方を向くとゆっくりと歩き出す。

 

 問答無用、そういう通り能力を扱う。時間をとめる能力。咲夜自身とその身から離れたもののみがその動きを全て止める。その中で十本ものナイフを投げつける。前はこれは効かなかった。でも、今は違う。一応は効いた。ここからどの様に立ち回るのか、それは咲夜自身が考える事だった。

 

 縦からV字を描く様にナイフを設置してから咲夜は能力を解除する。

 

 動き出した時間とナイフは前へと進む。男はそれを視認したと思われるが避ける様なこともしなかった。咲夜は当たったのかどうかは気にする事なく、次の攻撃へと移っていた。横に広げて足元と顔を狙っている様なところでナイフを離す。

 

 男はそれも視認していたと思われる。しかし、避ける様な事はしなかった。

 

 空間を切り裂き進むナイフも男には何でもないものだった。刺さりはする。しかし、刺さるだけ。男は痛覚がないかの様にそのまま進む。

 

「門番の方が強かったぜ」

 

「どういう事よ?」

 咲夜は驚きつつも時間を停止させる。室内に広がる魔法の波動に男は入り込んだとき、咲夜はその場から離れていた。男の拳は確かに咲夜の腹部を狙っていた。それを避けてから次はどうするのか。

 

「よっ、と。あれ?」

 

「痛くないの」

 

「そんなもの、訓練の途中で削ぎ落とした。怯える感覚も何もないぜ」

 

「じゃあ、即死でもない限り止まらない」

 

「出来たらの話だけどな。元々身体も地上人よりも硬くなっている。残念だが、勝ち目なんて考えない方がいいかもしれないぜ」

 

「残念だけど、私にも譲れないものはあるわ」

 

「持ってるだけで穢れる。だから、弱いままなんだ。固執した結果がその弱さなんだよ」

 

「良いじゃない。一人では登れない高みにも皆で登れるもの」

 咲夜は賭けに出た。長時間の時間停止はいずれ何を起こすかは分からない。それこそ、静かに命を消していく風を吹かせる可能性もある。だけど、咲夜一人では何ともならないと自覚と思われる。だからこそ、危険な橋を走って渡る事にした。

 

 二通の手紙を書き、とある場所へと置いてくる。それだけだった。その時間は現実にして五分にも満たない。しかし、それでも代償は伴う。

 

「……なんか、疲れんな?どうでも良いけど」

 

「皆で高みに登るのよ。そう言ったでしょう」

 

「よく分からんな」

 男は咲夜の行動を軽く鼻で笑った。それから大きく笑い出す。最早、怒らせる為にしか見えない。

 

「何処の人か知らないけど、地上人を侮らない事ね」

 

「大丈夫だよ。ヘタレでもない」

 男は何かを思い出す。それも誰にも見えないけれど、多方面に敵を作った事には変わりない。

 

 一度、息を吸って吐いてから男は拳を構えた。そして、足元を地面から離れない程度に軽く跳び上がらせる。そして、動き出す。

 

 後ろで構えていた右腕を遠くから振り回す。遠心力を使い、そのメリケンサックを咲夜の横腹へ叩き込む。

 

 が、それはさせなかった。咲夜は時間を停止させて男の拳が当たらない場所へと移動した。刺さっても意味のないナイフを使いながら。

 

「何か動きが変わったな。どうでも良いけど」

 男は再度走り出して拳を振るう。

 

 ナイフを放つ咲夜。牽制だとしても効かないことなど百も承知であるはずなのに。それはある意味では無意味な行為であった。

 

 男の拳は確かに咲夜を狙っていた。それを視認しているのか、咲夜の視線は明らかにおかしかった。目の前の事象には何も関せず。咲夜はただただ待っていた。

 

 その槍を。

 

 赤色の魔力で固められたそれは男の正面に風穴を開ける。

 

 男は気にしていなかった。一撃を叩き込む為にその右脚を前に出して左腕を力一杯に振り回す。

 

 当たる瞬間にナイフを噛ませて間一髪の所で抑え込む。

 

 男はしばらく押していた。それは手を貸そうと現れた主人でさえその気持ちは変わらなかった。早く倒れろ、と。

 

「アイスアロー」

 一本の矢は男の頭部に放たれた。男はそこで漸く動きを止めた。

 

「何なのよ、こいつの生命力」

 

「ナイフも意味がありませんでした。恐らく外の者かと」

 

「それは私の槍が貫いた時点で何となく察したわ」

 

「咲夜の策は間違いではなかった様ね」

 

「それにしても誰がそのような事を」

 

「分かんないわよ」

 

「取り敢えず私に預からせて。調べられたら何かわかることがあるかもしれないわ」

 

「任せるわ。咲夜は体の方は大丈夫?」

 

「ええ、問題ないです。美鈴の様子を見てきます」

 

「今日のところは休むように言って。パチェ、結界を頼むわ」

 

「仕方ないわね」

 三人はそれぞれの場所へとそれぞれの目的を果たす為に向かっていく。一体何が来たというのだろうか、それは本当に分からない。

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