荷物の運搬は特になく、何のために僕が呼び出されたのかは本当の意味で分からなくなってしまったその頃、僕は特に会話のない帰り道を歩いて戻った。
先ほどよりは霧は晴れているようだがまだしっかりと紅魔館を視認できるわけではない。帰り方もあまり分かっていない状態なのでとにかく湖のほとりを歩いて行く事にした。
「ここに居たのね。さぁ、私に掴まりなさい。」
上から咲夜さんの声がしている、と言ってもほとんど視線の位置は変わりはない。少しだけ見上げるだけで視認できる。
「はい、分かりました。」
僕は咲夜さんの手を掴むと落ちないように両手で抑えられた。そこで僕も同じようにしてみる事にした。
「そうね。ここから右の方にまっすぐ行くと大図書館があるから一回行ってみるといいわ。」
咲夜さんは大広間から館の中へと入った時、そのように言ってくれた。何かする事もないのでそのまま言われるがままに向かってみる事にした。
紅いカーペットと薄暗く光る蝋燭に彩られた廊下の先を歩いていた僕は何となく階段があるのが気になった。どこに向かっているのかは見てみないと分からない。そこで僕はそちらへと足を向けて前へと歩いてみる事にした。
足の感触からあまり使用されていないのを感じた。ふさふさの毛で何かを隠しているかのようだが別にそのような事はない。少し曲がっているのが気になるのだが踏み外さないように手すりを掴みながら下を向いていた。微妙に段が斜めに切り取られているので踏む場所によっては完全に乗らない場所もある。僕はやはり踏み外さないように階段を降りていく。
しかし、何かと明るいような気がして僕は横を振り向いていた。其処には天井にも届きそうな高さのある本棚にびっしりと本が詰め込まれている場所だった。しかもそれが森のように平然と立ち並んでいる。誰が取りに行けるのだろうか、とふと思ったが平然と空を飛ぶこの場所では高さはあまり関係ないと思われる。
「ここが、大図書館でしょうか。」
僕はそう呟いてからまた下へと降りていった。まだ可能性がある。
階段は降りてきたがまだもう一つ下にも階層があるらしい。丁度空いている場所からそのように感じた。大きめな机と椅子が対面しているように置かれている。そして机には紫色の服装をしている少女が眼鏡をかけながら腰掛けていて、本を読んでいる。あそこまで根暗だと逆に清々しいのかもしれない。
「おや、君は。咲夜さんから話は聞いていますよ。どうぞ、こちらへ。」
「貴女は?」
その人は黒い服装をしていて髪の色は赤色という悪魔というかそのあたりの種族のような気がした。
「小悪魔です。」
「小悪魔さんですか。ここが大図書館で間違いないですか?」
「はい。それでは、パチュリー様の元へとお連れしますね。」
その人、小悪魔という種族なのか名前なのかは分からない人は背中に生えている小さめな黒い翼をパタパタと動かしながら移動をしていた。脚はちゃんとあるがあまり発達はしていないという事なのだろうか。
「歩く事はできますか?」
「それはどういう意味でしょう。あまり意味はないので歩いていないだけですよ。」
ふふ、と笑ってくれたので軽く受け流されたのだと思われる。あまり考えていなかったのだろう。
「そうですよね。」
僕はそれだけ返してそれで終わりにした。それは目的地に着いたという事だ。
「咲夜から聞いているわ。」
小悪魔さんはここで何処かに向かってしまった。その向きから本来の職務に戻っただけだと思われる。
「貴方は魔法が扱えるのかしら?」
「魔法?何か知りませんね。」
「あら、そう。何も教わっていないようね。その剣からはかなりの魔力を感じるのだけれど。」
「そうなんですか。お父さんから貰ったものなのですがとても貴重なものであると聞いています。」
「実際のところはまだ判明しないけど、並大抵のものではないわ。」
「そういうのは分かるんですか?」
「分かるというよりも見えるのよ。私には魔法陣が見えているから。」
「魔法陣なんて知りませんよ。それは何ですか?」
「説明すると面倒ね。お父さんに聞いてみなさい。」
「そうですか。善処します。」
「それで此処にはどのような経緯で来たのよ?」
パチュリーさんは僕に聞いてきた。この辺りは何となくお父さんにも似ていると思われる。それともその逆なのか。咲夜さんの話を照らし合わせると師匠にあたる人物になるのだろうか。
「あまり説明はありませんでした。行ってきたらどうだ、と軽い気持ちです。」
「あの人らしいわ。とても顔がよく似ているだけなんだけど。何となく伝わってくるわね。」
「そう言えば、机がすごく汚れていますね。」
黒色のテーブルには傷のようなものが多く付いている。少しだけ焼けているようにも感じる。
「それは努力と失敗の具現化よ。熱心に魔法について学んでいた青年が前は居たのよ。その人はとても勤勉家で失敗を恐れずに挑戦を繰り返していたわ。昼頃にしかこちらには来なかったけど寝る寸前までここでペンを動かしていたわ。青年は人間なんだけど集中力というのは化け物だったわ。」
「その人は今は何処にいるんですか?」
「さぁ、何十年も見ていないわね。ここだと時の流れが認知し辛いからあまり分からないわ。」
もしかすると青年というのは僕のお父さんなのかもしれない。だけど何十年も前の話なのだろうか。
「突然姿をくらましたのですね。」
「ええ。最後にボコボコにしてきて、それから一切姿は見ていないわ。そのことについてはあまり怒っていないけど、気になる事はあるわね。」
パチュリーさんにとっては特別な存在という事になるらしい。愛する弟子だったのかもしれない。
「やはり気になるんですか。多分元気でやっていると思いますよ。」
「あの人がそんな簡単に折れるものですか。」
「あ、そうですよね。僕はこの辺で帰ります。」
パチュリーさんは少しだけ怒りというものを露出させていた。その理由は全く分からないわけでもない。ただ、かなり怒らせてしまったことだけは何となくわかる。