東方魔剣術少年   作:mZu

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第52話

赤い土と何処か息の苦しくなる環境で黒い何かが立ち込めていた。この場所がどこであるのかは分からないが危険な場所であることには変わりないと思う。それほどに嫌な空気が流れていた。

 

「此処は一体?」

僕には状況が何も分からなかった。確か、僕は隠岐奈さんと交戦していた最中に扉の中に入り、いつの間にか此処まで来ていた。何を言っているのかが分からない、自分が。状況はつかめないが取り敢えず誰かいないか探すことにした。それと何がいるのか、どのような食事を摂るのか。こういう時、焦って行動するほど仇を見ることはない、とお父さんはいつも言っている。あの人は本当になんだかんだでやっている。

 

「何処だろうね。」

何か聞き覚えのある声がしたのだが、幻聴だろうとその場で無視したが何か居る。僕は状況確認のために振り向いた。

 

「舞さん、どうして此処に。」

 

「僕はご主人様が大事に至らないようについて来たんだよ。」

舞さんはそのように言っているわけだが、何か違うような気がしてならなかった。しかし、こんな危険な場所に来ようと思うなんて相当だな、と思った。そしてありがたいと思った。

 

「私も。」

 

「里乃さんまで。」

 

「問題はないわね。」

 

「ええ、まぁそうですが。此処はどこだが、二人は分かりますか?」

そうすると二人は少しだけ悩んでいた。そんな中、僕は本当に呼び名が合っているのか不安になった。髪型は二人とも変わらずサイドを腰まで伸ばしたショートの髪型で曲がった烏帽子を被っている。服装の色合いと持っているものによって見分けがつくのだが、今回は手には何も持っていない。服装で判断するしかなかった。

 

「魔界だったけ?」

多分、舞さんが言った。

 

「そうだったね。」

多分、里乃さんが言った。

 

僕には何となく見分けがつく方法があったのだが、今は難しそうだ。

 

「魔界ですか。変える方法があれば良いのですが。」

 

「きっと見つかるさ。」

 

「そうそう。」

二人とも楽観的に思える発言をするが僕の中では相当参っているのは言うまでもない。何処にそのような発言をできそうな場所があると言うのだろうか。とてもそうとは思えない。

 

「そうですね。取り敢えず移動しましょうか。」

僕は何処か人のいそうな場所か、体を休ませることができる場所を探そうと思った。二人は僕の後ろを付いてくる。足音は聞こえないのできっと飛んでいるのだろうが、僕にな今のところそんな気力はない。状況は依然として掴めないわけだが、前に進むだけでも意味はあると思う。

 

「何か、聞こえませんか?」

僕の耳には何となく人の声が聞こえる。ただ状況が悪く、悲鳴ではある。何かに襲われているのだろうか。それともただの闘争というのか。

 

「いいや、何も聞こえないけど。」

 

「そうだよね。」

 

「兎に角行ってみましょうか。」

僕の判断でしかないが二人は何となくで不服そうではあるが付いてきてくれるらしい。それだけでも嬉しいものだ。多分、ご主人様が行くから私(僕)も付いていくだけなのだろう。

 

 

人よりも大きい獣、その獣は魔界という場所に住んでいる言わば魔獣というものだった。背丈は僕よりも少し大きいくらい。地面をがっしりと掴んでいる鋭い黒い爪と獰猛そうな顔つきをしている。そして、その下では二人の人間らしきこの世界に住んでいる人が尻餅をついていた。僕はいっても立ってもいられずに直進して魔獣の前に立ちはだかった。どうしてこうなったのかは分からないが立っているのだからもう仕方がない。

 

「ア、アンタ。辞めとけ。命無駄にするぞ。」

後ろからはそんな声が聞こえる。僕にとってはどうでも良い、と言うわけではないが心配をかけたな、とは何となく感じる。

 

「大丈夫ですよ。」

僕はこれだけ伝えた。そして獰猛な顔をした魔獣に切っ先を向けていた。その後ろで二人が、横からも二人が僕のことを見ている。どう映っているのか、僕には想像もつかないがあまりいい風には見られていないのはわかる。

 

「いやいや、命を投げ捨てるのはやめい。大事な命じゃ。」

 

「でも、ここで逃げるのもどうなんでしょうか。」

 

「まぁ、うん。なんかすまんかった。」

後ろの人は多分、魔界という世界の中で暮らしている方なのだろう。何とか村か集落なんかに着く事ができれば出る方法があるのかもしれない。

 

魔獣は僕たちの話に耳を傾けることはなく、右腕を地面から離して思い切り斬り裂く。

 

その速さはそれ相当のものでとんでもなく力が強かった。力任せ、そして一撃で仕留めるためのそれは僕にはかなり重たかった。

 

