私たちの力なんて非力だ。そうだった。私達がどのように頑張ろうと彼女の前では何もかもが消え去り、努力は泡となる。
「どうしたら良いんだ!」
そういう彼女の声もこの戦場では立ち上がる強者の雄叫びに過ぎない。特に負け戦をしているこの状況では敵に救いを乞うような感じとなっている。
「仕方がない。私もその気持ちになった。だからこそ、今ここで戦っている」
彼女にも譲れないものはある。それはお互いなのかもしれない。しかし、彼女の実力は立ち向かった魔理沙、霊夢、咲夜、レミリアの四人を上回る。それが事実であり、現実なのだ。
「強ずぎるでしょ。それにしても」
霊夢は知っている。彼女に勝てない理由。それは霊夢の力の上をいく使い方をしている。神の力を借りる霊夢に対して、彼女は神の力を使う。それは力で上からねじ伏せるには理由などいらなかった。
「私より上はいる。とある地上人に負けた。其奴は何処にいるのかは知らん。だが月都に侵入し、風のように去っていたのは知っている」
「それは誰なのよ?」
「黒髪の青年だった。二本の剣を扱い、やる気のあるようなないような振る舞いだった。それだけは覚えている」
「聞き覚えがあるな」
「だとしても、機会が悪かった。此処で死んでもらおうか」
彼女は構える。その剣は赤く燃え上がる。そこから大きな炎は前面へと飛び出してくる。
「この火は簡単に出せるものではない。分かっているだろう」
彼女の刀は静かに腰を回して後ろへと運ばれる。其処から右脚を出して其処で止まった。この丘陵地に人は現れない。隣に居ようとも援護に来れる人間は居なかった。
気絶したレミリアを除く三人で、このズタボロな体でなんとか出来る話ではなかった。
「私のもとまでたどり着いたその事を後悔していろその熱は人をも溶かす」
彼女は振り回す。大きく一閃。其処から放たれる熱線はある部分を除いて地面と平行で進んでいく。その熱波は月面を焼き焦がし、砂を巻き上がらせ、甚大な被害を加える。
人は簡単に生きれるものではなかった。
「この程度ですか?」
とある男は其処に立っていた。いつ、何処から現れたのか。それは誰も知らない。しかし、彼の背後には何の影響もない。
「君達は幻想郷へ。本戦は此処ではないです」
「貴様、何者だ?」
「ただの通りすがりです。この戦いを終わらせにきました」
「後ろの四人よりかはやりがいがありそうだ」
「貴女の技は僕の前では消える。それだけは覚えておいてください」
「よく覚えておく。私は強者が好きだ」
「僕も同じです。血が滾りますからね」
「同感だ」
「始めましょうか。貴女も一人の戦士として楽しみなのでしょう」
「ああ」
「ヤバイ。逃げよう。あれはどうしたら良いのかわからん」
魔理沙は三人にそれだけを伝える。少年の実力は三人よりも勝る。それは見ていれば分かるようなものだった。それはあまりにも無責任だが、全てを任せるその決断をすることには何も間違いではなかった。
「彼奴だけが対峙できる。私たちは逃げよう」
「私がレミリアを運ぶ。だから、早く逃げよう」
三人は逃げ腰であった。しかし、それを責める人もましてや見ている人もいなかった。
二人の世界。
そう形容するのが正しいだろう。
○
僕にだって超えたいものある。それはこんな丘陵地で叶えるものではない。もう少し先だ。だけど、今は此処を超えないと。
「お前の顔は初めてではない。昔に会ったことがあるのだろう」
「初めてだと思います。人違いですかね?」
「そうかもしれない。だが、その実力は似ている。私はお前に執着してしまう」
「それはお好きにどうぞ。僕は応えないかもしれないです」
「手厳しいな。折角だ。私を楽しませてくれ」
「良いですよ。構えてください」
僕は唾を弾いて柄を握る。そして其処から出てくる白銀の刀身は僕の前へ現れる。貰い受けたその意思は僕の前に姿を出す。
「その刀は忘れもしない」
彼女は構えていた。薄紫色の髪で後ろで高く結んでいる。白いシャツの上に朱色の衣服を身に纏う。剣をあしらった紋章で黒いベルトを閉めている。その人は見るからに手厳しそうだったが、更にそれは強くなった。
