赤い服を着た巫女は宙を舞う。
その下、大きな広場があるところで巫女は止まる。眼前に広がるその悪事の現場を成敗するテメに現れた正義の味方はゆっくりと降下した。その先に見えるのは二人。
「今日はがっぽり稼ぐわよ。」
「女苑、偶には私にも分けてよー。」
「駄目よ、お姉さんはいつもすぐに無くすじゃない。私にお金を管理させて。」
「すぐお金使ってきちゃうじゃん。回ってこないよー。」
「使いきれないくらい奪えば問題ないわ。それまでは辛抱しなさい。」
二人の会話は他愛もないものであるが、内容というのは聞き流そうとは到底思えない内容だった。
「誰か、来たわよ。」
「うふふ、貧乏神の紫苑に、疫病神の女苑に会えたわ。これで貴方達を倒すことができるのだから。」
「もうお見通しってわけね。私たちが完全憑依異変の犯人よ。これで文句はないかしら。」
「文句はないわよ。やっと本性を現したわね。」
「私たちには絶対に勝てないっていう噂は知らないのかしら。」
「知らないわね。私一人でも倒せそうだし。」
「ねぇ、女苑。切ないねぇ、あの人。不幸な人だよ。」
やる気のない目からは何も生きているという証は感じられなかった。
「何か奪えそうなものは持っていなさそうね。ライブの途中で死んでもらいましょう。」
「なら、貴方達には完全敗北という幸福を与えてあげましょうか。」
「憑依、アブソリュートレーザー。」
女苑が楽しそうに話す。
「よし、成功。って、あれ女苑はどこに行ったの?」
「何の事だがさっぱりだけどあんた達の動けなくさせて勝とうなんていう姑息な戦法は通じなかったようね。」
霊夢が少しだけ嘲笑うようにしていた。
「これで、貴女達の能力は働かないわ。あとは宜しくね、霊夢。」
紫とそれに憑依させられる形になった女苑はその場で動かなくなった。
「あー、もう駄目だー。お姉さんは戦闘では役立たずだし、根暗で貧乏くさいし、自分ではなんともしようとしない何一ついい所のないお姉さん一人なんて。よりによって博麗の巫女と対峙するなんて完全敗北よ。」
「だそうよ。妹に捨てられた気持ちは察するわ。」
「もう、良い。私を馬鹿にしやがって、もう許せない。誰も勝てなくしてやる。特に女苑は覚えておけ。」
「貧乏神を表に出すのは失敗だったんじゃないの?」
霊夢でさえ不安を憶えた。その勢いには毒がある。
「貧しさに怯えて死ね!」
紫苑の怨嗟が込められた声が辺りに反響する。そして、その場から生まれて出てくるそのオーラは凄まじいもので流石の霊夢でさえ押されかけていた。
「なんて言うオーラなのよ。」
「私が依神 紫苑。泣く子も不幸にする貧乏神だ!」
「しっかり気を持ちなさい、私。」
「最凶最悪は私だけで良い。」
ブワッ、と溢れ出した負のオーラが霊夢とその周りの人たちを襲った。
「やるしかないのね。」
霊夢もやっとの思いで気持ちを整えたらしい。そのあたりは流石、博麗の巫女としか言えないような気もする。霊夢は手に持っていた札を直線的に投げ込む。
それに反応した紫苑が右腕でそれを軽々しく振り払う。
周りには人里の人々が頭を抱えているか、紫が女苑に完全憑依して動けないと言う状態になっているだけだった。誰も頼る事はできない。そして、誰かに助けを呼べるような人もいない。
後戻りできない霊夢は弾かれたはずの札を動かしていた。
それに紫苑は再度払いのけるだけでそれ以上の行動はしなかった。
あまりにも余裕があるのか少しだけ笑みをこぼしているようにさえ思えてきた。
それとは対照的に霊夢には少しだけ現実に打ちひしがれているようだった。
左腕を大きく振る紫苑。
それを見切れずに受けてしまった霊夢。
「痛っ!」
霊夢は自分が受ける代わりに相手にも当てる事を選択した。
「中々やるけど、甘いわよ。」
「ふふっふ、勝てないって言っているじゃない。」
紫苑にはかなりの余裕がある。それだけは伝わる。
「それは本気にならないと分からないじゃない。」
「余裕だね。」
紫苑には何かあるのだろう。それともあまりの実力の差にどうしようもない程の優越感に浸っているのか。
霊夢は脚を使って近づいてから右腕に持っているお祓い棒を振るう。そしてそのついでに札を投げておく。
左腕で弾いた紫苑。そして右腕で下から振り上げたのを霊夢はお祓い棒で受け止める。そこから軽く弾かれ、紫苑は更なる追撃を与える。
足払いを仕掛けた左腕に気を取られた霊夢が上から振り下ろされるものに殴り倒された。
少しだけ地面を跳ねた霊夢はなんとか体勢を戻して地面に着地する。
「私は疫病神。どうして私に勝てると思うのかしら?」
何故か通じない攻撃に何ともならなさそうな気がしてきた霊夢はその場で動きを止めてしまった。もう、行動に対する思考をしているようなほど余裕があると言うわけでもない、と言う事だろうか。
「私は博麗の巫女。勝って当然なのよ。」
「減らず口を。不幸な人間だよ。」
「それはどっちがふさわしいのかしらね。」
霊夢が回り込ませるようにゆっくりと札を投げつける。そこから急に加速した札が紫苑の元へと近づいてくるがその人が出す負のオーラには到底敵わなかった。それはどうしてなのかと言われると最早完全敗北させられるとしか理由はつけようがない。必然、と言う言葉に操られた霊夢がその糸から逃げられるわけもない、もはや人形。
ゴールがもう見えているのだろう。何もしなくなってきた紫苑を三人は見つめる。そして屋根の上で一人が見つめる。