東方魔剣術少年   作:mZu

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第44話

紅魔館の廊下はいつでも薄気味悪い。ろうそくと木製の扉が永遠と続く廊下ではその恐怖心から両腕には同じ折り曲がった烏帽子をつけた二人がつきまとう。その様子を見て、咲夜さんは少しだけ笑みをこぼしていた。僕にとってその反応はどのように返せば良いのか迷うものでどうしようもなくなっていた。微笑ましく思えるのか、単純に滑稽に見えているのか。少しだけ加虐性のある咲夜さんの時はこのような表情をしている。所詮は素というものだ。

 

「お嬢様、客人が参られました。」

扉のノックは三回、それ以上はなく、扉の向こう側からの反応を見ていた。どうやら咲夜さんの能力である時間停止によって予めレミリアさんには話は通っているらしい。

 

優しいとはいえ、吸血鬼なのでどのようになるのかは咲夜さんでも分かっていないだろう。僕はいつになく緊張していて手の平から水っぽい何かと震えが身体中を襲った。武者震いだ、と人は言うだろうがきっと怖いだけだろう。何となく落ち着く気配がなかった。

 

「入りなさい。」

扉の向こうから声が聞こえた。壁の向こう側から聞こえるので少しだけくぐもった声をしているが確かに元気そうなレミリアの声だった。

 

「では、ヒカルさん。扉を開けて入ってください。」

表情こそ変わっていないものの、何処か落ち着かない雰囲気のある珍しい姿を見せている咲夜さんが僕の瞳の中に映った。その様子から察するに何か良からぬことが起こるのかもしれない。

 

「大丈夫なの?」

僕の左腕からは弱々しい声が聞こえている。薄暗い得体の知れない場所へと来てこうなるのは仕方がないのかもしれない。赤色のカーペットが永遠と続き、ろうそくがその下を薄暗く、転々と照らしているだけで日光なんてものは入る事がない。

 

「僕が居ますから。安心してください。」

腕の動かせない僕は少し困り顔で咲夜さんの方を見ていたと思う。咲夜さんも少し反応に遅れてから扉を開けてくれた。その奥にはこの紅魔館の主人であるレミリア・スカーレットでいる。僕はちょっとだけ俯きながら入り、咲夜さんに扉を閉めてもらった。

 

「客人と聞いたらから誰かと思ったら。」

サラサラとした水流のような水色の髪で薄い赤色のナイトキャップを被り、口元から吸血鬼らしく歯を見せている。少し寝ぼけているのか、目がほんの少しだけ閉じているように見える。

 

「その腕に捕まっているのは誰?」

 

「そういう反応になりますよね。」

 

「まさか誘拐なんて事ないわよね。」

 

「それはないよ。」

 

「舞さん。」

 

「判断に困るわね。私はレミリア・スカーレットよ。貴女達は?」

 

「私は爾子田 里乃。」

ピンク色のドレスを着ている人が僕の左腕から話しかける。

 

「僕は丁礼田 舞。」

緑色のドレスを着ている人が僕の右腕から答える。折り曲がった烏帽子を被り、サイドを腰ぐらいまで伸ばして後ろは首に到底当たらない程度の長さであるのは変わりない。丁度僕の腕を握っている反対側にそれぞれ持っているものが異なることぐらいしか見分けはつかない事だろう。あとは呼び方か。

 

「あまり害はなさそうだけど。どこで拾ってきたのよ。」

僕はどのように答えるか、それに困った。下手に誤った事を言えばもしかしたら住む事を許してくれるかもしれないが後々が面倒になるのは御免被る。だが、本当の事を言うとしてもあまり情報はない。

 

「舞さんと里乃さんに任せます。」

僕は結果として二人に丸投げする事を決めた。少しだけ間を開けたのでレミリアさんは少しだけ不審がっている。

 

「「はい、ご主人様。」」

それに比べてこの二人は状況を気にしないらしくこの場を楽しそうにしていた。僕にはとても羨ましく思える。そして恨めしく思える。

 

「僕達は隠岐奈という神の使いとして生を受けました。ですが、ある事情により、新たな貰い手を探していました。」

そこまでは舞さんが話してくれた。少しだけ語り手口調なのが気になる。

 

