十分な休息を取った僕は何となく体が重たかったがそれでも立ち上がった。その体の疲れよりも早く試してみたいワクワク感で僕は動いていた。自分の力とは言えないがそれでもなんでも良かった。やりたい事がある、本当にそれだけの理屈の通らない話がその一瞬で作り出されていた。
僕は自室を飛び出していくとその勢いのままに紅魔館の地下にある大図書室へと向かった。その場所には大量の魔道書を含んだ書籍が所狭しと置かれていている。ある青年はその場所でどのようなことをしていたのかは僕には分からないが、何でも試して何度も失敗を繰り返していたそうだ。そして独自の試行からパチュリーさんにも手に負えないほどの進化を繰り返していったと言う事らしい。その人は今は居ないらしいが、その遺産は今は僕が受け継いでいる。そしてあらゆるところにある治っていない傷はもう何度も傷が付いているので完全には治らなくなったものであるらしい。床はかなり抉られたのでその場だけ材質が違うのはそういう意味らしい。
「パチュリーさん。僕、分かりましたよ。」
大きな音を立てて机の上に手を置いた。その先には紫色の灯火に照らされてサラサラと光を反射させ続ける髪と動きやすいようにされている緩やかな服装が体のラインを隠していた。そして頭にはナイトキャップをかぶっているようでいつもやる気のない眠たそうな目をしている。
「いきなり来てそんな大きな声は辞めなさい。慣れたものだけど。」
一つ溜息を吐きながらパチュリーさんは魔道書から視線を外して辺りを見回していた。時間にして午前10時ごろ、ティータイムと評して休憩に入ろうかとしているところ、小悪魔は今は近くには居ない。パチュリーさんはきっとその人を探しているだけで僕のことには興味なんてものはないのだろう。
「小悪魔が居ないわね。どこに行ったのかしら?」
パチュリーさんは僕の耳にも聞こえにくいほどの声の大きさでそのようなことを呟いていたような気がする。その表情は寂しそうで何処か不確定なことでもあるかのようだった。
「本の整理でもしているんでしょうね。」
僕は面倒になり、適当にそのように返した。そして少し飽きた。
僕にはやりたい事がある、それは自身の体に魔法陣を書き込む事。そしてその力を使ってお父さんに勝ちたいと思えた。だからこそ、僕にはその為の努力は惜しまないつもりだ。何か出来るようなことがあるならばその努力は惜しまないつもりでいる。今回はその一環だ。
僕は随分と削れて材質の変わっている床へと歩いてそこには専用のチョークで魔法陣を描き出す。最初に真ん中から始める。その箇所に小さな円を描いて、斜めに交差させた線を直角に交わるようにしてからその線の真ん中に縦に二本、横に二本、計四本の直線を描き出す。長さは丁度先程交差させた長さでその半分を更に半分にした位置に書く。そこからは魔道書を見ながら書いていた。もう無心と言うもので何となくで書き続けていたような気がする。一番の難関といえば、アルファベットという文字を円形の場所に正確に書く必要がある。その為の練習はここまでして来た。そしていつの間にか自作した魔法陣を描くようになっていた僕は消すのをためらう程の細かい模様を描き出していた。時計を見れば、1の番号を短針が通り過ぎような頃だった。その時間にもなればこれはそうなるのだろうとふと右手に持っていたチョークの短さと左手に持っている消す為の布の白さに驚いた。そしてオリジナルを加えた結果、完成には至っていない。これだけ時間をかけてかいるのにもかかわらずだ。僕はある意味の才能と無駄なことをしていると言うことを感じた。半分は嬉しく感じるがその点ではまだまだ半人前なんだな、と痛感させられる。
「ヒカルは出来る子よ。後もう少しだろうからもう少し頑張りなさい。」
後ろから聞こえたのはいつから見ていたのか分からないが状況については理解しているようなパチュリーさんの声だった。少しだけ感心しているような、そうでもないような感じで何処かに隠れた喜びが少しだけ見え隠れしている。表面的にはただ呆れてるように聞こえる抑揚のない声でも僕には何となくそのように感じれるようになった。
「そう言われると張り切ってやっていきますよ。」
僕は少し劇をもらえたような気がする、とても体が軽い。そして頭の中がとても良くわかる。中身を上から見つめるようで簡単に何がにしたいのか、そして何手も先が見えるような気がした。その中にはいくつかは分かれ道があり、分岐した道の先も数多くある。なんとなくだが僕が今の知識でどこまで出来るのかについて曖昧としたものだがそこにはしっかりと確証が生まれた。その先に何があるのか、僕は体の底から溢れ出てくる何らかの力に支配されていくように感じた。それを自我という外側が内側から出てくる狂気に負けそうになった寸前のところで押し止まった。
そこで何となく目を閉じる。まぶたの裏に焼き付いているかのような魔法陣が僕の意識の中に現れた。物質としての力はない、ならば僕を動かしている力は何だろうか。色々とふと考えると答えがあるわけでもない。そう思えると川の上に寝そべっているだけのような気もする。あの水の流れを感じられる心地よい感覚へと変わった時、ピタリと止まっていた指が爆発的な速度でチョークを動かし始めた。僕には意識できない領域で何かが起こっている。それは半分以上は怖かったがそれ以外は自分の底力についていけなくなるのが僕の中では気持ちよかった。身体は軽くなり、頭の回転は無数へと変わっていった。それは何と名付けようか。それとも何が僕の中に渦巻いているのだろうか。それは簡単だ。
次段階へと進む上昇気流だ。