土埃の舞う人里の中心地。大きなライブ会場の前で行われている決闘は終わりを迎えようとしていた。それは霊夢の惨敗という力の差を歴然とさせた紫苑の勝利であった。その決闘について異議を申し立てるものはいない。もし、家屋の上に傍観を決め込んでいた男が居なければ。
皆の居る南側から地面に着地する軽い足音が聞こえてきた。
四人でさえその人の登場を予想出来たものはいなかったのだろう。誰もが驚きの表情を隠そうとはしていなかった。それもそのはず。少年の登場には流石に誰も予見できた人は居ないだろう。
「いやー、注目されると少し戸惑うと言いますか。どうしたら良いのでしょう。」
「逃げなさい。アンタじゃ、勝てないわよ。」
霊夢さんは地面に寝転がりながら掠れた声で話していた。
「なんか、凄いオーラ出してますね。お父さんに比べたら何でも無いですよ。」
僕にはそれがある。お父さんに勝てるなんて想像した事もない。どれだけ認めてもらえるのか、としか考えていない。
「誰だ?お前も不幸になりたいのか?」
前にいる凄いオーラを出している青い髪をしている人は僕の方を見るとゆっくりと歩いてきた。その人のオーラも青色で灰色の頭にかぶるものと一体化している服装で青色の腰巻には紙が貼り付けられている。そこには催促状なり、借用者なり、僕には見覚えのないようなものばかりがある。如何にも救いたくなる見た目をしている。
「もしかしてそれに関係する神様でしょうか?」
「私が最凶最悪の貧乏神。依神 紫苑だ。貧乏に怯えてその場に平伏せ!」
「ちょっと待ってください。お布施を渡します。」
僕は自分の身体を叩いてみたが渡せそうなものはなかった。
「あ、すいません。渡せそうなものはありません。どうしたら良いでしょう?」
「どうもしなくても良いわよ。」
紫苑さんは優しくもそう答えてくれた。それだけでも有難いものである。
「それで、何故か霊夢さんが痛めつけられている状況についてはどの様に反応したら良いでしょう?」
「そんなのは知らないわよ。」
「とにかく、霊夢さんの代わりに戦ってみるとしましょう。良いですか?」
「コロコロ変えるわね。変人なの?」
「ここの住人に言われるとは。僕もようやく仲間として認められたと認識しても良いのでしょうか?」
「知らないわ!私の敵ということで良いわね?行くわよ!」
紫苑さんは顔つきの割にはかなり好戦的な人だと思う。目は細く、力はあまりないがオーラだけは凶悪なものでどの様にしたら良いのかは全くと言って判断つかない。
「楽しみましょう!宜しくお願いします。」
僕は腰に携えている剣を取り出す。黄色の刀身は並大抵の人には扱えないらしいが僕には何の話なのかは知らない。その剣は僕が握り始めた頃から持っている愛用品である。手に馴染んだ柄がちょうど良い。
「もうなんだって良いわ!」
紫苑さんが右腕を大きく振り、僕の元へと当てようとしている。それを僕は受け止めた。だからと言って、止められるのかと言われると難しい。足が地面に擦れる音がするがそれ以上は何ともならなそうだった。力を抜いて後ろにある建物にもたれかかる。
そこを紫苑さんの左腕から伸びる青色のオーラが僕の元へと来た。そこで記憶が飛ぶ。
そして僕は走り出していた。訳も分からないが今回の異変の立派な使い方だと思ってその場では何ともしなかった。
少しの間の記憶が抜けた僕だが其処から剣を振るう。
覚えたての魔法というものを使用した。着火する火花とそれに影響を与える風を出す。軽い爆発のようになったそれはお互いに傷を負わせた。まだ、使い勝手が分からない。
「くっ!中々やるじゃない。」
「まだ、使い方が分かりませんがどうしたら良いのかは何となく分かりますよ。」
僕は何とか立ち上がる。意外と効くものだ、と感じた。向こうは僕よりかは効いていなさそうである。オーラで多少なり守ったのだろう。
「それに二人掛かりで倒そうなんて。」
「やっぱりですか。これ、楽しいですね。」
「頭のネジでも吹っ飛んでんのか?」
「その言葉の意味は分かりませんね。」
「もう良い。次は当てるわ。」
紫苑さんの両腕を振り回している。其処から伸びるオーラが辺りの物を巻き込みながら僕へと迫ってきている。何となく既視感のあるそれはどのように避けるべきなのかはよくわかっている。
僕は少し後ろに下がるとステップを踏むように前に飛び出してから右半身を地面にこすりつけた。其処から飛び上がりながら左腕を伸ばした。
しっかりと感触はあるのだがそれ以上は何も感じなかった。オーラに防がれたのかもしれない。
「急所に的確に当てるなんて。でも、決定打がないわよね。」
「そうですよね。本当に其処だけが問題なんですよ。どうしたら良いのでしょう?」
「敵に塩は送らないわよ。」
紫苑さんはどこか冷たかった。僕が何をしたというのだろうか。
「塩?砂糖ではなく。」
「揶揄よ。気付きなさい。」
「ああ、例え話ですか。納得です。」
「ったく、どんな奴かと思ったらただの馬鹿なのね。」
「よく言われるんですよ。」
「もう、やだ。私もさっきみたいに侮辱しているんでしょう。」
上から押し潰すように紫苑さんは腕を動かした。その動きに記憶が飛ぶ。
今度は横に動かされていた。それは別に問題ない。憑依で意識が立ち変わっているだけ。それ以上は何もない。
夢とか思わない。
僕は左足を踏み出してその場で捻る。空中へと繰り出した身体から一気に伸びる一本の脚。それは紫苑さんの顎の辺りを蹴り上げる。それもまた感触はある。それがどのように効いているのかはまだ判断はつかない。そのまま捻りを加えて紫苑さんを見つめる様に体を向けた。そして真っ直ぐ目の前の人に視線を送る。其処から大きく動き立つ事はないか、何か嫌な動きをされないか。そんな事を考えていた。
お父さんはどんな体勢の時でも相手の動きは見ている。その目は確かで一種の恐怖心を植え付けられる。
「まだ、やりますか?」
僕は聞いた。
紫苑さんは単純に地面に横たわっている。脳天を揺さぶられたのか意識が朦朧としているのだろう。僕は近づく事はせずに今いる場所から危険物を見るような視線を送る事にした。
「お前は私を怒らせた。何だ、あの攻撃は?何だ、あの身のこなしは?私の能力は全く効いていない!」
其処を言われても困るのだが、相手がそう思っているのならばそれ相応の回答は用意しないといけない。
「行きますよ。此処からは本気です。」
僕は握っている手の力を言葉とは裏腹に抜いた。そしてゆっくりと縦に回す。