見知らぬ天井があり、と言うことでもなく、いつもの日常の時に感じる何ともないものであった。赤色の天井で周りもあまり変わりはない。
少し変わっているとすれば先人の遺産と僕の努力が積み重なった机くらいだろうか。それぐらいしかこの場所にはなかった。それ以外なんてものは何もなく、質素な部屋なのだと痛感させられる。
だが、一人だけ静かに佇む銀色のナイフのように目をしたメイドが居る。青色のメイドで冷たい感覚を覚えるその人には何処か近づきにくいオーラというものがある。何かしたのか、と僕は半身を起こしながら思った。
「何かしましたか?」
つい僕は不安になった。僕も目があっても何も話そうとしないその人は銀色の髪を三つ編みにしているショートヘアーの女性で腰には白色の前掛けをしている。それが微動だにしなかった。呼吸さえもしていないようで人形かのような見た目をしている。
「咲夜さん。何か話してくださいよ。」
「それは私ではなく、この人に聞いてください。」
咲夜さんはそれだけを僕に伝えてすぐに消えた。時間の操作によってその代わりを寄越した。少し言葉が悪いのかもしれない、自分よりも優先させるべき人物を連れてきたと言う方が正しい。
「心配かけましたね。」
「僕、これからどうしたら良いのか、と。」
「私も同じだよ。居なくなったら誰を頼ればいいの?」
こんなにも身近にいるなんてどこまで僕のことを信じているのか、自分が主人として扱ってくれるこの二人にはここ数日は頭が上がらないのだと思う。それほどに心配をかけたのかもしれない。
「ちょっとお父さんの性格が移っているようです。心配かけてすみませんでした。」
僕は優しく微笑みかけていたのだと思う。今にも泣きそうな目をしている二人に僕は安心させるしかなかった。何も考えられないが何もしようとは思えなかった。ただ、抱き締めるくらいのことしかできなかった。
「「ご主人の近くが一番安心する。」」
そう言ってくれる二人なのだが、そう思えばすぐに二人は僕の左右で横になっていた。掛け布団の上から横になったので暫く身動きの取れなさそうな気はするが退かす気も起きなかった。これが二人からの愛ならば答えるしかないのだろう、僕は覚悟を決めてそう思った。
「さて、二人は終わった事ですし、私に何か言うことはありませんか?」
「迷惑かけました。」
「青年とはよく似ていますね。」
咲夜さんは先程の表情とは打って変わって穏やかな表情をしている。それ釜かなり怖くて仕方がないのだが、満足そうにするならばもう何も言わない事にした。
「それに何かと人を惹きつける力もあるようです。」
「まだまだですよ。お父さんには勝てません。」
「その人はどうしても抜かしたい人ですか?」
「ええ。」
僕は短絡的に答えた。それぐらいで構わないのだ。
「ならば、今は休むことが大事です。」
その二人のことも大事に思いながらこの先を生きてください。
咲夜さんは帰りがけに一言、二言残して僕の部屋からは出て行った。その背後にはとんでもない影が潜んでいるようにも見えるのだが今は何も言わない事にした。言える自信がない。
「はい。」
「まぁ、慣れてますので。今日はお持ちしましょうか?」
「いえ、皆と食べたいです。」
「そう。了解したわ。」
咲夜さんは僕の今の姿を見て何となく微笑んでからゆっくりと扉を閉めていた。何かいけないことをしているような気もするが今はどうでも良い。かなり疲れているようで一人となった瞬間には気が抜けてしまった。それからの記憶は特に残っていないというわけでもないが部屋に入ってきた咲夜さんに起こされた挙句、レミリアさんにお楽しみだったのね、と言われる始末であった。僕はそれでも良かったのだが、なんとも言えない微妙な気分だ。
賽の河原という三途の川へと向かう前にある岸がある。その場所の一部には大小様々な石が無数にあるだけの誰もいない無人な場所であり、危険な場所として皆からは恐れられている。
ここでは幼くして亡くなった子供達の霊が石を積み上げる仕事をしているとか、していないとかだがそもそも知らない人や信じていない人には見えないと思われる。
しかしここで一人佇む人がいた。
三途の川を渡ってくるあの世の動物たちの霊。その霊たちは幻想郷を自分たちの力で支配しようと企んでいるらしいが本当の事は何も分からない。ただ、前に起こった悪霊の件があるので警戒はしていた。
しかし、ここで一人佇む人に纏わりついた動物霊は元々幻想郷で暮らしていた動物霊であるらしく、地獄の動物霊の裏切り者であるらしい。
「地獄を通るしかないのかな。」
サラサラとした黒髪を後ろで一つに結び高く上げた髪型をしている赤い服を着た巫女の姿をしているその人はそのように言葉を吐き捨てる。
それに動物霊は一言も答えるようなことはしない。
「まぁ、しょうがない。行けば分かるわよ。」
人間と一緒に向かって幻想郷へ攻め入るのを止めて欲しいのだとか。嫌な香りのしたその話に博麗 霊夢はお祓い棒を持ちながら気合を込めていた。そして地獄へ乗り込む選択をした。前の件もある、動物霊のいうことは本当ではないかもしれないが信じてみるしかなかった。
丁度その頃、紅魔館では。
水色が混じった青色をしたショートヘアーの髪に白色のナイトキュップを被ったレミリア・スカーレットと緊張してあまり話さなさそうな少年がいた。
一口、少し濃い赤色をしている紅茶を啜る。そしてティーカップを所定の位置に置くとテーブルの上に両肘を置いて少年の顔を見つめていた。
「今日呼んだのは話があるからなの。」
「そうなんですね。」
「興味深い話と驚く話があるけどどちらを聞きたい?」
レミリアは薄く笑みをこぼしながら少年の方を向いていた。そして艶めかしい目をして誘惑するように見つめていた。
「興味深い話で。」
「そう。じゃあ、どうやら三途の川では動物霊なんてものが発生したらしいわよ。それで一時的に力を貸してくれるそうよ。力を求めている貴方ならそう思うでしょう。」
背中にある大きな翼は今は折りたたまれている。白色に近いピンク色のドレスで裾や袖の周り、腰には赤いリボンをつけている。大小は様々だ。そのドレスを揺らしながら少年に顔を近づけていくレミリアはまるでサキュバスのように男を誘うようにしていた。
「それなら確かに興味あります。」
「でしょうね。行って来なさい。面白いものが見られるわよ。」
「まさかとは思いますが今日はそれだけですか?」
「特に言うことはないわよ。私も咲夜と同様に青年の放浪癖には慣れたものなのよ。だから、貴方がどれだけ色んなところを旅しようとも私たちは一向に構わないわ。ただ、寂しくはなるわね。」
「あぁ、そう、ですか。」
「ここで話している暇はあるかしら。行くなら早く言ったほうがいいわよ。」
「はい。」
少年は椅子を蹴飛ばすような勢いで立ち上がるとワクワクを具現化したような動きをしていた。先急いだ結果、転ばなければいいのだが。そんなことを思っていそうな表情でゆっくりと紅茶を一口、啜った。そして喉を通る余韻に浸りながら、未来で何が起こるのか楽しみにしていそうだった。