あれから、何時間が経ったのだろうか。僕は何処かの集落か何かの家を借りてベットで横になる事にした。その場には鮮やかな紅色のドレスを着ている少し茶色にも似た髪の色をしている里乃さん。そして緑色のドレスを着ているどちらかといえば笹の色をしている髪の色をしている舞さんが僕の横には居た。この二人を僕は何時間悲しませていたのか、それが不安だった。
僕は腹を抉られた傷を針で縫って貰うことになった。何十針なのかは忘れたがかなりの痛みはあった。そのうち、その声を出せなくなったのをこの二人はどれだけ間近で見ていたのだろうか、僕にはそれが心配だった。
舞さんと里乃さんだけではなく、こうなってしまってどれだけの人が僕のことを心配しているのだろうか。それがどうしても不快だった、自分の過ちの重さに。
「やっと起きた。」
これは里乃さんの方だろう。目を閉じているとなんとなく分かるような気がする。
「いや、そうには見えないが。」
これは僕が助けた二人のうちのどちらかなのだろう。あの状況で冷静に声の判別をしている暇はなかったが、この声は間違えない。
「ううん、分かるよ。」
これは舞さんなのだろう。僕はそう思った。それだけではなく、何となく分かっているのは二人しかいない。偶に僕の部屋に来ては何かと添い寝を要望する。その時ばかりはそれに付き添っている。根性勝負なので、どちらかが寝るまで続くが、この辺りでやめておこう。嫌な予感がする。
「どうして?」
男の声だった。それだけは分かる。職人とか、そんなイメージが勝手ながらある。
「見ていたら分かるよ。おーい。」
これは誰の手だろうか。二人で一人みたいなところもある舞さんと里乃さんは僕の中ではあまり判別が付いていない。一週間ぐらいは同じ屋根の下で暮らしているはずだが。
「そうじゃないよ。」
「あ、そうか。」
密かに笑い声がしている。何かを企んでいるのだろう。
僕はそう思った。そして自分の体に重たいものが乗った時に軽く払いのけて起き上がる。
「寝かさせてくださいよ。ちょっと疲れました。」
「やっぱりね。」
後ろの二人がかなり騒いでいるが僕の耳には特に入ってこない。僕には上に乗っかって楽しそうにしている二人がいれば、十分だった。
「ちゃんと声は聞こえていますよ。」
左手を奥にして頭をポンポン、と軽く叩く。気恥ずかしそうに受けてくれる二人の上目遣いは僕を癒してくれる。そして心も体も軽くさせてくれる。それだけで僕は満足だった。
「ただ、今日は勘弁してください。結構痛いんですよ。」
「はーい。」
二人は元気そうに返事して僕の上からゆっくりと退いた。怪我を労っているのだろうが、それならもう手遅れである。
「アンタ、もう少し自分の体は大事にしてくれよ。」
多分二人のうち、若手なのだと思う方が舞さんと里乃さんを連れて行った。そして、僕と魔界で住む人と二人きりとなった。
「それで、兄ちゃんの剣はどこで手に入れた。」
「あれはお父さんから貰い受けました。」
「あれは師匠のものだと思う。確認してきた。」
「そうですか。まさか、お父さんもここに来たのですね。」
「そうらしい。ここは魔界なんて場所で瘴気が漂っていて人間ではとても居られないが、どうやら兄ちゃんには適正があるか、耐性がある。それはきっと遺伝したのだろう。」
「あまり何とも思いませんでしたが、そんな事があるんですね。」
「ああ、体が治ったら向かうといい。そう遠くもないはずだ。」
「なら、少し怪我を修復して欲しいです。今から向かいます。」
「は?兄ちゃんそれはダメだ。ちゃんと体を直してから帰りな。」
「それでは遅いですよ。帰り道さえ教えてくれたら後は自分で帰ります。」
「そんな問題じゃねぇ。ちった、自分の体のこと、考えろ。」
「その優しさは有り難いです。けど、だからと言ってここに居ては鈍ってしまう。それだけです。」
「休息も鍛錬のうちだとは思うが、もう良い。父親譲りだよ。そのわがままな要望。」
「そうなんですね。」
「お、おう。俺が何とかしてやる。傷口があるからしっかりと休んでくれよ。」
「分かりましたよ。」
僕はそこで傷口の手当てをしてもらうことにした。先程、二人が乗ったお陰で傷口が開いてしまった。あの二人には気づかれているのだろうか、そのことばかりが僕の頭の中を駆け巡る。
「でだ、師匠のところには向かうのか。」
治療の途中だが、話しかけてきた。そこまで気にするようなことでもなかったのだろう。
「そのつもりですが、どちらでも良さそうな気がします。」
「どうしてだ?」
「お父さんの物ですから。本人が行くのが一番良いんですよ。」
「そう考えるなら無理に行かない方がいい。」
「そうですか。」
「じゃあ、幻想郷への帰り方だが、法界という場所がこの上にはある。そこで命蓮寺へと帰らせて欲しいと言ってみることだ。下手な事はしなければ何も問題はない。」
「教えてくれてありがとうございます。」
「枠になんかはまらない兄ちゃんなら行ってこれるさ。」
とん、と叩かれたので僕はベッドから降りることにした。
「後、包帯を巻いてやる。少々、傷口が開いても大丈夫だろう。」
「有り難いものですね。」
「いいや、そうでもねぇよ。ちゃんと毎日洗い流しておけ。」
「分かりました。」
「あの二人を悲しませる真似はするなよ。そうじゃねぇと俺が許さねぇ。」
「そんな事を言わなくてもそのつもりですよ。」
僕はそれだけ言ってこの家からは離れた。空は赤い雲があり、曇天の空を描いていた。それだけで済むなら良かったがどうやらそうでもないらしい。
「早く行っちまえ。」
僕のその人を手を振って舞さんと里乃さんを連れて空の上にあるという法界へと向かってみることにした。僕は一番最初に飛び出したが二人は平然と僕の横にいる。僕はそれを軽く笑うことにした。