東方魔剣術少年   作:mZu

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第164話

 少年はその言葉を最後に一番下まで自我を落としていく。その暗さは漆黒よりも暗く、浮かび上がるための力もない。それほど。だけれども上から見える光は白く戻る道順だけは教えてくれている。

 

 見上げるだけの少年、その先に何があるのか、もう記憶の中でしか判断が出来なくなってしまった。

 

 無意識と意識が逆転する。現れたな無意識は少年の体を使って戦いを求める。更なる上へ。勝てなかったあの男への再戦を願いて。叶わぬ夢とそれを知らず。

 

 依姫は自我の中に神の存在を入れ始める。誰も邪魔をされない、それを良いことに彼女は最大の力で少年をねじ伏せようとする。

 

 月の民としてとある地上人に負けたその因縁を似ているだけの人物にぶつける。それが許されるのかどうか。それももう関係ないと言えるところまで。この戦いはそれほどに個人として意味のある戦いとなる。もう、後戻りはできない。

 

 二人はもう利益もない戦いへと身を投じる。

 

 最初に起こすのは雷鳴。地響きと共に現れた雷雲が空へと浮かび上がり、地面へと降り注ぐ。

 

 巻き上げるのは竜巻。人の動きではなく、風と脊髄反射を利用した神速の回避。雷をも避け、二人は衝突する。

 

 刀に纏うは業火。

 

 打ち消すは絶対零度。

 

 お互いの味を打ち消すため、業火と絶対零度はその力を存分に発揮させる。消しては生まれ、遮られては滾る。

 

 その力の拮抗に勝負はつかなかった。だからこそ、その身を持って離れる。二人の刃に密かに燃ゆる明かりは輝きとなって再びぶつかる。

 

 刀に宿るは水。

 

 刀に宿るは風。

 

 水は風に飛ばされまいとその場で留まるための圧をかけ、風は水を吹き飛ばして無力化しようと更なる力で膨れ上がる。お互いの力を尽きるその瞬間までその鍔迫り合いは続く。

 

 依姫が競り勝ち、少年はその威力を相殺させるために回避運動を起こす。その隙は依姫は見逃さない。

 

 起こすは光。凄まじい光によって引き起こされた視界阻害は辺り全てを飲み込む。

 

 返すは風。辺りの索敵のために大量の風を吹かせ続ける『風陣』。

 

 視界は潰されどもそれをどうともしないその少年の機転。

 

 光の中で光は更に生まれる。それは熱を持ち、少年や周りへと影響を与え続ける。

 

 少年はそれをも風の中に包み込む『風籠』。

 

 飲み込み、熱をも簡単に無効化する。

 

 次に起こすは偽りの癒し。花園にて天をも登る心地にさせる。

 

 反応を鈍らせた少年はその場で空振り。依姫はそこに生じた隙間に刀を振るう。

 

 一瞬の抵抗。そして鈍る刀の速度。それに反応した少年。

 

 二本で弾かれた依姫の刀は何処かへ。その隙は依姫自身が埋める。音を出し、少年の反応を鈍らせる。その一瞬で離れた。少年が起こしたのは斬撃だけをその場に残す『辻斬風』。

 

 二人の間に流れていた時間はその時だけは止まる。お互いの動きを眺めながら次にどのように動こうかそれを考えていく時間。相手よりも的確な答えを繰り出す必要のある一番緊張する時間。

 

 ノーモーションから繰り出す少年の連撃。ここまで浴びせられたそれらは決して侮ることを許さなかった。彼がどこまでこちらの動きを読み取るのか、それはこちらからは読めない。どこから現れるのか、闇の中。毒の霧を散布して。

 

 動かなかった。光も闇も少年には意味がない。あらゆる毒を受け、そこそこの耐性を取得した少年に神の毒は痛い程度。動けなくなるような事もない。解毒の仕方も知っている。

 

 無意識だった。横腹を斬り裂き、そこから解毒する。一本の刀でそれを包み込んでそれを増幅させて放出する『仇の風』。

 

 全てを否定する、相手の動きの一つ一つを全て。少年はそれをするだけの技を持っていた。動きは鈍足。しかしながら相手の全てを否定する。努力も全て。

 

 ここまで積み上げてきたもの、それを否定して完膚なきまで叩きのめす。本物の勝利というものだった。

 

 だが、それで折れるような依姫でもない。

 

 更なる一撃を叩き込むために動きを始める。

 

 闇と毒の蔓延るこの二人の世界で依姫と少年はゆっくりと間合いという輪を乱していく。その乱された輪はやがて静かに砕けていく。

 

 落とすは雷。大量の雨と雷による嵐を作り上げる。

 

 走るのは風。雨、雷をもろともしない少年の移動速度。それに対応する依姫の反射速度。

 

 それを凌駕する少年の機転。

 

 周りを囲い、全てを無力化し続ける。息一つ上がらず、その力を使い続ける。依姫の全てを上から見下ろす。油断はしていない。

 

 雷、水、風、炎。その全てを吸い取った少年に依姫の一撃は同じような価値に成り下がる。誰もが抵抗出来ない、少年の編み出した戦法。

 

 そこから攻撃手段を脚に変える。刀を脚で裁く、並外れた技能をやってのける。伝承されたその技には依姫も目を見張るものがあった。

 

 届きはしないその連撃。辺りもしない依姫の一撃。その隙に生じた一瞬を少年は見逃さなかった。

 

 左腰に携えている刀の柄を軽く握り、斜め上へと一気に切り上げる。斬れるようなことはない。されど、力が抜ける。その場で立てなくなった依姫は刀も握れずにその場に倒れ込む。

 

「僕は不殺を心掛けています。だからこそ、僕は貴女の気を斬った。それは暫く斬られたままです」

 

「敵に慈悲を受けたくない」

 

「ここで月の民として肩身の狭いまま死ぬより、僕と一緒に生きませんか?」

 

「良いだろう。どうせ、私には価値はない。好きにしろ」

 

「そうしましょうか」

 少年は依姫を背負って幻想郷へとゆっくりと帰っていく。戦闘の時とは違うその少年の心に依姫は何も言えなくなった。

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