「私達はその最中に出会ったヒカルという少年をついていく事を決めました。隠岐奈様からは許しは得ています。」

途中から里乃さんが言ってくれたのだが、到底伝わりそうのない内容であることは重々承知だ。僕は二人の説明を聞いて何となくそう感じた。そして何か違うような気もしていた。

 

「その隠岐奈という人物が気がかりね。」

レミリアはいつものテーブルに座りながら、紅茶を飲んでいた。相変わらず二人は僕から離れようとはしないのが逆に功を奏しているような気がする。強く出てこれないので多少なり戸惑っているように感じる。

 

「それは僕が説明します。その人は多くの名称のある神で、幻想郷の創始者の一人と称しています。その力は絶大で僕は戦いたくなくて帰ってきました。」

 

「ふーん。そう言うことね。なら、少し談笑をしましょう。こちらへ来なさい。」

咲夜、そう呼んだ。レミリアはこの壁の向こうにいる咲夜さんを呼んでいた。そこまで壁は薄くないと思うがそれだけ咲夜さんの耳が良いのか、レミリアさんの声が通りやすいのかは今は考えない事にした。一々気にしていても先に進まない。

 

「行きましょう、舞さんと里乃さん。」

僕の声に反応してゆっくりと足を進めてはくれたが何処と無くぎこちないので僕は何となく焦りを感じていた。このままでは何かおかしくなってしまうのではないか、そんなところだ。

 

「安心しなさい。食べたりしないわよ。」

レミリアさんはさも当たり前のように言うが、僕からすればそう言ったほうが怖いような気がするのは気のせいだろうか。今はレミリアさんの言葉を信じることにして僕は足を進めた。

 

テーブルにはいつのまにか椅子が三脚とティーカップに入っている湯気の立った紅茶が椅子と同じ数置かれていた。だが、何となく、三脚がレミリアさんの方を向いているような気がする。

 

「もう少し明るかったら問題ないかもしれませんが。」

此処にも案の定窓という外を見るための穴はない。その為、日光はおろか、ろうそくに照らされた廊下と同じ状況でしかなかった。僕は二人をなだめながら座らせていた。その途中でちらり、とレミリアさんを見ると口角を上げて目を細めた表情をしていた。

 

「それは仕方がない事よ。それでは、始めましょうか。」

何となく夜の王たるオーラがにじみ出ているようで二人にはすぐに分かるらしく、僕はティーカップを握るようなことは出来なかった。今更かもしれないが両端からほのかに香る物があり、嫌な感覚を覚える。

 

「まず、ヒカルのどこが気に入ったのよ。」

 

「僕は隠岐奈さんに立ち向かったところ。」

舞さんが答える。

 

「かっこよかった。」

里乃さんが端的に答える。せめてどの点がそのように感じたのかぐらいは話して欲しかった。

 

「そう。それで此処にきた理由は?」

レミリアさんはその二人の回答を踏まえて次の質問をしたのだと思う。僕にはそう思えた。先に名前は聞いたし、そういう事になるのだろう。

 

「「ヒカルさんがいたから。」」

二人は口を揃えて言う。それだけなら、別に良いのだがこれで納得するのだろうか。レミリアさんにとっては得体の知れないものを入れるのにこのような理由で良いのだろうか。何となく僕は不安になったが、その反面、何となく安心したような気もした。

 

「はぁ、良いわよ。寝室くらいは用意できるでしょう。」

レミリアは半ば諦めていた。それはそうだろう。単純な言葉でしかない為、裏の取れないが純粋な物であるので追い返そうにもそれがやりにくいのだろう。

 

「良かったですね。」

僕は二人に話しかけた。それに反応して二人からの視線が痛いほど伝わってくる。その時ばかりは僕もどうしようか迷った。

 

「でも、その子たちはヒカルに任せるわ。」

 

「そうなりますよね。」

 

「私達が入れそうな関係ではないわよ、それ。」

 

「本当にどうしましょうね。」

 

「口が緩んでいるわよ。」

 

「そうですか。僕は此処で。お騒がせしました。」

 

「その事は気にしないで。」

何故だがわからないがレミリアさんは誇らしそうな表情をしていた。僕にはそうなる理由は分からない。

 

まぁ、僕が気にするようなことでもないのだろう。

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