東方魔剣術少年   作:mZu

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何か嫌なことが……。
第33話


赤いカーペットが一面には敷かれている。そして天に届きそうなほどの高さのある本棚には隙間なく並べられた本がある。その内容はここにいる魔女の好きなものや咲夜さんが料理を考える時に使っているような本、また絵本などの子供が楽しめるものまで置かれている。魔道書という分厚く重たい本が概ね置かれている大図書館で僕は魔法陣について学んでいた。

 

古く少し汚れているような箇所もある魔道書を目の前にいる魔女から勧められた僕はその中身を熟読することから始めた。

 

その中身というのは基礎的なもので線の書き方が書かれている。直線の書き方、曲線の書き方、よくある間違いが書かれている。まずは書き取りから始めることにした。

 

「パチュリーさん、この魔法陣の描き方はどのようなものでしょうか?」

目の前にいる紫色の綺麗な長い髪をしている少女に話しかけた。その少女は紫色の服装を身に纏っていてかなり動きやすそうな服装をしている。体を包み込むだけの布を巻いているだけのようにも感じるが決してそういうわけでもなさそうだ。

 

「かなり親切に書かれているから頑張りなさい。」

パチュリーさんは僕に対してとても厳しく指導してくれる。要はまだ、読み解く場所があるという事なのだろう。それとも簡単なところでつまずいているので教えることもできないほどの初歩的なところだからなのだろうか。兎も角、何も知らない僕にとっては読み解くだけでも重労働であった。

 

「うーん、善処します。」

魔道書の中には練習のように書くスペースがあり、そこに魔法陣を完成させるように指示がある。一部が描かれているがその他は自分で書き込むものであるらしく、僕はそこで苦戦をしているというわけだ。まず、魔道書にそのまま書くのがパチュリーさんによって禁じられている。更に自分で描き出すのはいいがしっかりと書けているのかが不安になってくる。何処か間違いがないだろうか、と思えてくる。そしてそもそも魔法陣の書き方は未だ慣れていない。踏んだり蹴ったりで散々な結果なのだがそれでも僕は自分の力で解くように促されている。そこに自分で書き出したものを見て書くようにしている。これはある意味、魔道書を写し取ったものでこれを見て解こうと思ったがヤマを外したらしく全くと言って解けないというのが現状である。

 

「あれ?何処か間違いがある。」

魔法陣を書く専用のチョークというものでカーペットの一部が気になっている場所で書いているのだが効果は全く現れなかった。この魔法陣は風邪を少し起こすことができるもので永続的ではないが髪を揺らす程度のものが出来るそうだ。しかし、何処かで間違えたのか使いこなせていないのが浮き彫りとなる結果となった。僕はふと、後ろの大きめな魔道書が積み重ねられている机で魔道書を読んでいる丸縁眼鏡をかけたパチュリーさんを見たが興味があるようなそぶりは無かった。それは僕の自由に物事を進めていいという意味になるが、逆を返せば何も助けはくれないものだった。その悲しさは僕の心の中に薄くそして広く積み重なっていくのだが、そのことなどに構うほどパチュリーさんも暇ではないと思ってしまう。僕はここからどうすればいいのかを大きく悩んだ。

 

結局のところ、八方塞がりだ。あれから無心になって自分が書いてきた紙と見比べながら間違いがないように書いてこれで8個目。一向に効果の現れない魔法陣に流石に疲れが出てきた僕はそこで一旦休憩を取ることにした。

 

パチュリーさんのいる机の前にはフカフカのソファーとそれに合わせた机が置かれている。勉学に励むには低い設計で誰かの来客の際に使われるものであるのには違いなかった。だが、使われたような形跡はなく、僕は勝手に使っているだけだ。

 

「休憩します。」

僕は独り言のように呟きながらソファーへと思い切り飛び込んだ。少しだけ目が重たくて、体の自由が効かないように思えた。僕はきっと魔法陣を書いていた疲れなのだろうと気には止めなかった。そして小悪魔さんの淹れてくれた紅茶があるが今では飲めたものではないほど冷めている。しかし、香りは心地よい。

 

「ヒカルには足りないものがあるわ。」

魔道書を読んでいたはずのパチュリーさんは僕が休憩にしに来たことに気付いたのか、少しだけ顔を上げて僕の目を見ていた。それに応えようと僕も目を見返した。

 

「貴方には柔軟さが足りないのよ。」

パチュリーさんは僕の沈黙を話の流れを促していると感じたのか、その調子で進んだ。僕にはどうやら柔軟さが足りないらしい。その意味はとても理解できるものではないが重要なものであるのには違いない、パチュリーさんが言っているから。そして、僕はそれがどのようなものであるのか考えた。

 

「体の柔らかさですか?」

 

「いいえ、そんなことを答えて欲しいわけではないわ。つまりね、貴方には魔法陣についての知識が足りないと言っているのよ。自分の部屋のものを確認してからまた来なさい。」

その剣幕には僕も何となく逃げようと思えた。そして何が起こるのかは全くわからないがとても悔しかった。認めてもらいたい、という一心で僕は大図書館を後にした。

 

その後というもの、僕は自室に篭ってる事が多くなった。薄くなる意識と濃くなる達成感に自分の身を震わせながら日々を過ごしていく。

 

咲夜さんの作ってくれる食事はとても美味しかった。苦手な酸味もただの味付けの一種として美味であるということを知れた。辛味や苦味、ここまで苦手にしていた味付けでさえ咲夜さんの作る食事であれば何も問題はなかった。ただ一つ、問題点があるとすれば自分が冷めてからしか食べないという事だ。

 

魔道書と重ねられた先代の遺産を自分の知識として入れていく作業に熱中するあまり、全ての感覚を忘れる。いつの間にか日が差していることなど当たり前であるような生活を送り、誰かの来訪にもあまり気にも止めず、眠るという時間が何処かずれていき最終的には歪んでいく。それでも紅魔館の人々は決して僕を見捨てることはなく、何処か微笑んで陰ながら応援してくれるようだった。その優しさが僕には原動力となっている。そして少しだけくじそうになった時でもその事を思い出せば何となくもう少しだけ頑張ろうという気になれる。魔法のような出来事だった。

 

僕は何となく知識を蓄積していた時に何となく気付いた事がある。それは魔道書とは異なり、先代の遺産は淡々と書いていた事。そして分かりやすくまとめられていたという事だ。そして魔法陣の写し書きの際に気になる数字が書いてあった。その数字というのは何らかの魔法陣に寸法というのが描かれていた。縦が3とか横に4とか。その数字に何か意味があるようには感じないがだからと言って何も関係ないとは思えなかった。

 

そこで僕は少し進歩した魔法陣についての魔道書を開く事にした。そこには大きく言って書き順は何でも良い。中から書こうと1番外から書こうとそれは人の好みとなるらしい。それとも魔法陣の大きさによってその辺りは個人差があるが変わるらしい。更にもう一つ。寸分に間違いがあってはならない。それをしっかりとしないと魔法陣はその役目を得ることはない。僕はきっとここで躓いていたと思われる。だからこそ、パチュリーさんには柔軟さが足りないと言われるのだろう。初心者向けの魔道書には細かい事が書かれていないが上級者向けになればなるほどその深さというのは確実に浅くはない。詰まる所、何処から知識を引き出してくるのか、そういう事なのだろう。

 

「やっと。何となく分かりましたよ。」

朝の3時になろうとしていた頃らしい。

 

僕は自室で叫んで怒られたのは今でも覚えている。そして咲夜さんの叱責中に眠ってしまったという事も。

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