霧に包まれたこの場所ではいつものように妖精たちが遊んでいた。と言っても異世界から来たヒカルにはそんな事もわからない。それに見たことのあるわけでもないので気になるが状況が悪いのでその場で静かにしているだけだった。
霧の奥から紅い色の壁をしている館が見える。奇妙な見た目をしている館なので何となく腹を括ったヒカルだったが意外にも拍子抜けなところだった。
「アーサーさんですね。今日はどのような要件ですか?」
緑色の中華服を着ているこの館の門番はアーサーと僕の姿を見ただけでだが簡単に中に入れてくれた。どうしてなのかは聞くに聞けなかったが取り敢えず目の前のことに集中してみることにした。
「今日も野暮用だから何も被害は加えませんよ。」
「分かりました。いつも通りで良さそうですね。ところで、この人は誰なんですか?」
「この人はシソー国国王の息子ですよ。」
アーサーは少しだけ甘い声で答えていた。面倒ということではないがこれからのことを考えてしまったのだろうか。僕はそう思った。
「ヒカルです。今日から幻想郷の何処かに過ごすことになりました。」
「空き部屋がありますのでその場所なら使ってもらっても良いと思いますよ。私には勝手な判断はできないので主人様に聞いてくださいね。」
「優しい人ですね。親切にありがとうございます。」
「ふふ。中々興味深い方ですね。」
門番は明るい表情で微笑みかけていた。僕からするとお姉さんのような身丈なので余計にそのように感じるのかもしれない。とか思ったり。
「それではこれで行きます。また会いましょう。」
アーサーに少し強引に館内へと入っていく。壁の中は綺麗に整えられた庭園が広がっている。味気のない自宅からするととても心を躍らせるものだった。しかし、それは抑え込んだ僕は特に興味を示さないように歩いていた。
少し湾曲した庭に作られている道を通って中へと入っていく。
大きめな扉であるが重量感はあるもののとても軽く開けることが出来た。アーサーに先導される形でしかないが中に入る。
紅いカーペットが一面に敷かれている。そして螺旋階段が奥に見える大きな部屋が広がっていた。そして短めの銀色の髪をしている三つ編みの髪型をしているメイドらしき人が目の前に立っていた。その人は青色の服装で膝上程度の丈のスカートを履いている。高いヒールだが特に軸のぶれることのないその歩き方には感服するものがあった。
「私は十六夜 咲夜と申します。懐かしい顔つきの方がいらっしゃいますのでどうぞお嬢様とお話し下さい。それまでは私が案内いたします。」
コツコツ、と聞こえてきそうな圧倒的な存在感とは相反する静かな面持ちで手を差し伸べてくれた。見た目的にはあまり変わらないとは思うがそれでも何か人の強さを感じる。
「僕はヒカルです。幻想郷という名前くらいしか知りませんので沢山教えて欲しいです。」
「機会があれば何なりと。」
咲夜と名乗ったその人は冷徹にも感じれる言い方をしていた。クールと言うのか表情があまり表には出ない人なのか、と僕は思った。
「咲夜さん、私はここで失礼します。」
とここでアーサーは変えることの意思表明をした。僕は止めようかと思ったが向こうも暇だから付いてきているわけではない。崖に我が子を落とそうとする獅子の気持ちなのだろう。
「アーサーさん、有難うございました。」
僕は一言、心の底から出てきた綺麗な言葉を取り出して周りに見せてあげることにした。そして一礼を加える。
「兄者はとても自由な人だ。でも、ここでの伝説は本物だ。その身で味わうと良い。」
アーサーはそう言ってこの館のトビラを開けて外へと歩き出していた。そして扉が閉まる頃には僕の心の中には未練というものはなく、ただただ目の前のことに集中している自分がいた。その理由はさらなる好奇心からくる何か。何だと思う。
「あの人は色んなことをしていきました。幻想郷を引っ掻き回した挙句、姿を見せる事なくそちらの世界で暮らしているようです。あの人は罪深い方です。」
「もしかして僕はお父さんの代わりに謝礼するために来たのでしょうか?」
「いいえ、あの人はそんな事はしません。きっと試したいのではないでしょうか。貴方の実力と言うものを。ですが、そのついでに自分がどう言うものか知って欲しいのでしょう。」
咲夜さんは上向きの視線のまま僕には一度も目を合わせずに話を終わらせた。そして無理矢理にも話を切り替えた後にお嬢様という呼ばれ方をしている人の元へと案内された。その理由はよく分からないが今の所、何も話したくはないのだろう。
僕は相手の口車に乗せられたまま足を動かしていた。