異変の解決はした。そして完全憑依というのは夢の世界から干渉が一時的に出来たというだけでもう出来ないそうだ。ドレミー・スイートさんならきっと何とでもなるはず。
僕はそれから紫苑さんを引っ張り出して永遠亭まで背負って向かう事にした。後に聞いた女苑さんは霊夢さんと紫さんという人に任せておいた。その話では命蓮寺なる場所へと向かっていく予定らしい。何処からか現れた目の沢山ある不思議な空間の中に入っていった。
僕はケプリさんとは其処で別れた。そのはずだが行き先は同じであるらしく、魔法の森という場所までは同じだった。そこから僕は真っ直ぐ歩いて竹林の中にある建物へと向かうことにした。
此処は地面の高低差があり、竹に視界を塞がれていて全ての感覚が狂わせてくるが適当に歩いていくことにした。周りは特に誰か居る気配はない。そして何処にいるのかは詳しくは分からないが何となくいけそうな気がした。
「おやおや、君は偉いねー。」
「だ、誰ですか?」
「でも、それは置いて逃げてくれ。近寄せたくないんだ。」
此処からは姿は見えなかった。誰かの気配はないが動物の気配はあったのかもしれない。其処だけは迂闊だった。
「理由を聞きたいです。」
「その疫病神は此処で息の根を止めるのが最適だ。さぁ、選べ。逃げるか、襲われるか。」
「逃げます。」
僕は答えて先を急いだ。きっとこの先に永遠亭がある。そう信じて。と言うのと立ち止まると言う行為が怖くて仕方がなかった。
後ろから微かに声が聞こえる。その声は儚く、小さな声で今にも途切れそうなものであった。僕には何をしたらいいのかはすぐには判断出来なかったがその場で止まることにした。
「どうしましたか?」
「もう、何もしなくても良いよ。」
紫苑さんの声は確かに消えていくロウソクのようで何を言えばいいのかはさっぱりだった。
「治療ぐらいはしましょう。きっと良くなりますから。」
「ううん、私は疫病神。何をしても意味はないわ。」
「それは誰が決めた事ですか?やってもないことに判断つけるのは違いますよ。」
「もう分かるのよ。何をしても無駄。」
「無駄ですか。」
僕はそこで言葉には出せなかった。その先はどうしてもまだ言えるようなことではない。
「そう。分かったら私を下ろして、貴方は幸せになって。不幸になるのは私だけでいい。」
「分かりました。幸福になりたいので僕は紫苑さんを永遠亭まで連れていきます。良いですね?」
答えは僕は聞かなかった。いや、聞く耳を持つつもりはなかった。何をしても無駄なのは確かに理解できる。だが、そこで諦めてどうする。
「私の事は放っておけば良いのよ。」
「嫌です。それが心残りになって不幸になるのはごめんです。」
「もう、任せる。」
紫苑さんはもう何もいう事はなく、顔を埋めていた。肌触りが気持ちいいのか、疲れて眠りかけているだけなのかはともかく、僕はその先を急いだ。
永琳の治療の甲斐あって難なく動けるようになった。しかし、その死んだ魚のような目は治る事はなく、さらに酷くなったように感じる。
「紫苑さん、食事お持ちしました。」
少年が永遠亭まで紫苑を運んでから数日、未だに布団の中からは出ようとせず、膝を抱えているだけの紫苑は鈴仙の持ち運んで来た食事にも反応は見せなかった。
「どうしましたか?何か気になるところがありますか?」
優しい問答であるが、相手の心には届かなかった。無理に伸ばしてもいけないと思う。
「ううん。私を一人にさせて。私以外を不幸にはしたくないから。」
「そうですか。分かりました。半刻経ちましたらまた来ます。」
「はい。」
紫苑は味のない返事をしてその場で蹲っていた。何もしたくないと無力感を辺りに漂わせている紫苑に誰も近づきたくないと思っていた矢先、襖を開けたのは黒髪の浴衣のような着物を着ているヒカルだった。
「相変わらず元気なさそうですね。」
「そんなに私に近づかないで。」
「放っては置けないですよ。なので、少しの間だけ面倒見させてください。」
「分かった。それなら良い。」
「紫苑にとって、不幸って何だと思います?」
少年は聞いた。
「言いたくない。」
「それなら不幸なんて言わないでください。」
少年の真意を確かめるためにはまず目の前のことについて話す必要があるようだ。
「私にとっては何か嫌なことが起こることよ。」
「例えば?」
「怪我とかしたりするのをみるのは嫌よ。」
「障害あってこその人生というものですよ。不幸と嘆くよりも前に進んでみましょうよ。今よりは随分と良い顔できると思いますよ。」
「ねぇ、貴方の不幸は何?」
「不幸ですか。人を見捨てた事や何もしていないと思えた時、ですかね。」
「怪我とか、病気はどうなの?」
「それは生きているのでかすり傷として笑ってますよ。それはいずれ治ります。でも、心はそう易々とは治りません。救えた命を見捨てるのは心苦しいものです。」
「でも、私には資格はないわ。」
「厄病神だからですか?だったら何ですか。それだけで決まるなら僕は貴方に負けてますよ。神に人間如きが勝てないですよ。」
「ふーん。そうね。」
紫苑は置かれている食事に手をつけようとした。
「今日は僕が尽くす番ですよ。」
「いや、待って。」
紫苑はそう言いつつも逃げようとはしなかった。
その後、鈴仙が現れた時には完食して良い表情をしている紫苑が居たとか、居なかったとか。