大きな大きな屋敷とそれをものともしない広さを持つ庭があり、松や桜、まるで庭園かのように置かれている。箱庭のようになっているその白玉楼で何故か決闘を行う事になっのには大きな訳がある。
そもそも僕は空中にある大きくないと思われる黒い物体が何となくあるように見えたのが気になり、何となくの気晴らしに来たのだ。天候は快晴であり、今日は一段を大きく見えたような気がする。だから僕はその場に向かったのだろう。特に考えもしなかった。陰の要素で自分の体を包んでから中で風を起こすようにした。前は停滞しているのがやっとで後に鈴仙さんから聞いた第四槐安通路では何とか移動出来たが、それは元々通路の持っている力というものであり、実際のところ僕は何もしていなかったらしい。
それからは想像で飛べるようになってから実際にやってみる事にして試行すること、千を超えた頃には浮遊できるようになり、ある程度の高度と左右へと移動が出来るようになった。と、言うわけで興味本位だがその試しも兼ねて向かってみる事にした。
その先には灰色の空間と気の遠くなるような階段が設置されている。段の高さはないと言っても過言ではないほどに薄い。ちょっとした段差程度で別にいちいち脚を上げようとしなくても問題ない。それがこのから見上げるようなほどの高さまで続いている。そして景色の一つから途切れそうになっている、それはつまるところ永遠に歩かされる訳になるのだろうか。一見すると景色が変わるような雰囲気はない。灰色の紙を筒状にしたところの中に僕は存在しているようなもので何も変わるような雰囲気はない。それだけではない。特に生き物の存在は感じない。時間が止まった空間のようで少しだけ肌寒さを感じる。こう背中から追いかけられている時の背筋の凍る感覚に似ている。
途中から記憶の抜けていくのを感じて、生きているという辛さを感じて、でもその中に何か楽しみを見つけられたら良いなぁ、と感じて。僕は途方も無い泡沫の夢を歩いた。
急に景色は開ける。
今までとは違い、何処か異国の感じがある場所で広々とした土地には一本だけ石畳の道があり、灯篭と呼ばれるものが対になって等間隔に8つ置かれている。しかしそれだけではない。その先にはまた階段がある。高さは30くらいだろうか。単位はセンチメートルだ。数段しかない場所の上には大きな庭を持つ広い屋敷があった。そこへ入って何やかんやあった。本当にただ誘われて、遊び感覚で言われた。僕もそれを受けたから問題だったのかもしれない。
それだけの理由なのだがどうしてこうなってしまったのだろうか。僕は今、白玉楼で庭師をしている魂魄 妖夢という人物が目の前に入る。薄い肌色で血色のない感じが如何にも半人半霊であることを物語っている。その周りには白い綺麗な髪を沿わせている。肩までは伸びていなく、耳元で終わってしまっている。緑色のジャッケットを着て白色のシャツをその下には着ている。短めの緑色のスカートを履いていて黒い靴を履いている。腰に一本、肩に一本携えている二刀流の剣士で先程見せた優しい雰囲気とはまた違う味があった。特に目つきが先ほどとは大きく違った。何が変わったのかと言われるとそういうところなのだろう。
「はい、始めて、」
それを気楽そうに見つめているのがこの白玉楼の主である亡霊の西行寺 幽々子。水色の服装で和を基調としたもの、髪は艶やかなピンク色でその上から青色の帽子を被っている。扇子で口元を隠す癖があり、意外にも厄介な気はする。凄く掴みづらい人物でこの決闘の発案者でもある。その理由は楽しそうだからだそうだ。とても身勝手な理由でとんでもないことをしようとしているが妖夢はそれに抗うことはできない。それどころか二つ返事で返された。
僕はその勢いで了承してしまった。それだけではない。何が起こったのかは全く把握していない。故にこうなっている。あまり状況を理解していないまま、こう退治している訳である。
