赤く曇った空にまた赤く曇ったガラスのようになっている霧が立ち込めている。平たい丸い形をした青みのある黒色の石が一面に広がっている。薄い赤色の花が咲いていて、血のような淀んだ赤色の川が石の置かれていふ場所の前に広がっている。
その先に何があるのかは全く分からず、ただ赤が支配しているこの世界で僕は一人となった。
あの自己責任ではあるが忌まわしい商店街を通り抜けた先の分かれ道の左側は三途の川へと繋がっているのを知った僕は興味本意で向かってみることにした。もし、危険な目に遭いそうならその場から走って逃げればいい、と軽い気持ちでいることにした。
しかし、誰もいない空間で、何か見えるわけでもない世界で、音のない空気すら感じないような無機質な場所で、僕は一旦座ってみることにした。固い感触を感じるが突出した部分がない石なので別に痛くはなかった。それ以上になんとなく落ち着ける場所に思えた。
「珍しい客人がいるものだね。」
音はあったがまさか話しかけられているとは思っていなかった僕はその言葉を無視した。特に誰かいるような気配はないが話し相手くらいはいるのかも知れない。僕はそう思った。
「おい、そこの黒髪の座っている命知らずの少年。」
その言葉には確かに僕のことに当てはまるところはあるのかも知れないが何処か違うようにも感じた。まだいるのかもしれない。
「お前だよ。あんたはここで何してる?」
「僕ですか?」
この時になって僕はようやく自分が呼ばれていたことに気づいた。きっと意識が朦朧としていたからに違いない、と勝手に解釈した。
「そうだ。こんな所に来る命知らずなんて最近は早々いないよ。」
「前は誰か来ていたんですね?」
「ん?まぁ、そうなるが。」
「是非、聞かせてくださいよ。」
「最近は顔も見ないし、噂も聞かないがお前と同じ黒髪の青年で何処か抜けているような雰囲気のある奴だった。」
その人はそのように言いながら石が擦れる音を出していた。きっと歩き出したのか、座ったのかのどちらかだろう。
「へぇ。そうだったんですね。その人はここで何をしていたのですか?」
「別に。色々と話を聞かせてくれたり、他は何か特別やってもらった事はない。」
「不思議な人ですね。他にどこかで交流があったりしたんですか?」
「一応ある。みすちーの屋台でよく一緒に飲んでいた。今は人里の一角にあるらしいから行ってみるといい。だが、あんたみたいな子供は水でも飲んでろ。」
「僕には危険なものなんですか。ワインを飲んでいたんですね?」
「それはよく知らないがきっと合っているだろうさ。」
「もう少し時間が経ったら寄ってみたいですね。」
「それは好きにしろ。」
「分かりました。そういえば名前聞いていませんでした。僕はヒカルです。」
「あたいは小野塚 小町。船頭の死神だよ。」
僕は何となく目を開いた。僕の隣には小町さんがいる。周りとあまり変わらない赤色の髪を紐で結んでいる短めの髪の人で着物のような青色の服装をして帯を締めている。そして手には肩にかけるほどの大きさの鉄そのものの鎌を持っている。
「小町さん。よろしくお願いしますね。」
「度胸のある子だね。私が死神だと言ったのは聞こえていないのかい?」
少し呆れた口調でため息でもつきそうなほどの声音で話していた小町さんは僕の目をじっ、と見ていた。その目には確かに力がある、と僕は感じた。
「それは聞こえていますよ。でも、僕はまだ死期は近くないので問題ないと思います。」
「笑っちまうよ。そんな返答をされたのは初めてだよ。」
小町さんは少し感心したように声音をはねさせていた。少しだけ興味深いものを見つけた何となく輝いている目をしている。僕はそれが素晴らしいと思えた。
「照れますね。」
「そんな無神経だと敵は多くないのか?」
「敵ですか?居るならいるで面白いとは思いますけど。」
「分かった。あんたの来ていいような場所ではない。今日は帰るんだ。本当に魂、取っちまうよ。」
小町さんは鎌を振り下ろして構えていた。僕は光沢のないように見えるがしっかりと磨かれていて大事にされているそれを見ながら立ち上がった。
「またどこかで会いましょう。」
僕はそう言ってその場からは離れた。小町さんに出会えただけでも今日は来る意味はあったのだと思う。それに、三途の川について何となく知ることもあったし、何より生者がやすやすと近づいていいような場所ではないとも感じた。
僕は踵を返してゆっくりと帰路につくことにした。その後、小町さんがどのようにしたのかは見ていないがきっと仕事に戻ったのだと思われる。後ろから舟が水を切るザバァという音が聞こえている。何となく空を見上げながらこの先どうしようかを悩んだ。