それから大図書館から出た僕は特にやることがない事に気づいた。其処で一旦外に出て妖怪の山へと向かう事にした。
その場所には守矢神社という建物があるらしい。神社というとは何も知らないが早苗がいるという事はもう分かっている。月での異変の時に何となく聞いていた。せっかくの機会なので行こう、と思っただけである。意外と軽い理由であるが問題はないと思っている。
その旨は門番である美鈴さんに話しておいた。そうすると親子で変わらないですね、と返された。
妖怪の山の山頂にあるらしい守矢神社までの道のりは看板によって示されていて丁寧な書き方なのですぐにたどり着く事はできた。しかし、よく声をかけられたが生憎、ここで使えるお金というものは持っていないので全てを断るしかなかった。
山道を行く訳になるがそこまで厳しい道のりということもなかった。誰も居ないので調子に乗って少し駆け足気味に登って行く事にしたが意外にも問題はなかった。きっとそれなりに鍛えていたからなのだろう、としておく。
その道の途中ではよく話しかけられたので僕は軽く一言、二言話してその場を後にした。幻想郷はとても平和な場所であると思える。そして誰ともいがみ合おうとはしない心を持っているのだと僕は感じた。そして足を止める。
綺麗な赤い色をしている門が大きく聳え立っている場所へとたどり着いた。特に看板はないがここで間違い無いのだろう。赤い門は鳥居という神社に入る際の出入り口らしい。
僕はその中へと入る事にした。人はそこそこ、十人程度居て、誰かと話していた。丁度僕からも見える。その人は紫色の髪をしていて背中には大きな太い縄をつけている。それはきっと神聖なものなのだろう、と感じた。建物の外側にある廊下に座って皆と話していた。全員と話しているようだがちゃんと会話が成り立っているあたり、その人の技量が計り知れないものであると感じた。
「早苗さん、今晩は。」
今の時間は大体夕暮れ時であり、挨拶の言葉にはとても迷う時間だった。
「こんにちは。」
清楚な感じを漂わせる早苗さんは掃き掃除を一旦中断して僕の方を向いてくれた。正直それだけでも嬉しかった。
「月での異変の時はお世話になりました。」
「いえいえ。私は何もしていないわよ。」
「身体の方は無事です。心配かけているのかと思い、一応報告だけしに来ました。」
「わざわざありがとう御座います。」
早苗さんは少し恥じらいのある表情を浮かべていた。その理由は今の僕には何も分からない。
「立ち話も何ですので中に入りますか?」
「良いんですか?」
僕は神聖な場所であるような気がするので一応聞いた。
「別に構いませんよ。諏訪子様も認めています。私が案内しますね。」
早苗さんは掃き掃除に使用している木製のものを持って、裏口へと回り込むように僕を案内してくれた。その言葉はとても丁寧で何処かの赤い服の巫女と比べると美しいものだと感じる。
「とても綺麗ですね。」
「何のことでしょう?」
早苗さんの反応はおかしいものだった。
「目の前にあるものですよ。」
「それは嬉しいです。」
僕は何故、早苗さんが喜んでいるのだろうかと思った。それ故に何が起こっているかは全くと言って検討もつかない事だった。
何か波乱が起きたようにそうでもないように感じたが裏口から守矢神社の本殿までたどり着いた。そして1番大きい部屋へと案内された。大きな机が置かれていて座布団が三つ。そして部屋の片隅には何枚か同じようなものが置かれている。見様見真似で対面に座る事にした。
目の前にいる人は目のついた唾の付いている帽子で青っぽい服装をしている身長は小さめな人だった。しかし、どこか威厳があるようには感じる。
「今晩は。」
「良い少年だね。さて、早苗はここに座りなさい。私が客人を持て成そう。」
その人は立ち上がるとささっ、とこの部屋から出ていった。そもそも永遠亭と同じくとても大きな部屋を襖で区切っているだけなので実際のところはどのような大きさになるのかは見当もつかなかった。
「座り方を教えて欲しいです。」
早苗さんに僕は聞いてみたが何処か目が虚ろだったので僕はそれ以上は声をかけようとはしなかった。今座っているのは胡座というらしい。なので、脚を折りたたんで座る正座というものをするようにした。その辺りは教えてくれた。
「やぁやぁ、それにしてもよく来たね。」
先程座っていた青っぽい服装の人が三つ分の容器、湯のみを持って僕の元へ一つ、自分たちに一つずつ置いた。それから神妙な面持ちで僕の対面に座った。その横に早苗さんが座る。
「私は曳屋 諏訪子。よろしくね。」
「ヒカルです。よろしくお願いします。」
「此処にはどのように来たのかな?」
「お父さんに行くように言われました。」
「前にいたアーサーとか言う人に連れられてきたという事だね。」
「はい、その通りです。」
「とても綺麗な言葉を扱う。気に入った。それでは本題に入ろう。」
僕はとても緊張している。ここから何が起ころうとしているのかは全く分からない。向こうの手のひらで踊っているだけのように感じる。
「本題とは?」
僕は聞いてみた。何が起ころうとしているのか、何をしようとしているのか。
「早苗を貰ってはくれないか?きっと満足するはずだ。」
「はぁ。」
「何か不満なことがあるのかね?その体を自由に扱えるんだよ。」
諏訪子さんは何か勘違いしているような気がする。それとそもそも話がわからない。僕が早苗さんを貰う、とは何のことだろうか。
「そういう風で早苗さんを見た事はありません。」
「そうかい。いきなりでは話も分かりづらくなる。今日は親睦を深めるために泊まっていくといい。」
「それは流石に迷惑では?」
「まぁ、良いさ。君の反応は分かっていた。元々こうするつもりだったよ。」
「そうなんですか。」
「さて、あとは君次第だよ。」
「大分、強引ですね。」
「それなら、またの機会でも構わない。不快にさせてしまったのは私の失態だ。」
「あの、ヒカル、さん、私は、是非お願いしたいのですが。」
「分かりました、今日は泊まっていきます。」
僕は確かにそう言った。そこから二人の表情は大きく変わる。そして何を考えているのかは僕には到底理解できない。
「なら、今日はそうだね。早苗と一緒に寝てもらおうか。」
「呆れますね。帰りますよ。」
「それは早苗に失礼ではないかな?」
「諏訪子さんのその言葉に呆れているだけです。」
「そう強引に押し付けるな。二人に任せるのが一番手っ取り早い。」
僕は知らない声が聞こえたので後ろを向いてしまった。其処には先程人と話していたここの住人らしき人物がいる。
「本当にすまないな。早苗が早く男を連れてこないから焦っているんだ。」
申し訳ない、と付け加えたその人は僕のことを見ていた。そして少し品定めをするように僕の目を見る。
「早苗が言っていたのはこの人なのか。私は構わない。」
「神奈子様。」
早苗さんは口からそれをこぼした。
「で、話はどうなっているんだ?まさか、こいつを困らせているわけではないよな。」
「そんな事、あるかもしれない。」
「それは後で片付けるとして。帰るのならばお詫びを含めて私が送ってあげよう。」
「でしたら、紅魔館の人に今日は帰らないと伝えてください。前から人の家に泊まるのはやってみたかったんですよ。」
「良かったね、早苗。」
この場はその辺りで事は収まった。あそこで断っていればどうなっているのかは別の選択をした僕に任せるしかないだろう。