優雅には言ったがそれはまた違う。思考の中で繰り出される計算を繰り出すだけ。戦闘だけではない、戦況を全て省みて其処から判断をする。
戦況を知る情報を遮断する、またはその中に毒を混ぜる。必要のなかったその知識も此処までで培ってきた。要らないと思えるようなことはなかった。
「残念だが、私はそこまで上品ではない。力でねじ伏せる!それだけだ」
そういう綿月を名乗る彼女は僕との間合いを詰めてくる。その速さはやはり先程の比ではない。彼女の灯火はしっかりと燃えている。
僕は構もせずに自然体で、あくまで自然体で対峙する。そこから発せられる一撃は見た目には分からない力を発揮する。
左手は逆手持ち、右手は順手。その身体は右斜めを向き、その瞬間を待つ。
動かないという回答。
ノーモーションから最大の力を発揮する。
相手の動きをよく見て。その刀は何処を走るのか。
目と感覚で捉えて。
見開く。その瞳に映る光景はーー。
冷徹なる一撃。
その一撃は防御と攻撃を一体とした連撃。相手の刀は此方へ来ないように抑えながら上へと押し出す『七ノ技 疾流し』。それから頭上を狙った横一閃。
右斜めを正面としたその構え方は腰を使いながら放つ一撃となる。
しかし、僕の三撃目は繋がらなかった。単純に避けられた。それだけではない。此処まで予測されている。
相手も僕の動きは止めてくる。しかし、空中から浮き上がった身体から出したのは紛れもなく重たい一撃だった。真下から振り上げるだけだった。しかし、僕の連撃は繋がらなかった。断ち切られた。
僕は後ろに跳び、その場で立ち止まる。やはりそう簡単に攻撃は当たらないらしい。頭上の一撃も擦りもしないところで避けられた。
そうなの考えている間にも相手は確かに動き出していて。僕は度肝を抜かされた。低姿勢から、着地したその脚から出してきたその突進はえげつない火力を持って僕を襲う。
その音は雷鳴。ビリビリとしたその一撃に僕はすぐには技を繰り出せなかった。反応が遅れたのではない。相手の動きが速すぎる。
少なくともあのタイミングと体勢から放つようなものではない。
僕の身は消え去る、かのようだった。
一瞬の隙は確かに的確に突かれた。だから何だというのだ。
下向きに押さえ込みながらその脚は浮かせる。横に向けて放ったものの軌道が変わろうともその力は収まらない。だからこそ、出来るいなし方。
その場での回転、風を溜めてから遺産で増幅。それを前へと押し出す。相手が雷ならば、こちらは風。
見えない脅威、その威力は雷に劣りはせど、その威力は僕の出せるなかでは最強。
横薙ぎから放たれる二連撃『一ノ技派生 二連風刃』。
其処から前へと走り出す。その速さは出したわざと変わりはしない。飛び込み、にも似たそれはその目が見据える相手に確かな圧力を与える。
相手は構える。何かを使用したその時間過失を補うその瞬間も見逃さない。
刀を振るう偽造をした動きにしながら近づき、その足裏には地面の感触を感じながらその身を小さく、低くしていく。
地面との距離は殆どない。ちょっとした小石で躓けるほどの脚の動かし方から繋げるその先の一撃は刀身に溜めていた風を利用した小さな弾丸『ニノ技 風凸』。
其処から身を低くして足元を刈り取る『黒南風』。
くるり、と地面の摩擦を利用して相手を向く。その先では受けなかったはずの一撃を受けたように蹲る人が居た。
身体に流れる気迫を断ち切る。そして一時的に行動不能へと陥れるその技は危険極まりないものだった。下手したら使えなくなる。それくらいの代物。本気では斬っていない。
彼女の気はあの時は腕の方に流れていた。最低限の姿勢保持のみだったようで出来なかったというのが実状だ。
そんな擦り傷で相手は止まるわけがない。それは目で見なくてもわかっていた。その実力はお父さんよりも高いのかもしれない。
……だから止まれるか?その問いには否定をする。
脚を刈られた彼女にも同じ問いをすれば同じような答えを出すのだと思う。
止まりはしない、その姿は武人の如く。脚が使いにくいから何だ?腕があるではないか。そうでも言いたげな表情だった。
その名は雷光。たなびくその瞬間に集まりては散りゆく。旋回しては直線的な行動をする。
その小さな隙間を僕は見つけては避けていく。触れれば焼き焦げる。この劣情を、抑える意味は何もない『風籠』。開けては増えていくその稲光は龍が分裂していく様。現れは消えていく、その小さな隙間と光の中で僕はその姿を消した。
新たなる特性。直前で使える様にした雷を反対方向へと打ち込む。何処に撃っているのかそれは黄色の閃光と龍の様に伸びてくるそれに全てを防がれている。雷から発せられる圧によって風は扱えない。脚は刈り取ったにしろ、その先に何が起こるのかは誰も知らない、僕でさえ予想は付いていない。
僕に現状出来る最善手は何か?そればかりを考えていた。綺麗に纏まっては散ってゆく、封じ込めれば分裂する。こちらから撃つ雷も何処にいくのかは知らない。手当たり次第に撃ち込んでいる。相手と自分の視界も異なるだろうに。
終わりは見えない、それは違う意味で静かに死の時を刻んでいるかの様で。僕の心には暗雲が立ち込める。
雷の音でも、瞳に入る光でも、土煙の舞う匂いでも、風による感覚でも感知出来なかった。
相手の動きはあまりにも密度の高い攻撃の中に消えていた。脚は刈り取っても腕はしていない。それは裏を返せば攻撃は通常通りに出来る。
其処から指し示される計算結果は零距離からの一撃。
稲光の中に隠れた僕を彼女は的確に捉えていた。
ヒントを与え過ぎたのかもしれない。悟りそう考える頃には僕の体は地面を削っていた。一撃自体が重たい。
簡単に人を駄目にするような一撃。
僕は泡沫の中に割れると思われる水面を見据える。それに抗う術はない。