赤い土は僕のおかげで削り取られ、舞さんと里乃さんにはとんでもない迷惑をかけた。二人に受け止められたおかげでまだ何とかなったが誰もいなければきっと潰されていたのに違いない。それ程に強かった。お父さんのようなしなやかさはないのだが、力はそれよりもある。

 

負けてたまるか、何となくそう思えた。

 

「大丈夫なの?」

多分、里乃さんは僕の事を心配そうにしていた。地面に倒れていて、それを支えられていること以外は特に何も感じないのだが、何かあったのか、と聞きたくなるほど弱々しい声だった。

 

「そんな怪我を負って。」

その瞬間だった、腹部に三本の線が入っていたということに気づいたのは。流石は魔界に住んでいる獣だと僕は感服した。本当に何が何だか分かったものではない。それだけは感じた。

 

「結構いってますね。舞さん、里乃さん、応援お願いします。」

 

「はぁ、こんな状況で戦おうなんてとんでもないご主人よね。」

 

「本当に。やってあげようか。」

 

「恩に着る思いです。」

 

「「いくよー。」」

二人から応援をされて底力を引き出してもらった僕はその場から立ち上がる。何処からか湧き出てくる力には何か不思議な力が宿っているように思えた。それ程に二人が織り成す技は素晴らしいものだと思う。それだけではない。何かが変わったような気がする。それが僕にはどうして忘れられない快感へと変わるのはそう遠くはなかった。

 

何かが違う。何かが、それは謎でしかないが何となく黒髪を三つ編みにしている可愛らしいあの地蔵のことを思い出す。僕にもあの時の地蔵の気持ちがなんとなく分かってきた。

 

試したい、この力。

 

僕の気持ちが一つに揃ったところで僕はもう一度魔獣の元へと走り出した。それは人は無謀だと嘆くのだろうが僕の中にそれを考える余裕はない、いや、考える気がない。試したくて仕方がない、魔獣を倒したくて仕方がない、紅魔館に三人で帰りたくて仕方がない。僕は欲の塊なんだ、と強く感じた。だからこそ、それに純粋に答えるつもりだ。

 

魔獣が僕に気づいてその黒い固そうな毛に覆われた体躯を僕の方へと向けた。それがどのようになるのかはもう言うまでもない。

 

相手の判断は早く、僕の方へと足を向けて思い切り走り寄ってきた。僕としてはそう早いとは思わなかった、そう何かが可笑しい。ここまで相手の行動が見えるとなると僕はかなりの準備をこれに使う事ができ、尚且つ特に焦りなんてものも出てこなかった。ただ強いていうなら腹が痛い、そんな所だろうか。と言っても関係はないか。

 

右腕を上げてやや斜め気味に振り下ろしたがそれと交差するように僕は下を通り、魔獣の横を通り抜けた。それに相手は全く気づいていない、と思う。僕はそこから魔獣の腹に標的にして、素早く斬りおろした。

 

それに大きな声で反応する魔獣。僕の方を向こうにもあまりにも近すぎて見ることも出来なかった。今は魔獣の腹の下にいる。くるくる回っているうちは見ることも出来ない。そして気づいて潰しに来ようとも切っ先は上を向いているので刺さるだけだ。後はどのように隙を作るのかだが、それは後で考えておくとしよう。

 

上には黒い固そうな毛が無数に生えていて、少しだけ上下に移動をしている。呼吸しているのだろう、そして敵が見つけられなくて何ともならず、焦っていることからか、その速度は速くなっている。僕はその下で何となく居るわけだが、周りからの声がとても耳に入ってくる。上からの吐息、横からの声、自分が出す地面と擦れる音、その全てが聞こえてくる。感覚的ではあるが、鋭くなっているような気がしてくる。後は反応が追いつけばこの体で戦うこともできるだろう。

 

この痛みの走り続ける体でも。

 

僕はきっと戦えるはずだ。

 

僕はこの上の状況に飽きた。魔獣がのたうち回っている。そしてぐるぐるとその場を回り続けているこんな奴に劣勢であるのが。僕は切っ先を上に向けていた剣を自分の腰よりも下に構えた。そして地面と平行にしてそこから一気に持ち上げて二本の線を魔獣の腹に描き出すと魔獣が驚いてその場を跳ね上がった。

 

僕はその空中からこちらへと降りてくるのを待っていることにした。腰の周りに巻き込んだ己が剣を振るう。

 

それは一本の線となって魔獣の顔面を斬り裂いた。呆気なく倒された魔獣が顔面を滑り落としてその場で倒れ込んだ。即死なのだろう。動かす筋肉もありはしない。僕は息を吐き、その場に倒れこんだ。やってられない、それが最終的な感想になる。

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