「私は青年に倒されてから幽々子様を賊から守るために鍛錬して来ました。なので、貴方のことを賊として捉えてこの剣で倒します。」
妖夢さんにとって、これは子供のやるようなチャンバラごっことは違うらしい。真面目といえば良いのか、不器用と言えば良いのかは僕は判断しないとしてそれに気圧されているのは事実。
「遊びですから真剣にやるのはどうでしょうか?」
「いえ、これは模擬訓練。手を抜く道理などあんまりない!」
「うーん。そうですかね。」
僕はその勢いに渋々ではあるが納得してしまった。筋が通っているのかどうかは兎も角、僕もお父さんとは同じ感覚になっている。手を抜けばそこを突かれる。その結果、ちょっとした躓きが命を落とす。
「いざ、尋常に。」
腰から抜いた剣の刃を僕の前に向ける。そしてそこで止めてから剣を立てると少し目を見開いて僕の事を見ていた。その暗緑色の瞳に吸い込まれるような眼差しがあるのがよく分かった。それだけではない。何となくだがさっきというものも感じる。何があったのかと言えば、もう分かっている。それがどのようなものであるか、そして自分はそれにどこまで付いていけるのか。
妖夢さんは地面を蹴り出して僕の元へとくる。その速さは見定めをするようなものである。左肩を僕の方に向けて剣を上に持ち上げる。そこからどのような軌道をしてる僕の元へとやってくるのか。
左手の指は既に柄を握っていた。
その手に吸い付くように剣は答えてくれる。
妖夢さんの動かせる範囲を僕はその場で考えていた。それによってどちらの手を使うのかを決める。その先は向こうに合わせるつもりだ。妖夢さんの手はこちらからすれば未知。逆も然り。
妖夢さんは現状、上から足元まで僕の左側であれば狙える。なら、そこを止める。
僕は鞘ごと抜いてから地面に置いてサッ、と剣を抜いた。鯉口に当たる刀身と擦れる音が聞こえてくる。その後で金属音が辺りには響き渡る。
その時に僕は左足の力を抜いた。そこから飛びのき、妖夢さんとは間合いをとる。
「慣れてますね。」
妖夢さんは吐き捨てるように僕にその言葉を与えた。その言葉の意味には何か違うものがあるようにも思えた。
僕は言葉は出さなかった。
左手の中には自分が携えている剣があるが、鞘からは出ていない。つまり、まだ暴れ足りないからこそどうやって出てくるのか。出てきたその後は僕の力量にかかっている。どのように暴れてくれるのか、それは県に任せてみる事にする。
「ですが、私が勝ちます。」
終始抑揚のない声で無表情であるので一種の怖さを感じる。しかし、それはどうなのだろうか。力を込めすぎて芸には欠けるのではないだろうか。僕は客観的に見ていてそう思えた。
「どうぞ。」
我ながら、他人事だと思う。それだけ湧いてくるようなものがない。ぽっかりと空いた心が何となく渇きを訴えている。血をくれ、と。狂気をくれ、とも。
妖夢さんはそれに応える。地面を蹴り出したその先にいる僕へと同じような動きを見せていた。大振りということではない。正面からくるのがどうしても真面目であるというのか、本当に芸のないというのか。それに比べるとお父さんは一度被らないと言ってもいいほど芸を持っている。それは大抵が奇術という領域まで達している。僕にはそこまでの実力はない。
「芸が、ないですよね。」
僕の県に吸い込まれるように妖夢さんの剣は僕の前へと来る。僕と妖夢さんの持っている剣、その間に鞘だけ入れる。その先は特に考えていない。しかし、何があるのかと言われるともう何も言えない。
簡単に弾いた僕は何となく虚無感を覚えた。
心が荒ぶっていないことがここまで悲惨な思いにさせるとは思わなかった。
「それはどういう意味ですか?」
「わかりますよ。きっと、護身のための剣なら遊びのための剣には翻弄されます。相手が悪かったとしか言いようがありませんね。」
「それは私が弱いと、そういう意味ですね?」
「そこまで強く言いませんがあながち間違いでもないんじゃないのかな?」
「そうですか。」
