時は少しだけ戻る。完全憑依異変の噂があったがそれが何であるのかは全く理解されていないどころか、認知されてもいない頃。
少年、もといヒカルは紅魔館の地下にある大図書館でパチュリーからある事を教わっていた。
あの日、咲夜からある青年についての話を聞いてから自分が借りている部屋に置かれている紙束が気になっていた。その日の内に整理してその勢いでここまでやってきた。その熱意というのはやはり親子というべきなのだろう。
「パチュリーさん、分からない事だらけなので教えて欲しいです。」
「はぁ、またこんな時間を過ごす事になるとは思わなかったわ。」
一つ溜息をついたパチュリーさんは僕の質問に対して答えないのかと思ったがそうでもなかった。
「で、何処から分からないのよ。」
「そうですね。魔法というものからでしょうか。それと元素なんていうものは何なのか。後、その応用と利用方法。組み合わせ方の良し悪し。後ですね、」
「待ちなさい。きっと止まらないでしょう。なら、貴方の今の実力が知りたいわ。」
「僕の実力ですか?」
「そう。その剣なら発動出来るわよ。そしてきっと発動の仕方も似ているはず。愛用者は変わらないわよ。」
「つまるところ、世代を超えて受け継がれているものという事ですか。」
「そんな所でしょうね。それともよく似ているだけの紛い物か。早速使ってみなさい。想像すれば問題ないわよ。」
パチュリーさんはさも簡単に言ってくれるがそれだけで発動できたらどれだけ楽なのだろうか。僕はその言葉をどのように信じれば良いのかは全く分からないが兎に角やってみる事にした。
「想像ですか。そうですね。」
僕は目を閉じて風が巻き起こるのを想像した。それは誰かを吹き飛ばそうとしている自然の驚異のようなもので誰もがひれ伏すような力を持っている。音はゴーゴーと言った風同士が擦れあっているような音がしている。肌には大きな傷を負わせようとしている刃が断続的に襲いかかってくる。
「辞めてー!本が傷つくわよ。」
「何ですかー!」
もはや会話が出来ないと思った僕は其処で風を吹かせるのを辞めた。そして僕は目を開ける。
「あれ?こんなに汚かったでしたっけ?」
「そんな次元ではないでしょう!とんでもない奴ね。」
「はは、僕が片付けます。」
「それは良いわ。それで何か感じる事はないかしら。」
パチュリーさんは僕が起こした風によってそのようになったのだと思われるぼさぼさの髪を手で直していた。そして、僕には質問を投げかけてくる。
感じる事、それは何を話せば良いのだろうか。僕は考えた。
「言われた通り、想像しただけなのですが。うーん、何故ここまで勢いがあるのでしょうか。」
「知らないわよ!もう、外でやってなさい。」
パチュリーさんはとても怒っていた。その理由はきっと僕が力をきちんと扱っていなかったからなのだろう。それだけで済むのならそれでも構わない。
「わかりました。」
僕は紙をそのままにして、落ちていた本をそのままにして外に出る事にした。其処からは自分なりに答えを見つけようとした。そして、何と無くだが掴めたと思えたところでパチュリーさんに報告してみたところ、僕が知らないことを多く話してくれた。小悪魔さんが紙とペンを渡してくれたのでメモを取る事にした。内容は分かりにくいもので難解なものだったが、後で小悪魔さんが教えてくれたり、部屋の中に置かれている紙束の一部から答えを見つけ出したりした。それだけでも十分な成長であるだろう。僕はそう思えた。
ほぼ同じ頃、魔法の森で人形の制作をしていた男がいる。その男は異世界から来た人でここのことについてはあまり知らない、そして住む家も何もなかった。其処で幻想郷の南側、その中でも黒い屋根をしている家を訪れる事にした。其処で出会った金色の髪と整った顔つきをしているアリスという人物の家に居候させてもらう事にした。
「どうかしら?とても楽しいものでしょう。」
アリスさんがそう聞いてくる。
「ようやく慣れてきたような気はする。しかし、不思議な場所であるのには変わりない。」
周りには今作っているような人形が大小異なるが所狭しと置かれている。そして何を感じたのか全てこちらを向いているようにさえ思える。
「ここはまだ少ない方よ。愛着があるから捨てられなくて屋根裏に置いてあるわ。」
「屋根裏?遂に其処まで。」
「ええ。何を考えているのかしらね。」
「いや、別に問題と思う。それだけ情熱があると言う事だろう。」
「そう言ってくれると助かるわね。」
「正直に話すと、人里で売ってみて、材料を買う資金を集めてみてはどうか、と言いたくもないがそれはしたくないだろう。」
「ええ。前に来ていた人も同じような人だったわね。」
急にしおらしくなったアリスさんは何となく怪しげな雰囲気があった。
「あの人は私の趣味については何も言わなかったわ。一言も言わなかったかもしれないわ。」
「その人物とは前に来ていた青年という人物なのか?」
「ええ。あの人はとても危険な人だけど興味ある事には熱心に取り組んでいたわ。」
「ほう。だが、今はどこにいるのかはさっぱり、と言うことか?」
「本当にどこに行ったのかしら?」
「案外に近くにいるかもしれない。」
「どこに居るのよ。」
「貴方の記憶の中で鮮明に生きている。それほど思われて向こうも喜んでいるだろう。」
「そ、そうね。」
この話は何回目だろうか、それともいつまで聞けばいいのだろうか。きっと後悔の念は多く残っているのだろう。
「さて、人形づくりを頑張ろうか。俺もこの事には興味がある。」
それからは少年ケプリは黙々と作業を続けた。その勢いには流石に似ているとしか思えなかったアリスがじっ、と見ているだけだった。
「私には何も興味が湧かないのね。」
「俺は女を誑かすために過去に訪れたわけではない。抜かしたい相手がいる。それだけだ。」
「好きよ。」
「誰に対するものだ?」
ケプリは針作業を続けていた。少しずつ出来上がる人形になんとなくの気持ちを込めつつ、今か今かと待ちわびている。その高揚感は本人にしか知り得ないものである。
もう周りは見えていないのだろう。置かれているティーカップも冷めてしまった。そして日が傾いていると言う事にも。そしてそのほかにもたくさん。