東方魔剣術少年   作:mZu

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第163話

 花畑と川、そして拒否反応のお父さん。手を振るようなそぶりもなく仁王立ちで河岸に立っていた。

 

 全く持って歓迎しようとしないその構えは僕には変な風に映った。こんなに無表情だったのかどうか。

 

「僕の尊敬し、命を授けられたお父さんではないです」

 

「そうか」

 それでも無表情だった。何の感情の起伏もない。僕がここに来てからその起伏が見られない。

 

 僕は踵を返して、前へと進むとその扉があった。白色の強い光を放つそれは何処に繋がるのだろうか。

 

 そんな事はどうでもいい。手早く出ることを優先させよう。

 

 突如として僕の体は大きく破裂した。其処に痛みはなく、下へと下がっていく。その感覚は視界でしか判断出来なかった。

 身体の節々は確かに痛い。だけど、この痛みならば何度も乗り越えてきた。小さい頃から、ここ最近まで。もっとひどい怪我もあったのかもしれない。そう思うと立ち上がることも造作もなかった。

 

「起き上がるか?その怪我で何が出来る」

 彼女の声だった。厳しくも悲しい。潰れそうな泣き声に僕は僕なりの回答を示す。

 

「逆に何が出来ると思います?」

 

「私の正夢が破られるとは思わなかった」

 

「彼岸での夢でしたか。もう少し似せてくださいよ。僕には下らない冗談としてしか映らなかったですよ」

 

「いや、あれはお前の記憶を元に作られるはずだ」

 

「それでは、見破られますよ。あの人の感情は雰囲気で出ますから」

 

「言っている意味がわからん」

 

「つまり、顔は相当なことがない限り、動きはしないです」

 

「行きましょう。こんなもので僕は止まりませんよ」

 僕は手に握っていた刀を構える。と、言ってもそれは持ちやすい重心で持っているだけ。常に場所は変わり、相手の動きに合わせ続ける。正に鏡と言わんばかり。ここに自我はない。腕が勝手に合わせてくれる。

 

「ならば、もう一度だ。もう一度やれば倒れるだろう」

 

「そうだと良いですね」

 僕は歩き出した。その間合いは彼女は飛び去ったこともあり、すぐには縮まらない。だからこそ、圧迫という恐怖は長く続く。ゆっくりと脚を踏み出す。それから刀を構えているのか、どうかを分からなくさせる。

 

 牽制と言わんばかりに放つ小さな波動も圧迫の意味合いしかない。

 

 圧力に負けたその地面は大きく揺れ動かされた、今まで押さえつけられていたそれ。それはそれは大きく破裂する。

 

 これは業火。業に背負う者にとってそれは大きな傷を負わせることであろう。僕にはそれでもその先へと進まなければ。

 

 構えているのか、構えていないのか。それを相手は見誤った。

 

 間合いに入り込むように一歩出し、その業火を振るう。僕はそれを軽々しく振り払った『風透かし』。

 

 その業火だけを取り払い、何でもない斬撃を僕は受け止める事はなく、掠らせる。当たるのかもしれない。そう思わせて刀を振らせる。その間に生じた隙は僕は回し蹴りで吹き飛ばす。

 

 構えていない、其処から繰り出されたこれだけの連撃。彼女はどう動くのか、僕は一種の緊張感と違う部類の興奮があった。

 

 切っ先を下に向ける。其処から繰り出されたそれは暴風。刀は風を纏い、辺りは空気を震わせる。その緊張の糸が外れた時、その風は神となって姿を現す。

 

 その姿はまるで鬼の顔をしているようだった。そして羽衣のように雲を背負っている。

 

 だったら、僕だって。先程包んだ雷を利用して、刀に付与する。それを手首につけている装備で増幅させる。そうして出来たものを風にぶつける。最初は小さな龍。されど、斬られ分裂する際に集まってはまた散っていく。それを繰り返していくうちに一匹は大きくなっていく『雷龍光臨』。

 

 風に切られ、散ってはすぐに繋がりその姿を大きくしていく。幾重にも重なり、その身の存在を示したそれは暴風の中、優雅な動きでもろともしなくなった。

 

 僕は其処に畳み掛ける。低い姿勢から前へと走り出す。風だろうがそれは何ともない。

 

 動けるだけで良いから。

 

 風だろうがそれは気にしない。

 

 溜められるものは今のうちに溜めておく。

 

 その先、その後の一撃につなげるために僕は大きく腰を捻る。地面には足裏はついていない。だからこそ、着いた瞬間に放てるように準備だけは整えた。

 

 一つの剣筋を太く、強いものにする。それは恐らく一撃と言うには違うものになるだろう。一つのものが大きくなった時、それに伴って大きくなっていく威力は計り知れない『時津風』。

 

 彼女はそれを受け止める。直感でそれが避けるのは危ないものだと悟ったのだろうか。今はそうではない。その技を使用している右腕に自分の力を集中させる。そして押し出す。

 

 押し出す。自分の力を最大限にするために左手も柄を握り、前へと押す。グッ、と握りしめた両手からはギシギシと音が鳴る。

 

 相手にもこれがどれだけのものか理解していたのだろう。

 