妖夢さんの目は確実に変わった。そこからは何処か僕を試すように双剣へとスタイルを変えた。僕と同じ、そしてお父さんとも同じだ。親子で似ているのは仕方がないというのか、根本的な考え方が同じだからこそ受け継いだ形となっているが、妖夢さんはどうしてそのようになっているのかはもはや分からなかった。
興味がないなんて冷たいことは一切言わない。
ただ、そのスタイルに何のこだわりがあるのかは気になる。
肩から現れたその剣が一旦地面を跳ねて僕の元へと向かってくる。
僕は簡単に脚で追い払った。右足でさっ、としているだけだ。
見事にそれにはまったというか妖夢さんは微妙に体勢を崩した。本当に目の前で見ていなければ判別出来ないほどであるがたしかにぶれていた。妖夢さんはここからどうするのだろうか。
お父さんなら逆手に持って後ろに下がりながら振り下ろすか、空中で跳ねさせる。或いは今、左手で持っている剣が代わりに来るか。そうなれば対処は不可能だ。見えてこない。そもそも体制が崩れたところで何でもできるお父さんは無数の手を作り出す。
しかし、妖夢さんはそのどれもしてこなかった。
僕はその時点で完全に冷めてしまった。
「一撃を与えたらそこで終わりましょう。」
「そうですか。ならば、」
腰を落として剣を構える。肩の上に乗せるようにして切っ先を僕の方へと向ける。そこまで分かりやすいと、もはや対策のしようもない。見えてしまっているものに特に熱も感じない。
もはや、僕には何も残っていない。ただ、目の前の現象を片付ければそれで良い。
妖夢さんは動き出した。お父さんに比べれば遅い一撃だ。しかも用意する時間も与えた。
僕は剣を放り投げながらその場から離れるようにゆっくりと歩いたような感覚になる。
もう何が起こっているのかは別にどうでも良かった。ただ、これに勝てれば何か得られるようなものがあると思っていた。
「ほぐっ!か、はぁ。」
妖夢さんは人として失格のような声を出してその場で倒れた。意識を失ったのかもしれないがそのような心配は杞憂なのであろう。鳩尾を押さえながら地面に震えながら倒れていた。
「勝負ありましたね。」
妖夢さんはしばらく立ち上がらないだろう。鳩尾に自分の最高速を出して突っ込んだのだ。もう簡単に立ち上がれる訳でもない。僕は妖夢さんの近くに行き、肩を軽く叩いてみる事にした。それだけの行動だったがどうやら、お気に召さなかったらしい。僕の手を掴むと力ずくで剥がす。その目は確かに現状を認めていない様子で鋭い眼光を暗緑色の瞳から感じる。それからは何があったのかはもう言わなくても分かる。僕だってそんな場数は踏んでいないわけでもない。急いでツーステップ踏んで下がる。
「まだ、ですよ。」
肩で呼吸を始めている妖夢さんに勝機はないように感じるが諦めが悪いと言えばそれまでだが主人を守ろうとする熱意だけは良く伝わる。だからといって、自分の体を犠牲にしていると悲しまれそうではある。ちらりと見たところ幽々子さんは特に気にしていない様子で肝が据わっているようにも感じる。それどころか、美味しそうに菓子を食べている姿を見ると松や桜と同じ程度の物でしかないらしい。動いている分、楽しげがあるのかは僕には判断出来ないのでその辺りは任せる事にする。
「幽々子様が悲しみますよ。」
自分で言っていて何と根拠のない発言なのだろうか、と思えた。それだけに少しだけ自信を失う。
「うーん、そう言われると本当にそのような気はしました。」
「辞めましょうか。」
「ええ、大分気勢を削がれました。」
「剣筋が真っ直ぐで良かったですね。上品です。」
「それでも勝てませんでした。」
「別に相手に勝てれば良いわけではないですよ。止める事も役割です。賊から守るためでしたらもう少し強引に押し込んでも良いのではないか、と思います。」
そう言いながら、僕は思った。大抵はお父さんから教わった事だ、と。僕には思考という概念はないのだろうか。それともあまりにも影響力が強くて僕の中にまで侵食しているのだろうか。