「私はお前を探していた。部下に影では罵られ、地上人に負けた事を責められた。此処でお前を倒せば私なまた綿月の名を堂々と名乗れる」
彼女の目はもはや獣だった。しかし、足取りは軽やかで飛び跳ねているようだった。隙がない。
そして其処から発せられる一撃は猛火、何一つ焼き尽くすようなそれは僕に向けられていた。
僕はそれを消すために刀を動かす。お父さんから授かったこの力で僕は此処を超える。
刀を逆手にそして上下で刀を固定し、その場でくるりと回す。その軌道は円ではなく、球。向かってくる全てを包んでその中にその熱気を隠す『風籠』。
相手の攻撃はないことにさせる。それが僕なりの答えだった。お父さんはこの状態でも自分を貫いた。しかし僕には其処までの力はない。だからこそ、相手のその動きを僕が潰していく。
僕は相手の前に立っても相手の攻撃は怖くない。全てを潰し、全てを僕より下にする。相手に考える隙も与えない。一撃には拘らない。
次に繋がる一撃を放ち続ける。
僕は低姿勢から前へと走り出す。地面は目の前。それでもそれよりも近くにする。足裏には地面の感覚、それをふくらはぎへ、膝へ、太腿へとその感覚を広げていく『地削り』。
相手の視界から外れる。横を向いたときには上に居る。それもしてみせる。足裏でその勢いを利用して立ち上がりながら、来た方向の逆側に跳ぶ。その高さは人間を飛び越えるほど。其処までして、僕は放つ。相手の空気感を断ち切るその一撃を。
右肩に担ぎ、その刀は風を纏う。その風は癒しではない、破壊だ。
相手の目があった時、そのときには僕の一撃は完成していた。前へと体を傾けて放つその一撃『風槍壊界』。
地面に放たれたその一撃は相手にはあたらなかった。僕の振り方が甘かった、と言うよりかは相手の強さも僕と変わらない又は強い。それだけだった。当たりはしないと言うわけでもないらしい。確かに刀の擦れる感覚はあった。そして、相手が地面を滑っていることも。
「戦法も変わらないか。ただ一つ、違いは相手を潰す事を考えている、そう言うところか」
彼女にはやはり見破られた。それはつまり、経験が豊富であると言う事。僕にはない魅力は彼女は持っていた。僕はそれでも勝ちたい。
「同じ刀で違う戦法をとる。どちらもやりづらいことには変わりない」
彼女は刀を構える。正統派のその構え方は練習なんかでやるような形だった。腕を軽く伸ばして力を抜き、静かにしている。その時は殺気は放っていない。音もなく、それでも段々と近づいてくる何かがある。
左手は逆手で構えて右手は順手。左手を下げて、右手は後ろで構える。肩と平行にして歪な構えをとる。
「それを見た。模造なのか、どうかさえ紛らわしい」
「模造と実物、どちらもあります。当ててみてください」
「その軽口も懐かしい」
「そうですか」
「まぁ、喜ばしいことではない」
彼女はスススッ、と動き出した。まるで動いていないかのよう、僕と似て非なるものを見せてくれる。其処から出してくるその一撃は零度。全てを凍てつかせるそれは僕にとっては見たことのないものだった。此処までの範囲を凍りつかせてくる。地面から、視界から、空中から、三方向から現れる氷塊は無音で此方へと近づいてくる。
本来なら此処で止まっていた、しかし僕には更なる先がある。相手の攻撃をいなした時、自分の中に取り込んだそれを使う時が来たようだ。
相手の凍土を僕は猛火で返す『仇の風』。相手の一撃を相殺するために扱う相手から奪った技。それはある種、相手の力を盗むようなものだった。
「寒いです」
「その程度で済む時点でお前の実力は底が知れん」
「そうですか。ですが、まだまだやりますよね?」
「私はお前に勝ちたい。やるに決まっているだろう」
「戦争なんて関係ないですからね」
「そうだな。私情のみの至高の勝負といこうか」
「優雅にいきましょう」
彼女は既に間合いを空けていた。僕もそれは変わらない。此処から始まる一戦は必ず僕を成長させてくれる。そう思う。