 押す。とにかく押す。言葉ではなく行動で。その力を強さを示す。どれだけの力を持ってすれば彼女を諦めさせることができるのか。そればかりだった。

 

 お互いに譲るような事はない。両手で握りしめたお互いの刀は音を立てる。ギシギシ、ギシギシと。そして刃が擦れていく。カシカシと。わずかな音だった。

 

 辺りでは風が吹き荒れ、雷龍が暴れ回る。風と雷がぶつかり合う。その中で僕は肉体でその力を扱う。

 

 自分の今使用している技に風を付け加えていく。目には見えないその風はいつしか脅威となって相手に降りかかる。それを振り払うか、こちらが強引にでも押し出すか。

 

 段々と腕も痛くなってきた。それは相手も変わりはしない。歯を剥き出しに僕を睨み付ける。その眼光はここまでの比ではない。この世のものではないとさえ思う。だから何だ、と言われれば僕はそれ以上はない。

 

 そんな理由で力は抜かない。更に押す。

 

 更に更に更に、押す。

 

 相手も同じように押す。

 

 更に更に更に押す。

 

 負けるとかそんなところではなかった。この先があるのに、僕にはここで止まる理由がなかった。それはそれは大きなものとなって僕の前に現れる。

 

 魔界では多くの事に絶望した。まともに睡眠は取れず、空腹の日々は続いた。水は無く、得ようとすると血しかなかった。食料も其処ら辺を歩いている肉しかなかった。自ずとそれらを狩ることを覚え、生活を安定させるために日々を過ごしてきた。

 

 こうやって力を示して切り崩していく、そんな生活に比べればこんなくらいどうと言うこともない。

 

 いつもの生活の延長線。それは変わりはなかった。

 

 生きる為、誰かの命を喰らう。そうするには何にせよ勝たねばならなかった。知恵でも、力でも、体力的な面でも。

 

 風を集め、気迫をその刀にこめていく。その力は何倍にも膨れ上がり、相手を押し潰していく。

 

 最早、戦争のことは考えていなかった。目の前の彼女をどう倒すか、そればかり考えていた。その先に見えた光明は確かに照らし出された輝かしいものを見せてくれた。

 

 更なる先へ。

 

 自分が生きるために。

 

 その刀は軽くなる。かけていた力が多かった分、僕の両腕は余分に回る。だからこそ、自由にさせた。そして空中でその力を回転に変えた。

 

 丁度背後を向くような形になった。それだけの力を僕はあの刀にかけていた。それはつまり、相手はどれほど飛ばされたのか。それすら今は確認する手立てはない。風は全て使い込んだ。調べる手筈は整っていない。

 

「……これほどの威力は二度目だ。だが、あの時よりはまだ体が動かせる」

 

「それは……光栄です……。」

 

「一撃で仕留めなかったことを後悔すると良い」

 彼女の雰囲気は大きく変わった。今まではまだ人間だった。普通の生物として幻想郷で出会う人たちとそれほど変わりはしなかった。

 

 しかし、今はどちらかと言えば魔物に近い。似ているが非なるもの。それは目の前に現れた。

 

「神の力は借りない。私が神となる」

 

「神ですか。それは大層なもので」

 あながち間違いでもないとそう思えた。なんとか集めた風でその雰囲気を詳しく見る事にした。

 

 これは生物としてその機能を果たしていない。器だ。誰かの魂を収納するための。僕の中で彼女の印象は大きく変えた。

 

「私の力は神に依存している。だが、私の力は神の力の一部でしかない。もう私は神と同じ力を扱える」

 

「分かりました。僕も止めるくらいの努力はしないといけませんね」

 僕の意識は静かに潜っていく。暗黒面、光を通さないこの空間で僕は殻に篭る。二重に防がれた光は僕の元へと届くようなことはない。

 

 それほど無意識に意識をもっていく。今まで落としたこともなかった程の深度。戻ってこれるかは分からなかった。

 

「依姫様、依姫様、敵軍の勢いがついに抑えきれなくなりました」

 

「知らん。お前らで何とかしていろ」

 

「地上人如き、私達で何とかしますので戦線を押し上げてください」

 

「こいつがいる限り、戦況は変わらん。離れておけ。味方だろうが容赦は出来ん」

 

「だそうです。早く離れてください」

 僕はかろうじて残していた意識でその人を遠くへ離そうとする。

 

「地上人如きに指図される謂れは……な、い?」

 

「次は首ですよ。僕か依姫、さんでしたっけ。どちらから斬られたいですか?」

 

「勘弁してくれ」

 その人は逃げていく。指示を仰いだ結果、右頬を大きく抉られる結果となった。

 

「さて、早く始めよう」

 

「本当に向かわなくて良いんですか?」

 

「私はお前を止めないと負けると思っている。そして、私はお前と戦う理由がある」

 

「そうですか。仕方ないです。やりましょう」

 

「妥協は許さん」

 彼女はそう言ってからその身はスゥ、と消えた。

 

 強いものだな、僕はそう思った。

 

 だからこそ、下側から持ち上げるようにして避ける。

 

 そして、軽く脚を振り上げる。

 

「慈悲なんて乞わないでくださいよ」

 

「その言葉、そのまま返す」

 人と神、その一戦から始まる。

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