フランドールさんとの間合いは人間が二人横になったらもう入らないという程度。どちらも一刀足の間合いではないが此処に置いて分があるのはフランドールさんの持っている炎のような刀身をしている大剣はそれを凌駕しそうな気がする。フランドールさんの魔力を体現したかのようなそれは間合いなんていう次元を軽く超えてきてもおかしくはなかった。それほどにフランドールさんは強いのだと感じる。力、速度、どこを取っても僕は負ける自信はある。唯一勝てそうな部分は技術なのだろうがどこまでカバー出来るのかは此処から先は分からなくなる。いなすか、止めるか、避けるか。その三択だろう。
右手の中に納められている炎を模した大剣は何処か朧げに揺れていた。そして爆発を起こしたように膨らんだ大剣を上へと持ち上げたフランドールさんを僕は下から見ていた。少しだけ飛び上がり、力の差で押しつぶそうとしている脳筋のような戦法。
僕の上でピタリ、止めたその大剣は下へと降りてくる。
早かった。
下へと動いてくるその力を二本の剣を使って背中で受け、その力を利用して横へと飛んだ僕は床を滑って体勢を低く保った。そして後ろを振り返る。フランドールさんの左胸からはもう血は流れていなかった。吸血鬼の回復力は侮ってはいけないと感じた僕は、それと同時に勝てるわけがないとも思った。しかし、それ以上に自分の胸が大きな音を立てているのを感じた。それだけではなく、何処かフランドールさんのその雰囲気が移ってきたような気もする。
人はいう、それは狂気、誰かを傷つけたくて致し方ない感情であると。
僕は床を蹴り出してフランドールさんへと近づく。それに気づいた相手が僕から見て左側から速度を上げて炎が近づけていた。その速度は別に捌けないわけでもなかった。タイミングもあるのだろう。僕は大きくできるだけ垂直に飛び上がった。その時に同時に風の魔力を足裏に集約して使った。加速して前のめりになった僕の体はフランドールさんの頭上を悠々と飛び越えた。そして僕は両手を使ってフランドールさんの頭をあらぬ方向へと曲げる。一瞬だけだ。その一瞬、視界のずれた相手はその一瞬だけ隙を見せる。その瞬間に僕は床に着地して後ろへと蹴り出した。しかし、距離があった。後少し近ければ当たる。後、一伸ばしくらいだった。それぐらいの距離だが当たらないものはどう足掻こうとも当たらない。僕はすぐに後ろへと跳んだ。
そのタイミングでフランドールさんは僕の方を向いている。そしてその勢いで足払いをされた。此処では僕の諦めるタイミングが悪かったとしか言いようがなかった。左脚を軽く打ち上げられた僕はその方向へと体が動いて体勢を崩した。床に当たる右半身からの痛みはすぐに脳に伝わった。しかし、それよりも先に目の片隅から入ってきた情報の方が深刻だったのか、そう痛みは感じなかった。
下から床をえぐり取るように炎が近づいている。僕は両脚を使ってその場から離れる。その時ばかりは流石に傷を負った。爆発にでもあったかのようにふわっ、と僕の体が浮かんだ。前転で受け身をとってはみたが、体は悲鳴を上げている。相当な威力を持っているようで侮っていたところなのかもしれない。
しかし、まさかこうも簡単に状況をひっくり返されるとは思ってもいなかった。これが圧倒的な力の差というものなのだろうか。こちらが頑張って頭を使って、自分の持てる力全てを使ってジリジリと押していた状況でも相手はただの一振りでその状況を返してくる。この人の遊びに付き合える人はきっと相当な力を持っていたに違いない。諦念が段々と出てきた僕には開き直ってそんなことを考えていた。だが、いくら考えても答えなど出てくるようなものでもない。それに、戯言に頭を使う暇もない。
「まだフランと遊べる?」
「ええ。」
この回答には後悔はしていない。だが、体は満身創痍そのものだった。
「フラン!何してるの!?」
遠くから聞いたことのある声が聞こえてくる。その声はとても刺々しいが何処か優しさのある声だった。何と言えば伝わるのだろうか、考えている余裕もなかった。
「ごめんなさい。」
ワナワナとしているフランドールを見てこの人は怯えている存在なのだろうと勝手に想像した。僕にはどうしてそのように感じるのかは分からない。まだまだ紅魔館の事については知らないことが多い。
「貴女は力があるんだから。もう少し教えてあげる必要があるかしら。」
その声はパチュリー・ノーレッジ。またの名を七曜の魔女。彼女はつき、火、水、木、金、に加えて土、日を扱える。五要素しか扱えない魔法元素だが、彼女にかかればそんな壁は超えているものだった。
それに比べて僕は風と陰と火くらいだろうか。後は魔法陣が少々。勝てるわけもなかった。
「それはやめて。」
「良い、フラン。その子は前の青年よりも弱いのよ。同じように遊んじゃ駄目じゃない。」
「はい、ごめんなさい。」
フランドールは先程まで持っていた炎を具現した大剣はどこかへと消えていた。そしてスカートの裾を強く掴んでいるのを見るに、相当我慢きているように感じる。僕はその姿がかわいそうだと思えた。
「私に謝る必要はないわ。」
「ごめんなさい、お兄さん。」
フランドールさんは僕の事を見ていた。そして頭を下げている。それだけだった。それがどれ程のものであるのかは僕は考えていなかった。
「次、フランドールさんに話しかけた時は勝つ時です。待っていてください。」
当分の目標はそれだろう。僕にはまだやれる事がある。その姿を見て、小さく興奮したような表情を見せたフランドールさんは僕の事を快く送り出してくれた。
パチュリーさんは、と言えば、僕は見ていない。