僕はただ広い場所で彷徨っていただけなのかもしれない。急に引き込まれた先には何か強そうな方が存在していた。見るだけでわかるその力の強さは到底僕が勝てそうなものではない。
「幻想郷で驚かされる事はたくさんありますね。」
「おお、よくぞ来られた。ニ童子の言っていた人間だな。」
ニ童子、それは舞さんと里乃さんの事なのだろうか。僕にはどのような関係であるのかは全くわからない。見当がつかないと言うのが一番妥当なのだろう。
「多分、そうでしょうね。」
「選ばれし者よ。私のニ童子の後見を任せたい。」
「話が読めません。出来るだけわかりやすく説明して欲しいです。名前とか。」
「おっと。これは失敬。私は摩多羅 隠岐奈。私は後戸の神であり、障碍の神であり、能楽の神であり、宿神であり、星神であり、この幻想郷を創った賢者の一人でもある。そろそろ、二童子の後任を見つけないといけない時期でな。そこで今回はそれを探そうと大きく異変を起こした。だが、意外にも遅かった。」
金髪のロングヘアで煌びやかなものだ。その割には質素な冠をしている。オレンジ色の狩衣に緑色のスカート、ロングブーツを履いている。前掛けには北斗七星が白色の点で描かれている。
「沢山の名称のある偉い神様なのですね。何か安心します。」
「ほう。信じると言うのか。素直な子だ。少し聞きたいがどうしてこう来るのが遅かったのだ?」
「僕は外がそのようになっているのは知りませんでした。最近は行動範囲が狭かったもので夏の暑い天候しか知らなかったんですよ。それが原因で待たせてしまい、申し訳ないです。」
「その件は別に良い。それで、後見の件はどうする?私はどちらでも良い。」
「まず、どうして手放そうとしているのか。そこからですね。」
「時期的にあのポンコツはそうなる運命だ。そろそろ替えが欲しくなる頃でな。ただ、私から離れると死んでいるも同然だ。そこで誰かもらってくれる人がいないか探している。と言うところだ。」
「僕にはその責任を負う事はできません。養えるわけでもありませんし。」
「しかし、二人の命は無駄に散る事になる。待ち過ぎたせいか、少しずつ荒廃が進んでいる。このまま命が無くなるのをそこで見ているつもりか。」
「言い分は分かります。ですが、それは僕ではなく、ほかの人にしてください。これは神に命令されようとも変えるつもりはありませんよ。」
「ふーむ。中々芯のある人間だ。だが、人間風情が神に反抗を行う事はない何を意味しているか知っているか?」
「神は信じていないので何とも言えないです。圧倒的な力の差で押し潰されるのが当然だと思いますよ。」
「よく分かっているではないか。さぁ、どうする?神に反抗して、その命と二童子の命を散らすか、このまま貰っていくか。二つに一つだ。どちらでも私は構わない。だが、手間の増える方は選ぶなよ。」
「では、三つ目。このまま帰ります。一番手っ取り早いですし、手間がかかりません。それに、もうそろそろ誰かくる頃合いでしょう。その人に任せるのはどうですか?」
「貴様、私の選択肢を無視するつもりか。」
「ええ。とても手に負えません。」
「その度胸、気に入った。私の部下にならないか。」
「それは遠慮します。僕は一人で歩いているのが一番似合います、少なくとも今は。」
「随分と態度がでかいが私が神である事は忘れていないだろうな。」
「それは忘れていませんよ。ただ、」
「ただ?」
「神という名に語りながら尊敬にも値しない行為をしているので鼻でしか笑えない事ですかね。」
「貴様、幻想郷の創始者の一人である私にそのような口ぶりを。」
「わがままな理由ですよね。邪魔な奴がいるから異変を起こして訪れた人に処理を押し付けるなんて。それで幻想郷は今どうなっているのかと言えば、四季に翻弄されて大きく混乱していると思いますよ。尻拭いは誰もしてくれませんよ?隠岐奈さん。」
「よくぞ、そこまで言った。私に対するその無礼。到底許せるものではない。」
「でしょうね。表情を見ていれば分かりますよ。」
「貴様は私にその顔を見せるな。気に入らん。」
「そうですか。」
僕はどれだけ表情が固まっていたのかと思えるほど顔が痛かった。他人事としか捉えていないが何がおかしいと言えばガラクタを押し付けているだけの異変である事だろうか。
僕は柄には手を握っていたが抜く事はしなかった。しかし、すぐに抜こうと思えば出来ないこともない。
バッコーン!
剣と弾が当たった際に、爆発音とともにその音が鳴った。何がおかしいのかと言えば向こうの方が強力であることだろうか。
「貴様は私を愚弄した。そうだよな?」
「さて。どうでしょうか。」
「その罪、どう償うつもりだ。」
「知りませんね。」
「その態度が気に入らないな。」
「そのように私情だけで動くのが神だとすればそこらへんにゴロゴロいるでしょう。幻想郷を作った賢者ならそれなりの行動を見せてください。今のままでは僕は何を言ったらいいのか。さっぱりです。」
「くっ。もう良い。相手もしなくないわ。」
僕はその言葉を聞いて舞さんと里乃さんに声をかけた。
「帰り道を案内して欲しいです。」
「はいはい。わかったよ。」
「僕たちに任せて。」
「すみませんね。」
「「ちょっと付いて行ってあげるよ。」」
「その気遣い痛み入ります。」
僕は後戸の国を後にして紅魔館に帰る事にした。少し疲れた僕は美鈴さんに一言言って古い舟を出してもらうと湖の上に浮かべて寝転ぶ事にした。湖の細かな揺れと上から聞こえてくる妖精たちの声を聞きながら、僕はそのゆりかごの中で眠りにつく事にした。勿論、ネムノさんに手伝ってもらって取ってきたキノコは美鈴さんに咲夜さんに渡してもらうようにお願いした。今頃、運んでいっている頃だろう。しかし、今回はどうにも不完全燃焼な気がする。それとも他にやれる事があるのだろうか。
後戸の国、その場所には少年が言っていた通り、四人が訪れてきたが誰もイマイチパッとしなかった。幻想郷の創始者の一人である隠岐奈は内面の心の奥でそのように思った。別に弱いということもない。それに、中には博麗の巫女もいる。引き渡すには十分だった。しかし、あの少年ほど、インパクトというのは無い。四人とは適当に終わらせていた。
隠岐奈は思った、あの少年の会話はしっかりと覚えている。それは今からでも復習に向かいたいほど。しかし、どうだ、他の四人とは何をしていたのか何も思い出せない。少年の発言には確かに芯があるのかもしれない。それに比べて他の四人はどうだろうか。全くそのような気配がない。
「くっ、何だあの人間。」
隠岐奈は一人で呟いた。それをに聞いていた二童子、舞と里乃は静かにしていた。
「お前たち、少年の顔は覚えているか?お前たちの好きにしてこい。」
その言葉を黙って聞いていた二人が後戸の国から降り立っていく。その後ろ姿を見ながら隠岐菜は思った、あの少年が欲しいと。そうすれば私が一番上になる。
やる価値はありそうだ。そう思えるととても楽しいことだ、と隠岐奈は思った。そして笑みがこぼれる。人一人いないこの空間ではその声だけが響いていた。その声に反応するものは誰も居ない。