東方魔剣術少年   作:mZu

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第169話

「咲夜、出掛けるわよ」

 水色の髪と背中にある大きな黒い翼。唇から見せる牙が人を惑わす。その眼から見据えるのは銀色の髪のメイドだった。

 

「何方まで。行かれますか?」

 

「さぁ。私だって分からないわよ」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「答えは未来にあるのよ。だから、つべこべ言わず着いてきなさい。後、あの二人もね」

 

「はぁ。分かりました」

 メイドはそれだけを伝えて瞬時に消え、再び現れる。その間の秒数はとても頼まれたことをこなせるような時間ではなかった。

 

「日傘と軽食、水分はお持ちいたしました。それとあの二人には門の辺りで待つように伝えました」

 

「ご苦労様。向かいましょう。あの虫唾の走る行為をした真っ黒な未来の少年に言ってやりたいことがあるのよ」

 それだけを伝えて軽く微笑む。楽しむとかそういうものではない。三通の手紙を残した彼をレミリアは追う。それについて行くのは三人の関係者。

 

 一世一代の賭け。

 地面は大きく割れていく。地割れではない。球体状に消え去るかのような割れ方。

 

 もはや、これは割れるというよりかは消していると言わんばかりの破壊力。全を無に還すかのように全てを飲み込み、そのあたりに居たであろう命でさえ飲み込んでいく。

 

 形容し難い惨状に誰もがその異変に気づく。

 

 女神がお怒りになったと。

 

 確かにそれは本当だった。それほどの力を持ってその地面を、地獄という環境に音という恐怖を波状に伝えた。

 

 赤く染まる地面も赤く輝いていた館一軒分はありそうな程の大きさの弾もそれによって引き起こされた音も地響きも不協和音も終わりを告げた。

 

 静寂の時が訪れる。破壊の後に起こる再生の時。その時はとても長い。神でさえ六日をかけたほど。それを容易く無に帰すに至った破壊はもう終わった。

 

 後は再生を、少年の目覚めを待つはまかりだった。勝てるのか、負けるのかを決めるその一瞬の積み重ねに女神は緊張した。しかし、姿を見せない少年に少しずつ余裕を見せ始める。これで終わり、そう思えた頃にはもう誰も抵抗はしなくなった。審判を待つのみ。

 

 神の審判を。

 

 下されたのは反逆。

 

 背後から音もなく現れたその刃は見事に女神の腹部を刺した。そして抜かれる。そこから溢れ出る狼煙は紅色だった。

 

 赤い地面に紅が混じる。そして染み付く。

 

「僕は魔界に居ました」

 

「そして、その中で様々な攻撃を受けてきました」

 少年は急に語り始める。

 

「炎や氷、雷に風。水に毒。もちろん、刃が通らないような硬い皮膚を持つものに逆に刃で斬ろうとも意味を為さない柔らかさを持つのも居ました」

 

「その中で僕は生きてきました。十分な睡眠を取ることもできずに、空腹で死にかける。何度もとある川を見ては戻り、生き物の死骸を漁っては自分が生きる為に食い散らかす。その果てに僕はとあることを思いつきました。相手の攻撃を自分も使えたらと」

 

「そこからは試行錯誤でした。何度も失敗しては再度挑戦を繰り返し、無効化に成功しました。その後、自分のものにするまでには結構な時間をかけました。その時の体への負担も尋常ではないですが」

 

「貴女の力は侵食でしたかね。だから最初に無効化し、自分の力にして後は自分の触れる最高速で刀を振り続ける。そうしたらあれくらいの弾は何ともなかったです」

 

「それからは地面に穴を開けてそこに逃げました。自分が通れる最低限の広さを確保してから上の振動を頼りに貴女の近くへ」

 

「それからは話さなくても分かりますよね?貴女の腹部を刺し、三つの球体を破壊。貴女はこれからどうなるのでしょうね?」

 

「それがどうしたという。私はまだまだやれる」

 

「本当ですか?」

 

「刺した程度で私を動けなくなると思っているのだろう」

 女神が赤い弾を発射する。少年は動きもしなかった。そして、一回の音。

 

