大きな鳥居があり、綺麗に整備された境内がある。風は少しだけ吹いていて僕の髪の中を通って弄んで何処かへと出ていく。僕は木々の間からの木漏れ日がない場所へと出て、ふと後ろを向いた。其処からは人里を一望でき、幻想郷全てを支配しているような気分なった。右側には少しだけ湖が見える。そして前方には森があり、その奥には竹林がある。左側にはきっと博麗神社があるのだろうがそれはどうやら此処では見えないらしい。それほど奥地である事だけはよく理解できた。
そして景色に満足した僕はその上へと登っていく気分のまま、鳥居をくぐる。今日は人は少なく、二人だけが見える。一人は箒で掃き掃除をしている淡い緑色の髪を一房にまとめている少女で白色の巫女服を着込んでいて、黒色の靴を履いている。東風谷 早苗という巫女でありながら、現人神でもある優秀な人物だ。
もう一人はこの守矢神社に祀られている神であるが、決してそのような威厳というものはなく、参拝客とも気軽に話せる近所のお姉さんのような雰囲気のある女性がいる。赤紫色のカールの癖のある髪で注連縄を背中に付けている。赤色の服装で縁側に寝転がりながら時が過ぎるのを待っていた。八坂 神奈子、それがこの神の名前である。
そしてもう一人、此処には曳矢 諏訪子という人物がいるがその人は一切境内では姿を見ない。
「こんにちは、早苗さん、神奈子さん。」
「こんにちは。」
急に上がり口調へと変わった早苗さんは僕に対して何らかの確執を持っているかのようで何となく距離を感じた。
「また来てくれたか。はは、とても気に入ったのか。」
神奈子さんは寝転がっていた体を起こして僕の目を見るとそのように言いながら、立ち上がる。
「いい人だと思いますよ。」
「おお、そうか。今は返事は難しいだろうが生活にも慣れてきたらうちに来てくれないか?いい返事を待ってるよ。」
僕は少し迂闊だったのかもしれない。変に期待を与えてしまった結果になったのでどうしたものかな、とか思いつつ神奈子さんの勧めに従ってその先へと進んだ。いい返事というのは肯定してほしいという意味合いなのだろう。神というよりかは母親のような気もする。僕は早苗さんのような人物が売れ残るなんて事があるのだろうか、と疑問に感じたが向こうにも条件というものがあり、当てはまるのがちょうど僕であったという事なのだろうか。
「ヒカルさん、私、本当は言いたい事があるんですよ。」
早苗さんは頰を紅潮させて気恥ずかしそうにしている。僕に受け止めきれるのかはさておき、その場を離れるわけにも無視して通り過ぎるわけにもいかないので話は聞くことにした。
「月での異変の時から、凄く気になっていたんです。その事を神奈子様と諏訪子様に話したらとても気に入ったらしく、婿として貰いたいという話になってしまいました。私は貴方に貰って欲しいのですが、流石に重たいですよね。」
「うーん、僕にも何とも。」
正直なところ、僕のとこに惚れたのかはさっぱりで何をそこまで気持ちを荒ぶらせているのかは全くと言って分からなかった。それ故にここまでこじれたような気もする。他にも原因はあると思うが。
「ですよね。本当は前に幻想郷にいた青年のことが好きだったのですが、私には射留めることができなくて。それでどうしてその人にはどのように思われているのか、ずっと悩んでいたんです。そこで貴方が現れたということです。」
「詰まる所、僕はその青年の代わりなのでしょうか?本当にそうだとしたらアーサーさんに頼んで行ってみるといいですよ。」
「どうしてそんな事を。」
「いや、あの人、人の気持ちなんて全く汲み取らないのでもしかしたらそうなのかな、と思いまして。」
「そんな。まさか子持ちなんて。」
「そして、その代わりとしていらんだのが皮肉にもその通りなんです。もう、諦めたほうがいいですよ。」
「あんまりだー。」
「もし、落ち着いて生活を送れるようになったら。何処かで会いましょう。そのくらいは出来ると思います。」
僕はそれきり守矢神社には寄ろうとは思わなかった。それで何があったのかと言えば、神奈子さんと諏訪子さんの期待を裏切ったということになるのだろう。
別に悪くはないことではあるが、誰かの代わりとなればその気持ちも冷める。
僕はその場で踵を返して下山を試みることにした。