第165話
戦いによって起こった災いは僕の目には届きもしなかった。私用で入り、身勝手な行為をして勝利に貢献し、身勝手な行動によって五分にまで持っていた。名の知らない人からすればその行為は上に揉み消される、そんな行為。
だから僕もその結果は目に入れない、耳に入れない。口に出さない。
だから、どうなっていようが興味がない。闇に揉み消された僕の行った行為は良くも悪くも消え去った。
僕が今どこにいるのかも、誰も知らないだろう。
「本当にそれでいいのか?」
そんな僕に聞いてくれるその女性。月の民にして僕があの戦いの中で連れ出した人。
「今更、会いたいなんて思わないですね。自分の考えは愚かでした」
「待っている人は少なくとも何年も待っている。行ってやったらどうだ。どうするかは関係ないだろう」
「行く必要なんてないですよ」
「人と会うのは辞めましょう。僕だって嫌ですけど」
「私とお前は違う。その命は誰かに大事にされているはずだ」
「この時世を見ていれば分かりますよ」
「なら、私が送り届けてやる。お前がどれだけ愚かなのか教えてやる」
場所を教えろ、僕は何も話を進めようとはしなかったが依姫は何も感じていないかのようにどんどん話を進めていった。僕に肩を貸し、この身を起こさせて引きづらせる。
「ならば、一つだけ。一箇所だけ行きたい場所があります」
「教えろ。お前が動かないなら私が連れていくから」
「幻想郷の西側。霧の湖という場所に」
僕は伝えた。今の二人で行ける唯一の僕に由縁のある土地。
○
そこからの依姫の動きは早かった。神の力も利用して全速力で走り出していくその姿はまるで猪のようで強大な脚力で地面を蹴り出して、どんどんと速度を増していく。速過ぎる、そういうのは僕には似合わないが確かに速かった。人と自分という違いだろうか、速度が違うように感じる。
本当にあっという間だった。風を切り裂き、水の上を走っていくような速さは他人だからこそ余計に怖かった。
「あの、どちら様で?」
「久しぶりに顔を出そうかと」
「あ、ヒカルさんとそのお連れの方ですね」
「こいつが弱音を吐くから連れてきてやった」
「だから、そのような。分かりました」
美鈴さんは何かを察しているかのように話を進めていく。気を扱う力はダテではないようだ。今更だが。
「私は此処で。中に入らん。その代わり、ちゃんとお前の役割を果たしてこい」
依姫さんは僕に対して結構厳しい口調で接してくる。目力がナイフのような突起物を彷彿とさせるが、僕はそれには屈しなかった。だけど、言い分には僕は何も言わない。
「そうですね。美鈴さん、中に入っても」
「構いませんよ。先に伝えておきますがとある二人には気を付けてください」
「……そうでした、ね。大分待たせてますからね」
「そうですよ。あの二人は所詮は傀儡ですから。貴方との時間は有限なのですよ」
「それも知ったんですね。覚悟を決めていきます」
「いってらっしゃい」
美鈴さんはあまりにも素っ気なく僕の事を送り出した。それだけ怒らせているという事は言うまでもないので僕は鼻から息を出してトボトボと歩いていく。
久しぶりに見た紅魔館の中庭も特に変わりはしない。いつも綺麗で整えられた中庭にはどれだけの手間が掛けられているのだろうかとふと思う。まだ小さな木も何十年かすると僕の背を優に越える存在となるのだろうか。
真ん中にある円形のモニュメントを左側から抜けていく。後ろから二人の会話が聞こえるが僕には聞き取りづらかった。風でも使えば少しは分かりやすいのだがそこまでして聞きたいのかと言われるとそうでもない。
「バックダンサーでしたよね」
「あっ、あ。あの」
「ど、して。あれ」
僕が手を掛けた真紅の扉、そこから顔を出したその二人は同じような声を出していた。呂律の回っていない上に二人で話すので耳の中で処理が追いつかない。多分こうだったのだろう。
「久しぶりですね」
僕は軽く手を振る。あまりにも突然の事なのだが、それをどうこう言えるわけでもないのでそれ以上は言葉にも行動にもならなかった。
「何してんですか?私たちのこと忘れたと思ったじゃないですか!」
僕は二人の可愛らしい突進を一身に受け止める。その力はその二年の間で軽く感じる程度のものだが、相対的に考えればとても強かった。少しだけ負けそうになる。
「迷惑かけましたね」
僕にはこれぐらいしか言えなかった。それ以上はある意味で何の言葉を似合わなくなった。二人の寂しさ、自分の不甲斐なさ。それが込み上げると二人のことを両手で抱きしめるしかなかった。
その時間は数えもしない。それは唯一の時間であり、今までなかった時間を取り戻すだけのものだから。数えることなんて出来ない。ここまで放ったらかした時間はもっと長かった。