 擦れる音。

 

 鯉口から鳴る音『水月』。

 

 それから女神から放たれた赤い弾を左側へと流していく『咲天』。

 

 少年の身体の捻りによって生み出される大きさ渦『廻天』。

 

 そして少年は風となる『気まぐれの風』。

 

 当たりもしない弾幕。

 

 攻撃という手段を忘れたかのような振る舞いの少年。

 

 もう勝敗にこだわるようなものではなくなった。これは言わば少年の時間稼ぎ。

 

 やがて動きを止めた。

 

 女神は膝を立て、その場で動きを止める。

 

「な、ぜ、だ」

 

「僕が刺したのは腹部です。それは言わば肺と心臓に近く、次第に足元へと到達する。先に影響が出るのは肺ですがね。その後は心臓と脚に腕にまで到達し、最後は。言わなくても分かりますよね」

 

「な、に、をした」

 

「簡単な話です。話す気はありませんがね」

 少年は笑みを溢す。

 

 さようなら。

 

 少年の口から語られたのはそれだけだった。

 

 弾け飛ぶそれはもう戻ることはない。

 少年は彷徨い歩く。前に居た人も倒し、後ろにいた幻影も消え去った。

 

 赤色の地上を蹴り返すその繰り返しに少年は一通りの順序をやり続けているだけだった。

 

 変わり始める時代に少年はその身を任せた。

 

 ーー否、何も感じ取るようなことはなかった。腰で揺れる刀の感覚、足裏から来る地面の硬さ、目で見える赤い大地。それだけが少年の世界の全てとなった。

 

 その中での光明、少年は歩くのを辞めた。

 

「随分と疲れているようね」

 

「如何して此処に?」

 

「私の勝手な判断よ。気にしないで」

 ピンク色の日傘を片手に小さな少女は少年に話しかける。そして、飛びつく二人の因子に少年は無意識に手を置く。

 

 腰元で纏わり付くその因子に少年はそれ以上の敬愛を示す。目の前の住まいを貸してくれた人達には目もくれないほどに。

 

「良かったわ。貴方が生きていて」

 日傘をさしたその少女はまた話を始める。その声からは安堵の色が見て取れた。

 

「何かありました?」

 そう聞く少年に少女は語る。

 

「貴方の未来は暗闇、正しくそれは死を意味するわ。だから、此処で死ななくて良かったわ」

 

「僕の未来が真っ暗ですか?」

 

「ええ。もし良かったら私の館へ来なさい。最高の食事と時間を提供するわよ」

 

「それは良いです。それよりも椅子の上に置いた手紙をとある人に渡してほしいです」

 少年は二つの因子の機嫌を伺いながら、少女に頼む。少女の回答は素早かった。

 

「破り捨てたわ、あんなもの。そんな風よりも顔を見せに行きなさい。手紙という相手を置き去りにするようなものよりもね」

 

「そんなつもりはなかったですが」

 

「分かるのよ。何かやらかそうとしているのは。半年くらいは居たのだから誰かしら気付くわよ」

 

「そうですね。迷惑をかけたのは変わりないです。そうやって相手を置き去りにするのも。もう」

 その瞬間、戸が空間から現れ、二つの因子を喰らいついたのは。

 

 少年の言葉は途切れ、少女とその付き添いのメイドはたじろぐ。

 

 二つの因子はとの中へと入り込み、少年の理性という歯車は大きく崩れ落ちた。

 

 少年は何の躊躇もなく戸の中へと入り込む。その先に何があるかなど考えるような事もなく。

 

「……咲夜。真っ暗なのは彼じゃないわ」

 少女の言葉は地獄に響く。




 此処まで読んでいただきありがとうございました。
 こちらのお話は光(ミツル)(青年放浪記、青年英雄記の青年)の息子である光(ヒカル)のお話になります。
 最初のうちは書き切れなかった当時4作品を書き足したくて書いたのですが、いつの間にか父親を超える息子の話になりました。

それがどうしてこうなってしまったのかは読者であるあなたの記憶が教えてくれます。
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